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聖祈師リアライド・デ・フェルゼの知略戦  作者: ごろごろみかん。
4.恨みも恩も忘れない

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6.天才の無駄遣い

さて、どうしようかしら。ゼフィラは多分、私がリアライドだともう気づいている。至近距離で顔見られたものね。


このまま野放しにするのは……リスキーかしら?


このまま娼館にでも連れていこうかな。娼婦の言葉なら、本気で取り合うひとも少ないだろうし。

身ぐるみ剥いで、娼館の裏に投げ込む?そうすれば拾ってくれるんじゃないかしら。

そう考えて、彼女の手首を引いた時。ゼフィラの顔が恐怖に歪み、近くから男の声が聞こえてきた。


「まあ待ってあげてよ。そんな乱暴にしないで。可哀想に」


「!」


すぐ後ろから声が聞こえてきて、ゼフィラの手首を解放し、数歩飛び退る。現れたのは、銀髪黄色目の男。装束は……和装。


最悪だわ。蕗の国の王族だ。


「ゼフィラ、大丈夫かい?ああ、赤くなってしまってるね。可哀想に。リアライドは手加減もなく、掴んだね」


男は、ゼフィラの手首をとって怪我の確認をしている。ゼフィラはもう、今にも泣きそうだ。


「エリーセ様ぁ……」


高い声。コンラートの時よりあからさまだ。もしかして本命はこっち?

その時、ハッとした。

ずっと微妙に気になっていた。


ゼフィラはなぜ、ケイラド国とオロラド国の国境ジェート領ではなく、その先のフェアクロス領で行き倒れたのだろう?


推測は、すぐに確信に至った。

ゼフィラと、蕗の国の王族が親密にしているのが全ての答え。


「先に掴みかかってきたのはゼフィラよ。……おかしいと思っていたのよ。ゼフィラは、オロラド国に入国してすぐ行き倒れたと聞いたわ。だけど、倒れた場所はオロラド国とケイラド国の国境近くのジェート領ではなく、その先のフェアクロス領。瘴気に蝕まれているというのなら、ジェート領で癒せばいいのに、無理を押して前進した。結果、フェアクロス領で倒れ、聖祈師の世話になった。全部、蕗の国が関係していたのね?」


仕組まれていたのね、全部。

恐らくは、私を得るために。

だけど私は、コンラートと結婚してしまった。離縁させるために、ゼフィラは寄越された。恐らく、蕗の国から。

コンラートとゼフィラの出会いはとても可愛らしいものだった。だけどあれも、仕組まれたものだったのだろう。シナリオがあった。


私の言葉に答えたのは、ゼフィラだ。

彼女は得意げに鼻を鳴らした。


「ふん!ようやく気付いたの?そうよ。コンラートに抱かれていたのも、仕事!じゃなきゃあんな下手くそ男に抱かれないわよ!仕事だから、仕方なく、だわ!私の愛してるひとは、エリーセ様だもの!」


ゼフィラはエリーセという男の腕に抱きついた。エリーセ……女の名前。カインゼルの言葉通り、蕗の国では男女逆のミドルネームをつけられているのね。

エリーセは、抱きついたゼフィラに構うことなく私を見ている。ネグマの街で見た王族は、猫っぽい美形。こっちは、甘い感じの美形。蕗の国の王族、すごいわね。顔面偏差値が高い。ふたりだけなのかしら。両親もそうなのかな。

遺伝子ってすごい。


というかやっぱりコンラート、下手くそだったんだ。

仕事だから仕方なく抱かれてたけどあいつクソヘタ!と街中で暴露されたコンラートは、ちょっと不憫。でも自業自得。


「リアライド。ネグマの街では弟が世話になったね」


あ、こっちが兄。


「覚えがございません。私に話はありませんので御前失礼いたします」


「はは。つれないって聞いてたけど、本当だったんだ。リオの何がダメだった?顔?タイプじゃなかったのかな。ちなみに、俺はどう?」


何がどう?なの?隣にゼフィラを侍らせているくせに。

……不愉快。


「私の好みは、気遣いに溢れ、他人になにかを強要することなく、自立しており、過干渉せず、不快な物言いをしない銀髪ではない男性です」


つまりお前じゃない、と面と向かって言われたのを理解したのだろう。エリーセが苦笑する。ゼフィラは私たちと話を全く聞いていない。うっとりとエリーセを見ている。逆上せてる。まさにそんな言葉が的確。


「それなら──」


「あいにく、リアライドは俺と付き合ってる。控えてくれないか?」


腰を抱き寄せられ、そちらに体がよる。

びっくりして固まる私に、近くで聞こえてくる声。キリアンだ。……キリアン!?


顔を上げると、キリアンは真っ直ぐにエリーセを見ていた。目力、強いわね。攻撃力が高い。でも、これは良くない。キリアンの気遣いなのだと思うけど、蕗の国の友好国が求めているのはキリアン。

そっと離れようとすると、さらに抱き寄せられた。


「お前は……うん?その顔!どこかで見たと思ったら、キリアン・ルア・グレイフォードか!!相変わらずものすごい美人だな。なるほど、これならリアライドが落ちるのも仕方ない」


ああもう、ほら、気付かれちゃった。

こうなったらもう、体を離しても意味が無い。キリアンにされるがままになると、エリーセたちから見えない位置で、ポンポンと宥められるように背中を叩かれた。任せて、ということなのかしら。任せて、いいのかな。


「ああそうだ。俺が必死に口説いて、ようやく頷いてくれた。お前は、顔が良ければ女を口説き落とせるとでも思っているようだけど、そんな簡単じゃない。実際、俺は今まで何回もリアライドに振られてきた。それでも諦められなくて、執念で彼女のそばにいることを選んだ。彼女がお願いに弱いのを知って、無理に頼んだんだ。お前たちが入り込む隙間はない。自重してくれ。あと国に帰れ」


あ、ちゃっかり最後に本音を混ぜた。

しかし、すごい設定を盛り込んでくるじゃない……?必死に口説いてようやく、とか。

何回も振られてきた、とか完全なる嘘だ。

この場をしのげたとして、今後どうするつもりなんだろう。ちらりとキリアンを見るが、彼は真っ直ぐにエリーセを見ていて、その瞳に嘘はなさそう……に見えた。

その目の力強さに押されたのは、私だけではない。エリーセまでもが、苦々しげに口を開く。


「なにも、ひとりと決めなくてもいいだろう。俺は一夫多妻も、一妻多夫も賛成だ」


何言ってるの?このひと。


「理解不能だな。俺には受け入れられない。俺は、リアライド以外の女性は不要だし、リアライドにも、俺だけでいてほしい。もし彼女が愛人を持ったら、きっと俺はそいつを呪うだろうし、危害を加えてしまう。そうだな、殺してしまうかもしれない」


殺してしまう、その言葉で場がしんと静まり返る。稀代の天才が本気で殺そうとしたら、それは多分、果たせる。

誰が相手だろうと、確実にことをなすだろう。

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