2.美人は大変
「ああ。だけどさっきも言った通り、俺固有の魔法を付与してしまった可能性が高い。それでもいいか?」
「いいわ。全然いいわ。あれが使える形に戻るのなら何でも構わないわ!」
食い気味に確認すると、キリアンがポケットから基盤を取りだした。
おお……!おかえり、私の魔道具!
以前は無惨に叩き割られていたけど、今はしっかり一枚のプレートになってる。
感謝しかない。既に涙ぐみそう。
やっぱり天才っているのね。私にこの手先の器用さは無理。途中で切れてさらに分割してしまいそう。
確認すると、元々の配置とはずれた動線がいくつかあった。でも、取説もない中で独自で繋ぎ合わせたのはすごい。センスが光る。
「あなたってやっぱり天才なのね……」
しみじみ思ってしまう。
なんちゃってチートの私と同列に語られてしまい、すまない。
「その天才っていうの、あまり好きじゃない」
おや?もしやこれは、あれか。
努力してるからこうなったわけであって、天賦の才、つまりチートじゃないよっていう?
確かにその通り。
そういう意味なら私が天才だわ。
「肩書きだけ豪華になって、動きにくくなるのは好きじゃないんだ」
照れ笑いするキリアン。
なにこれ?可愛いな。
まつ毛長くて羨ましい。マッチ棒乗りそう。
受け取った魔道具を確認していると、ひとつ変わったところがあった。
「あら?」
「ごめん。そこが多分、俺の固有魔法」
固有魔法ってなんか聞いたことあるわね。
そうだ、キリアンが天才と言われる所以。
彼は、独自で魔法開発してしまうタイプの天才なのだった。
「これ……ん?んんっ?」
見たことない魔法式。
読み取るのは難しい。
私に出来ることといえば、無限量の魔力と聖力で、頭の出来は転生前から変わらない。
でも、魔法式の基礎なら学んでる。
これは、風魔法と土魔法……いや違うわね。土魔法じゃなくて、雷?いや、天候系?
ああ難しい。英語しか分からないのに勘でフランス語も読み取ろうとしているくらいに難しい。つまり無謀。諦めた私は、解説を求めた。
「固有結界魔法」
なんですかそれ?
「ごめん。勝手に加えるのはよくないと思ってたんだけど、ここのターニングポイントを、こっちにズラして、この魔法式を加えれば、強化に繋がると思った。というか、それでしか修復はできなかった」
やっぱりあなた、天才の称号戴いていた方がいいと思うのよ。ありがとうございます。
「ひとつ、きみにお願いがある」
「何でしょうか私に出来ることなら何でも」
何せ、キリアンには恩がある。
魔道具を修復し、しかも上位互換にしてくれた。
魔法のランプに宿る精霊かしら?
「ケイラド国に行きたいんだ。一緒に来て欲しい」
「それは構わないけど……。というか、私も行こうと思っていたし」
「この魔道具、性能は上がったと思うど、その分消費魔力も跳ね上がってる。俺だと途中で力つきる。だから、リアライドにも同行して欲しいんだ」
なるほど、タンク要員。
任せてくださいよ。
「それならこっちも願ったり叶ったりだわ。あなたは天才って呼ばれるのは好きではないのかもしれない。でも、紛うことなきあなたは天才だわ。一緒に行動していたら、早くにケイラド国を攻略出来るかもしれない」
なにせ、ケイラド国の瘴気は凄まじいらしいものね。
私はチートバフ(ギフト)で瘴気に汚染されて死ぬことはないかもしれないけど、それ以外のことは後手に回ってしまうかもしれない。
キリアンのセンスと、推察力はピカイチだと思う。私が気付かないことにも気づいてくれそう。
「だけど、ケイラド国に行くのは、グンドウェル国に行ったあとよ?結構先だけど大丈夫?」
「大丈夫。あのふたりも少し、心配だしな」
「クレストとメイリン?」
「クレストは、あまり話したことがない」
部署が違うものね。
部署が違ったらそれも仕方ない。
「メイリンの方は……時々。親近感があるといったら、彼女に悪いかもしれない。気になるんだ」
おや?
