7.恥も外聞もない
街外れとなれば、人気もなくなる。だけどこんなに騒いで、誰ひとりこないのはおかしい。ちらりと見ると、エリーセの部下らしき黒ローブの男たちが封鎖していた。
場の沈黙を破ったのは、エリーセだった。
「愛の深さはわかったよ。だけど、こちらとしても引き下がれない。俺は、リアライドに恋をしてしまったからな」
嘘つけ。私の魔道具を手元で管理したいだけでしょう。私の能力に恋をした、という意味なら正しいかもしれない。
「私は先程、気遣いに溢れ、他人になにかを強要することなく、自立しており、過干渉せず、不快な物言いをしない銀髪ではない男性が好みと言いました。エリーセ殿下はその全てに反しています。それに、蕗の国の聖祈師の扱いは、同じ聖祈師としても反吐が出ますわ。分かります?あなたは、舞台にすら上がれていないんです。そもそもの話、異性として見れるかどうか以前の問題です。私はひととしてあなたが嫌いなので、友人としても有り得ません。知り合いにもなりたくないです」
ちょっと、言い過ぎちゃったかしら。
一応、一国の王子相手に。
でも、これくらい言っておかないと懐柔できると思われたらたまらない。これで嫌いになったり、扱いにくい相手と受け取ってもらえれば万々歳。
私の暴言に怒ったのはエリーセではない。ゼフィラだ。
話聞いてたの?ぽーっとエリーセだけ見てるのかと思った。
「ちょっと!その言い草は何!?せっかくエリーセ様が、あなたみたいなツンケン女でもいいって言ってくれてるのよ!?あいっかわらず可愛くない女!こんな女が好きとか、コンラートも頭おかし~って思ったけど、ここにも異常者、お前のことよ!がいたのね!」
お前!とキリアンを人差し指で指す。
「ツンケン女で結構よ。好きでもない人間からの好意を受け入れるほど、私は人間できてないから。それよりあなたはいいの?好きなひとが、ほかの女口説いてるのよ?嫌にならないの?」
尋ねると、エリーセはきょとんとする。
「え?そんなの、エリーセ様が決めることだわ。私はエリーセ様のもの。それは変わらないもの」
…………理解に苦しむ。
ゼフィラに黙るように、とエリーセが片手を前に出す。それに、ゼフィラは機敏に反応した。すぐに口を閉ざした。エリーセは私たちのやり取りを聞いて苦笑している。
「なかなか手強いな。厳しそうだ。だけど、だからこそ燃える。俺はね、略奪愛っていうのもいいと思うんだ」
知らないわよ。そんな性癖暴露されても。
「だからこそ──奪う。俺と、結婚してもらうよ。リアライド。天才を敵に回すのは恐ろしい、がそれもまた一興。俺は楽しければそれでいい。血なまぐさい愛憎劇を繰り広げようじゃないか!」
あ、このひとやばい。
「ゼフィラ、耳を塞いでおいで」
と、エリーセが言うので私はその先を推測した。
そのため、先手を打つ。
まず、耳を抑える。そして、絶叫。
「きゃあああああああああああああああああ!!!!ああああああ!!!!」
恥も外聞もなく、叫んだ。心の底から、あらん限り。
「──」
エリーセの口が動いて何か言うけど、聞いてないもの。ノーカウントよ。
恐らくエリーセは、真名をカミングアウトするつもりだった。蕗の国の人間は、結婚する相手にしか真名を明かさないんだものね。
弟くんが使った手が、また使えると思わないで欲しい。
その手は既に見たのよ。
私の絶叫に釣られて、ぱらぱらとひとが集まり始める。
いくら封鎖していると言っても、これだけ叫べばひとも集まる。
どうしたんだ、何があったんだ、と集まったひとたちの中には、もちろん女性もいる。
よし、私の勝ちね。
真名を明かすのは、結婚する相手だけ。
この場で真名を明かせば、見知らぬ女性たちまで知ってしまう。ゼフィラは命令通り大人しくまだ耳を塞いでいるから、聞こえないだろうけど。
私の狙いを悟ったのだろう。
エリーセが舌打ちする仕草が見えた。
その瞬間、私は耳を抑えていた手を外し、代わりにキリアンの腕を掴む。
「今のうちに!」
飛び出すようにその場を駆け出せば、一拍遅れてキリアンもついてきた。音が戻ってきた世界では、蜂の巣をつついたような騒動になっていた。
私の絶叫、そんなに響いていたのかしら……。
今の私はリアライド・デ・フェルゼではない。貴族の娘じゃない、平民だ。守るべき矜恃もない。だから、恥も外聞もなくこんな真似を取れる。
本当に怖いのはね、守るものがない人間なのよ!




