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聖祈師リアライド・デ・フェルゼの知略戦  作者: ごろごろみかん。
4.恨みも恩も忘れない

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12.ふわふわ

王都をちょっと見て回るも、めぼしい情報はなかった。

残された書物を読んでわかったことは、やはり正妃と第二夫人の仲が悪いこと、貴族たちは第一王子派と第二王子派で二分されていたことくらい。二派閥の争いはもはや水面下に収まりきらず、小競り合いなんかも発生していたらしい。


ますます、謎だわ。

王太子に指名されなかった第二王子ではなく、なぜ第一王子が国を滅ぼしたのだろう。第一王子が闇堕師なら、最初から狙っていたのかしら。

でも、ハンバリ・ラリソンの手記を見る限り、彼は優秀なようだった。破滅を好むようには見えなかったけど……。


瘴気は王城が一番酷い。その先を辿ることにして、私は馬を裏手に止めた。少し迷って、魔道具は馬に預けておく。

いい子にしててね。

私たちは、先程キリアンが発案したキリアンは結界担当、私は浄化担当という役回りで動くことにする。

魔道具の補助が無くなると負担は当然跳ね上がる。短期決戦だ。

あまり時間はかけられない。


「何分くらい持ちそう?」


「うーん……やってみないと分からないわね。ここの瘴気、濃度がおかしいわよ。ほら」


聖力をまとった指先を結界からだす。途端、弾かれるようにその場から小さな煙が上がる。濃度がおかしなことになっている。生き物が生存できるレベルじゃない。


「結界はどう?持ちそう?」


「リアライドの浄化があるからだいぶ楽だよ。ただ、一層だけだとすぐ溶かされるな。三層くらいは必要だ」


見れば、結界は何層も重ねられていた。だけどすぐに外側の結界が溶け、また新しい層が内側に生まれる。その繰り返しだ。これは……かなり、キリアンの負担なのでは?


「二時間にしましょう。一時間過ぎたら、何があっても後退する。それでいい?」


「うん、構わない」


話を終えて、私たちは城に足を踏み入れた。

城壁は崩れ落ちている。魔獣の爪痕もあるし、瘴気に蝕まれて崩れ落ちたのもある。多分、遺体も沢山あったのだろうな、と思った。だけど遺体も服も瘴気に溶けて、今残っているのはその残骸。

城門を通ると、広い円型のホールに出た。足元には、作りが丈夫なレッドカーペットが置かれているけどそのほとんどがちぎれ、溶けて、その切れ端だけが残っていた。窓は残っていて、ガラスは割れている。日差しは瘴気に阻まれ、入ってこない。室内は暗くてどんよりしている。


「ここは……多分、玄関ホールだったのね」


「ケイラド国の王城の地図は頭に入れてる。グンドウェルにいる時に覚えておいたんだ」


すごい、優秀。ケイラド国の王城の地図とか手に入るものなの?もう滅びた国なのに。市場には出回ってないわよ?

情報源はジョアン・デアーレか。


「最短ルートで行こう。王の部屋はこっちだ」


キリアンに手を取られて、歩き出す。

城内は驚くほど静かだった。魔獣がひしめいているかと思ったけど、そんなことは無い。こんなに、瘴気が濃いのに……。ギフトボックスでは入れ食いだったのだけどな。

壁には、色濃いシミが残っている。何のシミかは、考えたくない。


途中、陥没して使えない廊下や抜け落ちた階段があって、迂回する。本来なら二十分程度で着くはずの道のりが、遠回りしたために倍以上の時間がかかっていた。


「ここは大丈夫そう……かな」


キリアンが落ちてた剣を拾って、それを投げる。剣が落ちても崩落しない。

廊下の端をゆっくり歩いて、ようやく王の部屋の前に到着した。


この部屋が、一番瘴気が濃い。


扉は閉められたままだった。

他の部屋は扉は全開で、中には扉自体が吹き飛ばされているのもあった。それなのにこの部屋だけ閉ざされている。あまりに異質だ。

キリアンと、互いに目配せする。

やはり、キリアンも何かしら感じているらしい。


私は、人差し指と中指、薬指の三本を立てた。三。

薬指を折る。二。

中指を折る。一。


人差し指を折って──グーにした次の瞬間。私はパッと扉を開け放った。

すぐに、扉の裏に背をつける。キリアンも同じだ。


扉を全開にして、室内から私たちが見えないように姿を隠して様子を窺う。……何かが出てくる気配はない。


キリアンと目配せし、頷く。

中を見てみよう。懐中時計を取り出す。城に踏み入ってから、四十五分。そろそろ一時間。一時間が経過したら何があっても、退避する。引き際を見極めるのは、大事。


小声で、エリュンに尋ねた。


「なにか感じる?」


エリュンも小声で答えた。


「……気持ち悪いもん」


エリュンは体調不良。やっぱり、ここが瘴気の発生源。


「大丈夫そう?苦しいなら、妖精の森に避難していてもいいわよ?」


「……ううん。大丈夫もん」


エリュンは頭をグリグリと押し付けてくる。ふわふわ。あっ、触れる。エリュンは透過を解いて、実体化していた。疲れるから嫌って前に言っていたのに。よほど不安で、心細いのかしら。宥めるようにそのふわふわな毛を撫でる。うう~~そんな場合じゃないのに、至福!!とってもふわふわ!また撫でさせてくれないかしら。こんなビッグチャンス、そうそうないでしょうね。キリアンは撫でなくていいのかしら?

顔を上げると、キリアンは何か言いたげに私を見ていた。あ、そう。調査。調査ね。


「大丈夫なら、ついてきて。ローブの中、入る?」


ローブをめくると、エリュンは頷いて中に入ってきた。ふわふわ。可愛い。ぬくもり。


それから、私とキリアンは互いにひとつ頷いてから王の部屋に入った。王の部屋は、濃い瘴気で満たされていて視界が悪い。

慎重に足を進めると、奥に瘴気の塊──いや、ひとがいた。


全身にベッタリ瘴気をまとわりつかせて、地縛霊みたいになっている。

何これ、ホラー?

真夏のホラー?映画にありそう。

その場合、邦画じゃない。洋画だわ。

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