「ちなみにそういう意味じゃない。例えるなら……親戚の子、みたいな感じかな。俺にはそんな相手いないけど、メイリンは……。色々あっただろ?タイミングがいいのか悪いのか、居合わせたことが何回かあるんだ」
キリアンとメイリンは、同期だ。
私が八年前、キリアンとメイリンが十年前、聖祈師所属となった。
メイリンは当時十歳で、その世代では聖力が一番強いと言われた、神童だったらしい。
「彼女は境遇が境遇だから、苦労したみたいだ。彼女を支えるクレストも。きみが現るまでは、聖力が一番強い聖祈師ということで、あちこち引っ張りだこだったらしいし」
「……知らなかった」
「きみが引っ張りだされてからは、やつらはきみに集中したからな。メイリンも言ってただろ。きみと親しくなってから、落ち着いたって」
キリアンは言葉を濁したけど、きっと、メイリンも同じようなことを言われていたのだろう。
たとえば、子供を作れ、とか。
聖力が強い聖祈師に求められることは、次世代にその能力を引き継がせること。それにメイリンは平民出身。後ろ盾もない状況だから、反論もしにくかったのだろう。
もしかして、だから怒ったのかしら。
コンラートと婚約するって事後報告した時、彼女は今までで一番怒った。
「そんな顔しないで。メイリンにバレたら、俺が怒られる。過去の話を勝手にするのはよくないしね。だけど俺は、きみが知っておいた方がいいと判断した。甘んじて怒られても来る。ただ、メイリンは先行きが気になるから、安全圏まで送り届けたい」
「分かったわ」
悔しかった。何も知らなかったことが。
私は、貴族の言葉は、ある程度跳ね除けていた。
それに子作りしろと迫られる程度で傷つくこともない。子作りの必要性もわかっていたし、子供が産まれたら可愛がるつもりだった。
割り切っていたからだ。
だけどメイリンはそうではなかったと思う。
傷ついたんじゃ、ないかな。
「泣かないで、リアライド」
「……泣いてないんだけど?確かにショックだったけど、泣きはしないわ。むしろ私、ものすごく腹が立ってるの。気付けなかったこともそうだけど、当時彼女の周りに集ってた虫たちに、腹が立つ。フェアクロス公爵と陛下は吹っ飛ばしたけど、足りなかったわ。心当たりある貴族みんな吹っ飛ばしてやればよかった。どうせなら」
今から戻る?いえさすがに難しいか。
イライラしながら答えると、キリアンが笑った。
「良かった。いつものリアライドだね。きみが凹むと、どうしていいか分からなくない」
私が凹むって滅多にない。
凹むより建設的に考えたいからだ。
今回の件で言うなら、もう二度とふざけたことを貴族どもが言えないよう、武力にものを言わせる必要があった。
私は、私が課せられた義務をこなすことに拒否感はなかった。だけどみんながみんな、そうじゃない。
「気遣ってくれてありがとう。でも、大丈夫よ。あなたの話はわかったわ。グンドウェル国に行って、まずは彼らの生活を整えることを優先しましょう。ふたりとも能力もあるから、生活には困らない、とは思うけど……」
メイリンの美貌はきっと、どこへ行っても目立つ。
その苦労を思うと、言葉が途切れてしまった。
キリアンも察したようだ。
「ふたりも考えるんじゃないかな。ひとまずは、オロラド国を出ることを考えよう。俺から話を振っておいてごめん。とりあえずオロラド国を出て、グンドウェル国領に入ったらまた考えよう」
「………そうね」
身を守る魔道具。もちろんメイリンも持ってる。
でも、言い寄られただけで吹っ飛ばしてたら、生活がたちいかない。
なにかいい方法はないかしら……。
というかクレストが完全に守り切ればいいんじゃないかな。クレストに護身具渡した方が早そう。
「王太子殿下には悪いけど、一回オロラド国は滅びた方がいいんじゃない?」
「すごいこと言うね」
建設的な思考って、どうやるんだっけ?
考えた末、出た回答はこれだった。
やっぱり許せないんだもの。
「それか、メイリンに迫ったやつらはみんな責任を取るべきよ。だいたい予測はつく。グンドウェルにメイリンたちを送り届けたら私、彼らを訪ねようと思う」
「それでひとりずつ張り倒していくの?」
困ったようにキリアンが言う。
「それだと足りない。身ぐるみ剥いで、ケイラド国に置いてくることくらいはしないと」




