5.横流し
「えっ?」
「これ、納豆ですわよね!?納豆よね?そうよね!?どうやってこれを?いえ、あれは魔法?魔法で出したの?お願い。同郷人を助けると思って、教えて欲しいの。どうやって作ったの?米麹って手に入る?お味噌汁飲みたいの……できれば、しじみの味噌汁…………」
納豆を食べながら、私は泣いていた。
感動。やばい。
ありがとう。納豆。
ありがとう、カインゼル。
おいおい泣きながら納豆を噛む私に、カインゼルは棒立ちになっていたが、すぐにハッとした。
「もしかしてあなたも……日本人、なの!?」
「元、日本人。転生者なの。も、ってことは、あなたも?蕗の国のひとよね?」
「確かに私は蕗の国生まれだけど……私も元日本人よ。転生者。それと、蕗の国に日本食はないわ」
上げて落とされた。
「ど、どうして?蕗の国はなんちゃって日本よね?ミラクルジャパンじゃないの?」
「ミラクルジャパン」
用語がウケたのか、カインゼルは楽しそうに笑った。
私の対面の椅子に座り、泣きながら納豆を貪る私を、嬉しそうに見ている。
「蕗の国は、どちらかというとヨーロッパ飯の方が多いの。ええと、そもそも蕗の国ってね?日本人が興した国みたい」
「ええ!?それなのに、日本食がないの?」
日本人なのに、和食への熱意はないの……!?
絶望を感じた私に、カインゼルは難しい顔になった。
「多分、私と同じギフトを授かったのだと思う。建国主は」
「ギフト?そういえばさっき、魔法を詠唱していたわね。もしかして、あれ?ということは、あなたのギフトは納豆を出すこと?」
「そう言われると、なんだか身も蓋もないけど……。でも、そうなの。私の授かったギフトは【任意の食べ物をいつでも出せるようにするもの】だったの」
それ、すごいわね。
非常食がいつでも手に入るってことじゃない?
私の考えがわかったのだろう。カインゼルは苦笑した。
「でもね、私、その時無性に納豆が食べたくて……」
「それで、納豆が任意指定されてしまった……?」
「そうなの。私は無限納豆製造機の異名を得たの」
「無限……納豆……」
無限納豆、キツそう。
一日三食納豆。一日で限界迎えそう。
せめて天ぷらなら。……胃が悲鳴を起こしそう。
卯の花の和え物。あれ、私好きなのよね。
あと湯葉とか。あああああ思い出したら食べたくなってきた。
「全部声に出てるからね?あと私も食べたくなってきたじゃない。しかもね、納豆、これ単体なの。タレつかないのよ。タレなし納豆、結構きつい。こればっかりはきつい。同郷人を探そうと思って納豆食堂開いたんだけど非難轟々。すぐ閉店したわ」
確かに納豆オンリーの食堂、海外で開いたら厳しそう。
「ああ、それでね?蕗の国に、和食がない理由。実はね、建国主が追放されたからなの」
「えっ?追放?どうして?」
「彼は、私と同じギフトを授かっていたと思う、という話はしたわよね?今から五百年以上前なんだけど、多分、その建国主って江戸時代とか、戦国時代から来たひとなのよ。彼が選んだ【任意の食べ物】は、多分……多分よ?」
含みを持たせて、カインゼルがこちらを見る。
ごく、と唾を飲んだ。
「くさやだと思うの……」
それは……追放されても仕方ない……かも……。
香害レベルMAX……。西洋ならもっと受け入れられないでしょうし。
くさやが好物だったのかしら。
結果的に、麹菌は得られなかった。
納豆菌と麹菌は別物だからだ。
だけど久しぶりに納豆を食べられて、幸せいっぱい。乾燥納豆も欲しいな。買わせて欲しい。定期購入をお願いしようかしら。
というか、食堂。納豆単体で出したから受けが悪かったのであって、ドライ納豆にしたり、酸味のあるスープに入たり、色々使い道があったのではないかしら。
異世界受けするかは分からないけど。
今度カインゼルに相談してみよう。
私もまた納豆食べたいし。
宿に戻ると、キリアンがデアーレ邸から帰宅していた。
食道の片隅を陣取って、キリアンからオロラド国の話を聞く。
どこからか、私がオロラド国を出たという話が広まり、北西部で不満が高まっているのだそうだ。
北西部は、ケイラド国との国境。ケイラド国の瘴気が広がりを見せたら、一番に被害が出る。
だからこそ、不安が不満に様変わりする。
王都をでてから、もうじき一ヶ月。
王太子殿下が言った期限だ。
「陛下は、王太子殿下に権限を奪われて北部の砦に移送中。今後はそこを拠点とするらしい。北西部の視察と銘打ってるが、実際は、不満緩和措置だな。暴動が起きた時、真っ先に狙われるのは陛下だ。それを理解して、いや、それを狙ってのことだと思う」
「北西部の瘴気はそんなに酷いの?」
私が残した魔道具はまだある。
それを上手く使えば、完全に瘴気祓いすることは難しくとも、蔓延はしないはずだ。
キリアンが呆れたようにため息を吐いた。
「それが、グンドウェル国に全部融通していたらしい。自分たちはいつでも手に入るから良いだろう、と」
「はぁ?」
いつでも手に入る、って、私がいるからってこと?私が作るから、だから在庫は残さず、私が作るものを片っ端から売り捌いていたと?
「信じられない。愚劣の極みね。それで、割を食わされるのは国民?宰相は何をしてるの?彼も責任を取らさられるべきだわ」
どおりで、私が国を出ると言ったら慌てていたわけだ。私が作った魔道具は全て、売り払ってしまっていたのだから。




