1.お命ちょうだい
妖精の森を出れば、ケイラド国の城内に繋がる。
だけどキリアンが言った通り、瘴気を生み出していた王子がいなくなったからだろう。城内の雰囲気はおどろおどろしいものから、静謐な雰囲気になっていた。
このまま、また一ヶ月半をかけて南下してオロラド国に戻るつもりだったのだけど、そうはならなかった。
「妖精と友達になったもん!もう、いつでもここに飛べるも~~ん!」
どうやらいつの間にかケイラド国の妖精と仲良くなっていたらしい。だけどケイラド国の妖精は、酷い瘴気に蝕まれて、長い休みが必要となるそうだ。今は休んでいるという。
「オロラド国の妖精とも顔見知りになったもん!任せて、だもん!」
ケイラド国の妖精は友達で、オロラド国の妖精は顔見知りなところが、妖精界にも人間関係……妖精関係?があることを伺わせる。とはいえ、今は一刻を争う事態なので、お言葉に甘えて妖精の森から、オロラド国まで繋げてもらった。
妖精の森を出ると、そこはジェーロの街。以前見た時より、少しだけひとが増えている。
国境の魔道具を設置したからかしら。でもふたつじゃ全然足りない。落ち着いたら、補強しに行こう。オロラド国のためじゃない。自己満足。
長い旅路に付き合ってくれた馬二頭は、その間に馬同士も親睦を深めたらしい。私の馬は、キリアンの馬が気になるようでよく近づいては、足蹴にされている。親睦……深められたのかしらね……。
オロラド国中央。ギネーヴァの森に戻ってきて、感慨深く思う。亡命を決めた時は、まだ初夏だった。今は夏真っ盛り。流石に黒のローブは暑い。でも脱げない。顔を見られたくないもの。
「そういえば、コンラートってどうなったのかしらね?」
あと蕗の国の王族も。今更だけど蕗の国って名前が美味しそうよね。蕗の薹、食べたいな。
「コンラートは……蕗の王族も持て余してるだろうから、もう解放されてるだろうな。向こうだって、オロラド国と争いたいわけじゃない。ただ……」
「私を釣る餌にしたかったんでしょう?」
言い淀んだキリアンの言葉を引き継ぐように言う。
「うん、まあ、そうだと思う」
「陛下は?」
「陛下は、カイウスが倒れてからやりたい放題だな。北の砦から戻ろうとして、それをレオンハルトが押し止めている状況だ」
レオンハルト……第二王子殿下か。
「宰相は、今回矢面に立たされたのが相当堪えたらしいな。魔道具の数が合わない。それも一個二個の話じゃない。何十何百という単位だ。それを国が主体でやってて、その管理を宰相がやっていたんだから、批判は当然宰相に向く。グンドウェルに行って、売り払った魔道具を買い戻そうとしたり足掻いていたらしいが、上手くいかずに足元を見られる結果になって、隠居するとのことだ」
「それはそれは……あのプライドの高い男のことだから、相当堪えてるわね、それは」
どうせ、グンドウェル国に売り払う時も居丈高になっていたのでしょう。条件を呑まないと、もう魔道具は流さないぞ、とか。言っていたのかもしれない。その魔道具を作ってるのは私だっつーの。
「ショックのあまり頭髪が薄くなったらしい」
「それは見たいかも」
「陛下の方は、新聞にすっぱ抜かれて、支持率が地を這っている。レオンハルトが北の砦から動かさない理由のひとつは、激昂した民衆が王の馬車を襲わないか警戒してるのもあると思うな」
「その状態で、陛下は王太子殿下を殺そうとしたの?短絡的過ぎない?」
目先のことばかり考えて、その先を考えていないように思う。キリアンが以前、相変わらずだと吐き捨てた理由がわかった気がした。
私たちはギネーヴァの森を抜けて、王都に入る。王都は、以前のような活気はなかった。まだ昼間だと言うのに、店を閉めているところも多い。今の情勢が理由、かしらね。王が王太子を殺そうとして、王太子は闇印が現れた。しかもこのタイミングで聖祈師本部は襲撃を受けて、その大半が多かれ少なかれ怪我をしている。看病に走るひとたちは、見習いか事務の人間ばかりで、王太子殿下の治癒はできない。
多分これ、計られたんでしょうね。聖力を持っている人間を標的にして、使い物にしなくするのが作戦だった。
城門で、以前王太子殿下から預かった指輪をキリアンが見せる。無条件で入れてくれた。
フードを取れとも言われなかった。警備が緩いのか、指輪の効力が凄いのか。何回か登城したことがあるから知ってる。これは指輪がすごいのだ。
普段はもっと警備はガチガチ。不審者なんて入れさせてくれない。
この指輪を渡したのは、王太子殿下にとっては賭けに近かったのかしら。あるいはお守りみたいな感じだったのかな。
こうやって託しておけば、何かあった時、私はともかく、友人のキリアンはいつでも来れるもの。
まあ、本人も今の状況を想定してのことではないとは思うけど。魔道具をすり替えられて、聖祈師本部を襲撃されるなんて思わないわよね。もはや王っていうより、テロリスト?
なんとこの指輪、王太子殿下の名前が刻印されている。だから、彼の部屋の前まで咎められることなく通ることが出来た。
この指輪、改めてやばい。
最初、王太子殿下はこの指輪、私に渡そうとしてなかった?こんなの、亡命する人間に渡していいものじゃないわよ。私が暗殺者と通じていたり、指輪を横流ししていたらどうするつもりだったのかしら。
キリアンがノックする。
「キリアン・ルア・グレイフォードだ。入れて欲しい」
扉を守るふたりの近衛騎士にキリアンが指輪を見せる。ふたりはキリアンの名前と、指輪両方に動揺していたけど、中に入れてくれた。やっぱりこの指輪、すごい。キリアンはともかく、フード被ったままの不審者度MAXの私ですら入れてくれた。
王太子殿下の部屋は、私室、その奥が寝室となっているらしい。部屋にはメイドが控えていて、キリアンに驚き、私に驚いていた。
前者は、どうしてこのひとがここに?の驚き。
後者は、どうしてこんな不審者がここまで?の驚き。
ここまできたら、もうフードをとってもいいでしょう。フードを払う。顔があらわになって、メイドたちはふたたび硬直していた。
陛下とフェアクロス公爵と騎士をぶっ飛ばして
亡命した元令嬢がまた現れたら、それはびっくりするわよね。
でも、断じて王太子殿下にお命ちょうだいしにきたわけではないので安心して欲しい。




