3.定番のセリフ
二十二歳の春。
陛下から王命を受けた。
曰く、結婚して子供作れ、と。
私は貴族の娘だし、もちろん政略結婚の意図を理解している。
今まで放っておいてくれたのが温情なのだ。
私の肩書きに遠慮して、譲歩してくれていたのだと思う。
だけどいつまで経っても私は結婚しないし、恋人の噂もない。
ということで、痺れを切らした王が命令を下した。
お相手はコンラート・フェアクロス。
歳は私のふたつ上。
貴族令嬢としては有り得ない行き遅れの私と結婚させられる彼には申し訳ないけど、これも貴族の義務。
フェアクロスの血を引く子供を産むから、それで許して欲しい。
……と思っていたのだけど。
「…………嫌だ」
「あらそうですの。それならそれで結構ですわ。国を出るだけですもの」
「それはもっとダメだ!」
それはそうでしょうね。
そんなことになったら、フェアクロス家は非難の集中砲火を浴びることになる。
「あれも嫌。これもだめ。子供じゃないんですから、残された選択肢でご検討いただけます?」
いい加減イライラしてきた私が返答を急かすが、コンラートは口を引き結んだまま喋らない。その彼の腕に、ゼフィラが縋った。
「ね、ねえ……離縁してあげましょう?」
「うるさい!きみが口を出すことじゃない!!」
恋人を怒鳴りつける。マイナス点。
彼への失望は底がない。
どんどん最低値を更新してくる。
よっぽどのクズね。
「どうして!?だってあなた……」
「お願いだ。話を聞いてくれ、リアライド。きみが望むならゼフィラは放逐する。もう女も囲わない」
コンラートはゼフィラを振り払い、私にすがりついてきた。それを今度は私が振り払う。
「え?遅すぎません?こんな土壇場になって、誠意を見せるから!と言われましても。既にあなたの行動によって私は失望していますわ。今からあなたが身辺を綺麗にしたところで、ようやくマイナスがゼロになるかどうかというところであって、プラスになるはずがないでしょう?」
挽回できるほどの行為ではないわよ?
あとゼフィラのことを軽く見すぎだと思う。
この様子だと遊びだったのでしょうね。
「きみに……嫉妬してもらいたかったんだ」
試し行為?最悪だ。
「これ以上話しててもキリがありません。明日のお昼までに決めておいてください。私と離縁するか、あるいは私が亡命するか」
離縁or亡命。
まるでチキンorビーフ?みたい。
「白い結婚を理由としない離縁は、どちらかに過失がある場合のみ。それくらいの泥は被ってもらえますわよね?嫌だと言うなら、国を出るまでですが」
「…………寂しかったんだ」
そんな、定番のセリフを言わなくても。
「コンラート様、酷い!私を妾にしてくれるって言ったのに!」
「なっ……そんなこと言ってない!勝手な妄想はやめてくれ」
「嘘!考えておくって」
「考えておくってだけで、妾にするとは言ってないだろ!?」
「私のこと、愛してくれていたわけではないんですか……!?」
目を潤ませるゼフィラに、苦虫を噛み潰したようなコンラート。
茶番ね。これ以上付き合う時間も暇もない。
こちらもやることがある。
私はすいっと扉の外を示した。
ここ、私の部屋なのよ。今はまだね。
「あとはそちらで話し合ってくださいませ。出ていってくださる?邪魔です」
「リアライド様も酷いわ……!コンラート様は、リアライド様を思って……!」
「出ていかないの?それなら強硬手段に出させてもらうけど、構わないわよね?」
こちとら、予備の魔道具はたくさん余っているのだ。
まだ聖力を流していないものは、ただの魔道具として使える。勿体ないけどここで出し惜しみするほどじゃない。
私は常に腰につけているポーチから、目当ての魔道具を取り出した。とはいっても、私の作る魔道具はとても小型。
小さな石に基盤を吸収させているからだ。
手に取ったのは、ガラス玉のような赤い石。
無言でそれを起動させようとすると、ゼフィラが悲鳴をあげて、コンラートに引きずられようにして部屋を出ていった。
……ようやく、静かになったわ。
私は疲れのため息を吐いた。
ベッドに倒れ込みたい。




