5.怖
「ぐああ!」
「うぉっ」
「ギャッ!」
三者三様。
背後の騎士だけは耐えきったっぽい?
ちらりと振り返る。
玉座から崩れ落ちる陛下と、その背後に壁にうちつけられているフェアクロス公爵。玉座になにか仕掛けがあるのかしら?
陛下は吹き飛ばされていない。
後ろの近衛騎士たちは、扉側の壁に体をうちつけ、起き上がれない。
「これで私は重罪人?指名手配犯ですわね。このままここにいても捕まってしまうでしょうし、逃げます。さようなら」
「まっ……待て、リアライド……」
よろめきながら陛下が立ち上がろうとする。すごい根性。
いや、やっぱりあの玉座に何かある?
この魔道具は、対人用に作ったもの。聖祈師は貴重だから狙われやすい。各自こんな感じで自衛している。これは、やろうと思えばひとすら殺せるものだ。
初めて使った時、つまりコンラートをぶっ飛ばした時、危うく殺してしまったかと焦ったものの、彼は打ち身で済んだ。
無意識に制御していたらしい。グッジョブ私。
流石に結婚初夜に夫を殺した悪名は背負いたくない。
陛下は追ってこなかった。
追って来れなかった、と言った方が正しいかもしれない。
その足で向かったのは、聖祈師本部。
まずは家族への手紙を書いて、それを託す相手を探す。
この時間、メイリンはいつも中庭で日向ぼっこをしているはず。恋人のクレストと一緒に。
本部の裏口から中庭に出る。中庭はこぢんまりとしているので、すぐにメイリンを発見した。
「いた!メイリン。ふたりの時間を邪魔してごめんなさい。急ぎであなたに頼みたいことがあるの」
私が駆け寄ると、メイリンは目を丸くする。
メイリンは木のベンチに座っていて、その隣にはクレストも座っている。
クレストは黒髪に青目の、繊細な顔立ちをした青年だ。確か、十九歳って聞いた気がするわ。
「どうしたの?」
慌てて立ち上がるメイリンに、私は手紙を託した。
「急遽国を出ることにしたの。だからこれを、家族に届けてほしくて。あなたしか信頼出来るひとがいなかったのよ」
「待って、リアライド。国を出るって本気?何があったの?」
「陛下に、コンラートとの離縁は認めないって言われてしまったの。フェアクロス家の立場も考えろって。それで私、頭にきたから国を出ることにしたわ」
簡単にまとめると、メイリンは驚いていたけどすぐに険しい顔になった。
「離縁は認めない!?何様なのよ!?」
王様ね。
メイリンは憤慨していたが、すぐに正気に戻った。
「そういうことなら分かったわ。でも、ちょっと待って。リアライド、今日はまだオロラド国にいる?今日の夜まで待って欲しいの。渡したいものがあるから」
「すぐにでも出ようと思っていたわ。日没までなら待てる。それ以上は無理よ。追っ手をかけられる可能性が高いから」
「いいわ。それじゃあ、日没に王都先の【ギネーヴァの森】入口でどう?」
そこならたしかに、人目につかない。
手紙は必ず届けるとメイリンが言って、ふたりは慌ただしくその場を去った。
メイリンもクレストも忙しいからなかなか会えないって聞いていたのに、邪魔してしまった。悪いことをしちゃったわね、と思ったけどこれが最後だから許して欲しい。
☆
日没。
せっかくできた空き時間なので、旅に必要なものを揃えて回った。
私は五大属性魔法の火、水、木、雷、風を使えるので、自給自足の生活になっても食料の面では何とかなる、はず。
最悪、そこら辺の木を削って炙って食べることも可能なはず、だわ。そこまでサバイバルはしたくないので、保存食もいくらか買った。
オロラド国は横に長い国だから、南下すればすぐに他国に出る。目指すはグンドウェル国だとして、それでも歩きなら一ヶ月以上は優にかかる。馬を買いたいところだけど、流石に王都で買ったら足がつく。
買うとしても、王都ではなくほかの街か、あるいか農村あたりで譲ってもらった方がいいわね。
オロラド国西部に行けば、世界有数の淡水湖に面してるから、ひとは多いけど、観光地でもあるので、逆に見つかりやすいかも。
東部は一面海だから、食糧事情はそっちの方が助かるかも。
ただ、そうなると軍事国ロア国との距離が近くなってしまうのがネックなのよね……。
軍事国ロア国は、オロラド国を挟んだ北側、ケイラド国の隣国でもある蕗国と同盟を結んでいる。
この蕗国というのが、和を感じさせる国名に文化も日本寄りという、ミラクルジャパンみたいな国なのだけど、極力近づきたくない。
なぜなら蕗国はとんでもなく食事が不味いのだそうだ。
そして、聖祈師──向こうでは、聖なる遣い手というらしいけど、それを人身御供に捧げることで瘴気の汚染を防いでいる。
聖祈師としても極力近づきたくない。
東部に行けば、東北は、蕗国とロア国に挟まれる……。ここは、観光名所が近くてひとも多いけど、西部に行ってそのまま南下するのが無難かしら?
それなら、まずはこの髪を何とかしないと。
私は聖祈師本部宿舎の自室に忍び込むと、洗面台の前に立った。気配遮断機が効いているからか、全くバレない。
これは瘴気の強さを探る魔道具を作った過程で自分用に作った、聖力を誤魔化す魔道具。
聖祈師本部にも報告をあげていないので、誰もこの存在を知らない。
鏡の前に立ち、黒のローブを脱ぐ。
腰まである銀髪に、毛先にいくにつれ、色味が変わる。七色の色味がそれぞれ単独で、グラデーションカラーのように毛先を染めているのだ。
これは……目立つ。
いつ見ても、人外。
この見た目になって約十年が経つけど、まだ慣れない。
やっぱり人外。エルフの女王様?
「切れば目立たないわよね」
とにかくこの髪は目立つ。逃亡向きではない。
風魔法で、肩くらいまで切ってしまえ、と思い切って切ってみる。重さを無くした髪が、すごい軽い。
足には、七色に染まるグラデーションカラー銀髪が。
パッと鏡を見て、私は絶句した。
「色が戻ってる……」
さっきまで、肩あたりの髪は銀一色だったのに、切った瞬間色が変わった。
耳元あたりからのグラデーション七色になった。人外……。この色、移動するの?怖。




