5.ふたたび、相見える
ジャガイモ、もどき。
プラム、もどき。
ほうれん草、もどき。
椎茸、もどき。
とまた遭遇。
なるほど、山菜が妙にたくさん生えているし、季節感もバラバラだと思ったのは、ここが妖精の森だったからなのね。
そしてあの時にはもう、私は妖精の森に足を踏み入れていたのね。知らなかったわ。
手持ちの食料は乾燥パンと干し肉という旅装。
簡素な食事が決定していたので、少しだけ拝借していく。やっぱり食事って大事だもの。日々の潤いにもなるし。
私は気付かなかったけど、どうやらここには、珍しい薬草や、魔力が込められているという魔草も生えているらしい。
キリアンがテンション高く語ってきた。
「あれは、ムール草!?すごい。図鑑でしか見たことがない!すまない、リアライド。少しつんでいっても構わないか!?」
ムール草。ムール貝しか思い浮かばない。
貝じゃないの?貝っぽい草なの?
貝っぽいって何?
不思議に思ってると、ぶちぶちと手馴れた仕草で薬草採取するキリアンがやはりテンション高めに返答した。
「ムール草は、ネムリ草と同じ睡眠効果のある草なんだ。だけど、ネムリ草よりずっと効力が強くて、持続性もある。何より、無味無臭だ」
ムールなのに、無味無臭なの?
そこに驚いてしまう。だけどキリアンの驚きポイントは別らしい。
「だけど、誰も実物を見たことがない。だから幻の草とまで言われていた。作り話の、存在しない草だってね」
「そんなすごい草なの……」
「ああ。それにこれは、魔力耐性がある。ほとんどの薬草は、魔道具にしようとすると途中で消失してしまう。魔力に耐えきれないからだ。魔力耐性値がある薬草は稀有で、高値で取引されることも多い……のは知ってるか?」
おずおずと聞いてきたのは、私にそれは当てはまらないからだろう。私はその理論をぶっ飛ばし、力技で魔道具を作るから。
なにせ、チートがあるから……こういうこと出来るのだ。
だけどこうして、理論的に魔法論を積み上げる努力型の天才の前では、小さくなるしかない。チートで楽してすみませんでした。
「知ってるわ。そんなに珍しい薬草なのね……エリュン、こういう薬草はほかにもあるの?」
ふよふよと漂うエリュンは、私たちの採取を興味深けに見ていた。
「う~ん?エリュンにとっては、みんな同じ聖なる草もん……。違いがあまりわからないもん。あ、でも聖草はやっぱり違うもんね!近くにいると、ぶわーってなるもん!」
一人称エリュンなんだ、と私が思うのと、キリアンが「聖草!?」と叫ぶのは同時だった。
どうやら、この妖精の森は宝物庫さながららしい。世界の宝箱?なんてね。
その後、一歩歩く度にキリアンがお宝物を見つけるので歩みは遅々としていたが、結果、有用な薬草や聖草なんかも手に入ったのでウハウハだ。これで魔道具作りたいわね。せっかく高濃度魔石も手に入ったのだし。
一応、キリアンにもその話はしておこうかしら。
そう思って地面に這いつくばって芋堀ならぬ、薬草掘りをしているキリアンに声をかける。振り返ったキリアンはとてもいい笑顔だった。眩しい。顔は泥がついている。公爵家のご子息とは思えない姿だけど、本人が楽しそうだからいいのだ。
「この前、ここで採れた魔石なんだけど……」
キリアンに見せたら、卒倒した。
何でも、一粒の石が、ある国の国宝として保管されているものらしい。やば、そんなにすごいものだったの?
高濃度魔石の名は、祝石。
青い煌めきに、中央は銀。それがこの祝石の特徴だそう。何回使っても壊れることの無い永久に使用できる魔石。それは確かに、国宝レベルだわ。それがわんさか採れるこの神秘の森の危うさを、ようやく私は理解した。
神秘の森に行くには、妖精が道を開かなければならない。エリュンを見ると、エリュンは私たちがはしゃぐ理由がわからないようで、不思議そうに首を傾げていた。
「よく分からないけど、きみたちが楽しそうでなによりもーん!」
きらきらと光を帯びて私たちの周りを泳ぐ。
私とキリアンは、妖精の森の存在を、公言しないことを互いに誓った。こんなものが世に広まったら、間違いなく大変なことになる。この妖精の森を巡って、様々な国が戦火に包まれるだろう。
妖精は、危うい。無邪気だ。
ひとの欲が分からない。
危険だからこそ、妖精もひとを選んでいるのだろう。自衛本能みたいなものかもしれない。
妖精の森でたくさん遊んで、オロラド国への関所を抜けた先に導いてもらう。そこは、オロラド国の端ベルエナの街だった。
そして、ここから先は宿は一室にしようとキリアンと話した。
「やっぱり、兄妹っていうのが一番しっくりくるんじゃないかしら」
私は麻袋を背負い直し、キリアンがフードを深く被る。
「兄妹……まあ、それが無難だね。顔は似てないけど、そういう兄妹もいるだろうし」
「特に男女では、母似と父似と別れるじゃない?いけると思う」
そんな話をしていた矢先だった。
ドンッと背中に誰かがぶつかってきた。スリかしら?
ふふん、残念。背負ってるこのリュック型麻袋は、こう見えて布が頑丈なのよ。
何せ、オロラド国の聖祈師に配られたマントで繕ってるもの。流石に国から支給される制服なだけあって、頑丈なのよ、これ。
その代わりちょっと足元はつんつるてんになったけど、そこは仕方ない。
顔さえ隠せれば最悪上着くらいの丈になっても構わない。
背の高さから言って、結構高いわね。男の子かな、と振り向くと、そこには既に忘れていたひとの姿があった。
「ごっ、ごめんなさっ……ぶつかっちゃっ…………。…………えっ!?リアライド・デ・フェルゼ!?!?」
叫びたいのはこちらの方よ。
なぜかそこには、旅装姿のゼフィラがいた。フェアクロス公爵、何してるの?
どちらにせよ、こんな失態を招いておいて、コンラートとの再婚を求めるとか、どの面下げて言ってるのかしらね。
そのまま踵を返す。ゼフィラが悲鳴のような声を上げて「待ってっ!!」と言った。しがみついてくる。うるさいし邪魔。
「離してくれる?迷惑よ」
「その言い方!その目!間違いなくリアライド・デ・フェルゼよ!!髪は毛先が見えないけど、特徴的な色合いをしてるんでしょう!?見せてみなさいよ!」
ゼフィラが掴みかかってきたので、その手首を掴む。細い。ゼフィラの顔が歪む。
「痛い!!」
「そりゃあ不審者取り抑えようと思ったら、全力になるわよ。手加減されるとでも思ってたの?このまま衛兵の詰所まで行く?ちょうどよく、そこに関所があるわね。突き出しましょうか、不審者に掴みかかられました、って」
まあ、関所になんか行けば私もリアライド・デ・フェルゼとバレて大騒動になるでしょうけどね。だけど脅しを本気と受けとったゼフィラが怯む。ゼフィラは間違いなくフェアクロス公爵邸から脱走したのだろう。突き出されたら、そりゃあ困るわよね。




