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聖祈師リアライド・デ・フェルゼの知略戦  作者: ごろごろみかん。
4.恨みも恩も忘れない

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8.噛みそう


そのまま駆け出して、エリュン妖精の森へと繋げてもらい、逃げ込んだ。

どれくらい走ったかしら?

体力切れを起こしたのは、私だった。そのままヘロヘロと崩れ落ちた私の横に、キリアンがしゃがむ。

呼吸を整えながら、私はキリアンを見た。


「ごめんなさい、突然引っ張ってしまって」


「……うん?」


キリアンは首を傾げて、耳を近づける。


「ごめん……ちょっと、音が、遠くて」


その言葉に私は血の気が引いた。

キリアンは私のすぐそばにいた。それであの絶叫だ。うるさいなんてもんじゃないわよね。鼓膜大丈夫かな。


「ごっ…………ごめんなさい!!耳は大丈夫?この声、聞こえてる!?」


身を乗り出すと、キリアンは苦笑した。


「聞こえる。大丈夫。少しすれば戻ると思う……けど、すごい絶叫だったね。あんなに声、出るんだ」


しみじみ言うので、私は自分がどれほどの声量を出したのか、我ながら気になった。耳を抑えると、リミッターが外れるのよね。突然街中で騒ぎ出すやばい女。これにドン引いて、エリーセが引いてくれたらいいのだけど。


少しして、キリアンの耳は回復した。良かった。

少し休んで、夜になってから移動を開始する。

もう、寝る時は妖精の森が安全なのでは?という意見に落ち着いて、宿は取らない。


近くにまだ蕗の国軍団が潜んでいるかもしれないので、馬は次の街で買い上げることにした。どこで鉢合わせるか分からないって、怖いわね。Gみたいな恐ろしさを感じる。


……多分、張ってたんでしょうし。

ネグマの街で、弟王子と鉢合わせたことをエリーセは知っているはず。

そして、私がネグマの街を出て、向かうとしたらオロラド国だと踏んでいた。だから、関所すぐのこのベルエナの街で張っていた。


これからはもうちょっと、警戒しないといけないわね。


次の街で馬を買い、北上する。

北上するにつれ、瘴気が濃くなってきた。エリュンはその影響をもろに受けて、だんだん小さくなってしまっている。

もはや今はぬいぐるみサイズからキーホルダーサイズに。これ以上はエリュンが消えてしまう。

ジェーロ領に入る時もとても辛そうだったので、ケイラド国にはついてこないでここで待っているよう伝えると、エリュンは嫌がった。


「嫌もん……!!僕も行くもん!」


そう言うけど、毛並みはパサついてるし、耳も元気がない。目もしょんぼりしているし、浮遊している場所もどんどん低くなっている。声も辛そうだわ。それに消えちゃうかもしれない。それは嫌。


「必ず戻ってくるわ」


「………そうやって、人間は置いていくって知ってるもん」


……口減らしの話かしら。

もしかして、過去エリュンがついていった人間には、そうやって捨てられたひとがいたのかもしれない。エリュンがそうされたことがあるって話じゃ、ないわよね?

私はエリュンと視線を合わせるように腰を曲げる。エリュンは泣きそうだった。

ううー、胸が痛むわね……。別に、本当に置いて迎えに来ないつもりは無いんだけど。

でもやっぱり、寂しくて不安なんだろうな。

ちら、とキリアンを見る。


「俺は、きみに同行する。ここには残れない」


「そうよね……」


キリアンとは約束しちゃったし、エリュンと待ってて、とも言えない。

私はエリュンを見て言った。


「約束じゃ、だめかしら?……不安?」


「契約……」


「ん?」


「契約、したら、安心するもん……。置いてけぼりにされずに、済むもん。僕は、きみから聖力を受け取れるから、弱らずにも済むもん……」


契約。やっぱりそういうシステムってあるのね。


そんなの全然お易い御用よ!……気分的にそう。でもなんかこういうのって対価がセットにならない?

