7.選ばれたのは亡命でした
「ええ!?どうして?何かあったの?何があったの?」
メイリンを見てから、クレストを見る。
クレストは魔術師団に所属している。
聖祈師のマントは黒、魔術師団は紺、騎士団は白の着用を義務付けられている。クレストは今も紺のマントを羽織っていた。
まあ黒も紺も似ているので正直近くで見ないと見分けがつかない。ちなみに王家は赤。
聖祈師三人に魔術師ひとりのパーティー。圧倒的前衛不足。
「メイリンは、綺麗だろう?」
そこでクレストが口を開いた。
そういえば、クレストとまともに話すのはこれが初めてかも。いつも、私はメイリンと話すから。
「そうね」
事実なので頷く。
メイリンの美しさは妖精さながらだ。
「聖祈師になった時、迷惑行為が酷かったんだ。苦情を出しても、貴族とのコネがあるやつらばっかりで、全く相手にされなかった」
「そんなことが……」
そんなことがあったの?知らない。
どうして言ってくれなかったの、と言いそうになって言葉を変える。気付かなかったのは私。それなのにメイリンを責めるのはお門違いだ。
「誰?教えて」
迫ると、メイリンが苦笑する。
「昔の話よ。あなたと仲良くなってからは、全く無くなったの。ただ……」
そこで、気遣わしげにメイリンがクレストを見る。
「クレストが嫌がらせを受けるようになって……」
「あんなもの、大したことは無い。だけど、メイリンは気に病んだ。僕は、メイリンに迷惑をかけて付きまとうやつらが大嫌いだ。嫌気がさした。うんざりして、上司に何回も掛け合ったけど結果はお察し。ナシのつぶて。暖簾に腕押し。全く無意味。僕は気に病むメイリンをこれ以上見ていたくなかった。だからオロラド国を出たかったんだ」
だけど……とクレストは言葉を続ける。
そうなの、メイリンは、私と離れたくないから、と断っていたのだろう。
さっき、メイリンが言っていたように。
「……さっさと国を出ましょう。メイリンもクレストも、もうこんな国にいる必要は無いわ」
オロラド国の王太子殿下の前で堂々と批判した私に、王太子殿下は苦く笑うだけだった。
「リアライド。俺も同行していいか?」
声を上げたのはキリアンだ。
「どうして?」
「俺も、逃亡のタイミングを測っていたからだ。ひとりだと、捕まって連れ戻される可能性もあった。だけどきみが大々的に行動を起こし、カイウスの助力を取り付けられた今、最大のチャンスと見た。俺はグレイフォードの血が流れている。それは変えようのない事実。この血は、あいつらにとって垂涎なんだ。いつ寝込みを襲われるか分からない。そんな状態だったから、俺も早く国を出たいと思っていた」
それは納得のいく理由だった。
キリアンは、聖祈師になるためにグレイフォード公爵家を出た。縁を切ったのだ。
だけど、家を出たのはそれだけではないようで、彼はその美貌と、その青い血が理由で今まで様々なトラブルに巻き込まれてきたようだった。
聖祈師のほとんどは変わり者で、本部でも黒のローブを身につけ、フードをすっぽり被っているものが多い。それはキリアンも一緒だけど、彼の場合は顔を隠すためという理由が大きいのだと思う。
「わかったわ。それじゃあ、オロラド国を出るまでは協力しましょう」
その後キリアンがどうするかは知らないけど、国を出たいと思っていたなら、オロラド国を出るまでは一緒の方が都合がいいだろう。お互いに。
それになんと言ってもキリアンは天才だ。
彼の魔道具やら魔法やらは、逃亡に都合がいい。
王太子殿下が顔色悪く苦笑した。
「我が国きっての天才ふたりに逃げられるのは、痛手だね。だけど仕方ない。我々王族が招いたことだ。今私ができるのは、きみたちの信頼を回復するために何ができるか考えることと、腐った貴族の風通しを良くすることくらい。メイリン、クレスト。今更だと思うけど……言わせて欲しい。すまなかった。苦労をさせてしまった」
王太子殿下に謝られて、メイリンは居心地が悪そうだ。クレストは真っ直ぐに王太子殿下の目を見つめ返していた。
「陛下の指揮系統を奪おうと思う。だけど、完全な奪取は難しい。王直属の部隊なんかは、全貌すら分かってない。最悪、内戦になると思う。あ、もちろん冷戦ね。武力を用いることは、多分ない。そんな余力、今のオロラド国にはないし。互いの出方を窺うようなやり方になるかな。情報系統を乱すから、その間にきみたちはオロラド国を出るといい。ひと月は持たせる。それ以上は状況次第になる」
王太子殿下は本気だ。
彼は、私の件はきっかけに過ぎないと言ったけど、少し責任を感じる。やっぱり、さっきの指輪、貰っておいた方が良かったかしら。
「……魔道具なのですが」
「うん?」
「家族に、託しています。家族の身柄の安全を保証してくださるなら、活用してください」
家族にあてた手紙には、万が一に備えて作った魔道具の保管場所を記しておいた。
いざとなったら、その魔道具を使って亡命してね、という記述とともに。
「だけどもし、魔道具目当てに家族を脅したり、巻き上げたりしたら絶対に許しませんわ。報復に行きます」
私の言葉に、王太子殿下はびっくりしたように目を見開いた。それから、クスクスと笑う。
「うん、ありがとう。いざとなったらきみが来る、と思うと僕もだいぶ楽だ。早いところ権力争いを終わらせて、北西のケイラド国から流れる瘴気の対策と、東南のロア国の牽制に乗り出さないといけない。内部で荒れている時に攻めるのは定石。ロア国に知られる前に方をつけるよ」
ひとつ約束をして、私たちは王太子殿下は別れた。
離縁or亡命?
選ばれたのは、亡命でした、なんて、なんかのCMみたいなキャッチフレーズが頭をよぎった。




