3.夢に見た生姜焼き
「瘴気で闇印が出るのが先か、盗賊に見つかるのが先かってところだな」
「そうよ。今まで目にも入らなかった格下の相手に嬲られるのってどんな気持ちかしらね?ようやく分かるんじゃない?無理に従わせられることの苦痛さを。ケイラド国は今とんでもなく荒れているそうだし、そのまま見世物小屋なんかにも連れていかれるかもしれないわね。なにせ、貴族ってとっても珍しい。ロア国に派遣されてもいいのではない?きっと高待遇が待ってるわよ」
「落ち着いてくれ。悪い。俺が不用意に話したからだな。だけど、メイリンはそれを知ったら必ず傷つく」
「メイリンには言わないわよ」
言ったら、メイリンは傷つくだろう。優しい子だから。
でも私はせいせいする。
「…………とりあえず、オロラド国を出てから考えよう?そうしよう、な?」
そうして、猛獣よろしくキリアンに宥められ、部屋に戻った。
確かにキリアンに言っても仕方なかった。実行するかどうかはともかくとして、あんなこと言われてもキリアンも困るだろう。
次からは心に秘めておかないと。
でも攫うならどうやって運ぶかが問題。
部屋に戻ると、メイリンが頬を赤く染めて、駆け寄ってきた。頬が薔薇色。可愛い。恋する乙女って感じよね。
どうやら、クレストとのデートが楽しかったようだ。
楽しげなメイリンを見てると私もほんわかする。
なんかメイリン、前世の職場の後輩に似てるのよね。新卒でドジも多かったけど真面目で頑張り屋だった。元気かな。
「あのね、リアライド!リアライドにお土産があるの」
私たちは、少なからず手持ちの金がある。
それは聖祈師として務めていたからだ。クレストは魔術師だけど。
このローブも、よく見るとオロラド国の印が入ってるのよね。どこかで処分しないと。
メイリンは、巾着から二本のリボンを出した。
色は青。
「ふふふ、私たちの瞳の色よ。お揃い!」
既にメイリンは、自身の金髪を青のリボンで結んでいる。シンプルな色合いだからこそ、良く似合う。
「すっごく可愛いわ!よく似合ってる!」
「リアライドもつけるのよ?ほら、髪貸して!」
ベッドに座らされて、その後ろでメイリンが、今朝編み込んだ髪を解いていく。
「本当に綺麗な髪。こんな髪色、見たことがないわ。リアライドは女神様みたいね?」
「人外っぽくて、ちょっと怖くない?未だに慣れないのよ、この髪色。私もメイリンみたいな金髪に戻りたいんだけど」
金じゃなくて黒でもいい。黒髪は落ち着く。
くすくす笑ってメイリンが、ふたたび私の髪を編み込んでリボンで結ぶ。
鏡の前に立つと、ちょっと人間らしさが加わった気がする。
エルフの女王様に人間成分が。
「似合ってるわ!お揃いね、私たち!」
メイリンが手を叩いて喜んでくれたので、私も嬉しい。
翌日カシアミの街を出る。
そのまま西部に直行。湖は、こんな時でなければ観光したかったけど、今は追われている身。王太子殿下の助力があるから、あんまり逃亡生活って感じはしないけど。
そのまま南下すれば、グンドウェル国の国境。関所に到着する。
王太子殿下が言っていたように、まだ触れは出てないのだろう。特に怪しまれることもなく、出国した。
そして、グンドウェル国の最北端の街。ネグマの街。グンドウェルは北側以外、全て陸地なので、海鮮を食べようと思うと、最南端まで行かなければならない。その代わり、山菜が豊富だ。
早速近くの食堂に駆け込んで、まずは食事の確認。大事よね、食事は。
麹菌、まだ諦めてないんだけどミラクルジャパンと名高い、いや私が勝手に呼んでるだけだけど。蕗国には、麹菌あったりするのかしら。
いや、メシマズらしいし、多分ないと思う。というか、食事がまずい日本とか日本じゃない。
「山菜バター焼きのお客様~!」
「はい!私です!」
元気よく手を挙げて、給仕さんに答える。
山菜バター焼きとか、めちゃくちゃ気になるわよね!未知の食材との出会いかもしれない。
置かれたお皿の上には、キノコと草が乗っている。これは椎茸……もどき。
これはマッシュルーム……もどき。
この赤い実は何かしら?クコの実っぽいけど。
「クリームスープのお客様!」
「あ、私だわ」
次にメイリンの食事が運ばれ、キリアンとクレストの料理が同時に運ばれてくる。
「いただきます!」
挨拶をしてからフォークを手に取って、一番気になっていた食材を刺す。
この緑の茎みたいな草。
もしかして、よ?
もしかして、これ……
蕨じゃない!?
一口、口に含む。
コリッとした食感。ヌルッとした粘つき。
間違いない!これ、蕨だわ!!
あ~~~~~醤油が欲しい!!
煮浸しにしたい!美味しい!
二十三年目にして、初めて日本を感じさせる食材に出会えた。
「あの、これなんて言う草ですか?」
「ああ、これですか?これはオロビ草。打ち身に効く薬草です」
オロビ草。グンドウェルの蕨ね。覚えたわ。
キリアンが、ジョアンを訪ねるという。
グンドウェルまできてしまえば、そこまで気を張らなくても済む。
だけどいつでも逃げられるように支度だけ整えておく。
もし、オロラド国からの要請でグンドウェル国に手配書が回ってきたら、そしたらグンドウェル国のさらに西南のシーズル国に逃げ込もうと思う。
シーズル国は、グンドウェル国、ロア国、オロラド国のこの三カ国の緊張具合を警戒しているようで、不可侵を決め込んでいる。
シーズル国なら、オロラド国から要請があったとしても、知らぬ存ぜぬで押し通すと思う。
メイリンとクレストの間では、メイリンが絡まれるのに慣れていく方針で話が纏まったそうだ。メイリンが美人なのは仕方ない。仕方ないので、その受け流し方を学んでいくとのことだった。
護身の魔道具をいくつか贈呈したが、クレストは魔術師だ。そんなものなくても、手段は多い。それなら、と対魔物用に開発した毒を提供しようとしたらドン引きされた。どうして。
私は、メイリンとクレストを見守りながらも地道に和食をどうにか食べられないか画策中である。
どうにかして麹菌、ゲットできないかしら。
もはや妄執。諦めきれない。
地味に私の頭は麹菌で占められつつあった。
昨日は生姜焼きを食べる夢を見た。醤油……。