僕と契約して魔法少女になってほしいもん!とか言われたらどうしよう。エリュンのこと信じてないわけじゃないけど、妖精って根本的なところから人間と違う。確認は必要。


「契約したらなにか変わることはある?」


「僕の体調が劇的に改善するんだもん」


「私側に変化は?」


「変化……うーん。僕も、人間と契約したことがないからはっきりとは断言できないけど……僕の力の一部を、使えるもん?」


「一部?それはどういうの?対価は何が必要になるのかしら?」


「僕の……ええと、僕が、空と自然と大地の妖精なのは知ってるもん?」


「ええ。あなたが自己紹介してくた」


というか今更だけど三つも兼ねてるのか。もしかしてエリュンってすごい妖精なのかしらね?


「僕の力は、自然に強く及ぶもん。たとえば、土地の浄化。大地の浄化。空気の浄化。流れを変えたり、中身を変えたり、そういうのができるもん」


んん?なんかそれって。


「だいぶ凄くない?」


「だいぶじゃなくて、かなりだよ。エリュン。それは、つまり空気の内容物を変えたり、大地の土壌の質を変えたり……天候を操ったり、そういうことができるってことであってるか?」


キリアンが聞くと、エリュンはぱちぱちと何度か瞬きした。


「空気の、内容物……?ううう~~~ん……うん、できるもん!難しいのは、分からない。でも、具体的に教えてくれたら、できるもん。昔は、巫女っていうひとのお願いを聞いて、それを叶えたりしたもん。最近は、瘴気で弱っちゃって、ちょっと、大地に元気を与えたり、霧雨を降らせたりくらいしかできなくなっちゃってたもん……」


私はひっくり返りそうになっていた。

エリュン、そんなにすごい妖精だったの?

そういえばなんか、えらい名前長かったものね。

巫女って、何年前の話?少なくとも十年二十年ではない。

多分エリュンはその昔、神様と崇められていた存在だ。


「どうしてエリュンはグンドウェルのギルドにいたの?……いるの?」


分霊はまだいるのだったっけ。

尋ねると、エリュンがにこにこと答えた。


「お願いされたからもん!巫女の、最後のお願いだったもん。この先の、この土地を見守ること。僕は、その子供の子供のずっと子供……彼らを見守っているもん」


……そっか。あのギルドは、巫女の子孫が立ち上げたものなのね。だからエリュンは、巫女との約束を違えず、あの地で、あの血族を見守っている。


「ええと、あとは対価?対価は、きみの聖力。僕は、契約主の聖力をもらって、力を得るもん。……僕は、大食らいだから、疲れさせちゃうかも、しれないもん」


しょんぼりとエリュンが言う。

そりゃあ、これくらいの大妖精だものね。

それくらいは仕方ないでしょう。

妖精は嘘をつかない。なら対価は聖力だけ。私にはギフトという名のチートがある。いける。

これならエリュンと契約できる。

私は笑ってエリュンに答えた。


「分かった。契約するわ。どうしたらいいのかしら」


エリュンが目を輝かせる。

それから、契約の仕方を教えてくれた。


「名前を教えて欲しいもん」


「名前を?でももう知ってるのではない?」


何回もキリアンに呼ばれているし。


「そうだけど、そうじゃないもん。僕は、妖精たちは、人間の名前を呼ばないもん。呼ぶ相手は、契約主だけもん」


そういえば、エリュンが誰かの名前を呼んでいるの、聞いたことがない。そんなルールがあるのね、妖精界。

私は頷いた。

改めて、自己紹介だ。


「私はリアライド。あなたと契約して、主になります」


リアライド、だけだとなんか寂しいのでつけ加えた。良かったかしら。エリュンの目がきらきらと輝く。良かったみたい。


「うん!僕は、空と自然と大地の妖精。エリュリリンエリュンだよ!名前を呼んで!リアライド!」


ぱぁ、と光が弾けた。これが、契約。

名前を呼ばれたからかしら。エリュンを中心にして、大きな光の輪が生まれる。

私はゆっくりと深呼吸してから、エリュンの名前を呼んだ。正式な名前を。


「よろしく、エリュリリンエリュン」


よし、ちゃんと言えた。

噛まなくてよかったわ。



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