表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒曜の怪物  作者: あらまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/16

最大最悪のバットニュース


 フィーナがユリウスの目を見て話せるほどに落ち着くまでに、三時間もの時間を要した。


「さて、それじゃあそろそろ話の続きをしてもよろしいかな?」

 作り笑いのユリウスに、フィーナは頷き同意した。

「ああ。すまない。頼むよ」

 それは従順というより、もはや破れかぶれに近かった。


「大変結構。まあまだ言うべきことはあるんだが……閑話休題も兼ね、どうして混沌街に来ることになったのか聞いても良いか? そして戻る伝手は……」

 フィーナは静かに首を横に振った。

「いや。わからないし、伝手もない。ただ、思い当たるフシはある」

「それは?」

「私は、アルハンゲルの大企業を調べようとしていた」

 ユリウスは怪訝な表情を彼女に向けた。


「そりゃまた……随分と……こう……アクロバットな自殺を……」

「言いたい気持ちはわかる。だが……聞いてくれ。アルハンゲルのメガコーポ、その最高責任者は……人じゃないんだ」


 時間が停止した。

 きょとんとした顔でユリウスはフィーナを見つめた。


「わかっている。突拍子もない、荒唐無稽なことを口にしていることは。それでも、信じて欲しい。あいつらは……」

「あー……うん。まあ、落ち着け。疑っているわけではなくな……」

「ん? 疑ってない? じゃあ、一体……」

「いや。とても言いづらいんだがな……みんな知ってる」

「――え?」

「みんな、知ってる。ゴミカスメガコーポの支配者が人間じゃないなんてことは。いや、むしろ人間の方がヤバい」

「いや、そんな。だって怪物なんて……」

「さっきの今だけどさ、なんか俺のこと忘れてない?」

 フィーナは目が点になり、ぽかんとした間抜け面を晒す。

 完全に、脳がショートしていた。


 怪物が本当にいることなど、アルハンゲルでは常識に過ぎない。

 そして、その支配者たちが人間から外れた存在であるということも。


 というか、どっちだろうとヤバいことに変わりはなかった。

 支配者が怪物だろうと、怪物を超える人間であろうと。


「まあ、外の世界にゃいないもんな。気持ちはわからんでもない」

「どういうこと!? 私の捜査能力でようやくつかんだ極秘情報が……」

「外と中じゃ勝手が違うもんさ。なにせ――今や怪物はアルハンゲルの中にしかいないんだから」

 フィーナは"はっと"した表情を浮かべ、ユリウスを見た。

「どうして……か、聞いても良いだろうか?」

「わからない?」

「ああ。わからない」

「……怖いんだよ。人間が」

 そう言って、ユリウスは鼻で笑った。


 怪物だなんだと言われて恐れられているが、本当に恐ろしいのは人間の方。

 だから怪物は追い詰められ、この混沌街(掃きだめ)に逃げるしかなかった。


「ちなみに百年以上の前の話だけどさ、支配者の一人は宇宙人だったぞ」

「はぁ!? さすがにそれは嘘でしょ!? 私をからかってない?」

「いやマジで。というかさ、サイバネティクス技術がどこから来たと思う?」

 フィーナは目を丸くした後、顔を顰め、絶望的な気持ちで頭を抱えだした。


 彼女は、本当に頭が良かった。

 限られた情報からでも、真実を導き出せる。

 だからこそ、逃げることは許されなかった。

 今、人類が当たり前のように使っている幾つかの技術が、明らかにオーバーテクノロジーであるという真実から。




 混乱の極致に達したからだろう。

 フィーナはぽかんと口を開け、遠くを見て茫然としていた。


 ユリウスは後頭部を掻き、困った顔を見せる。

 本当に、心の底から申し訳なく思う。

 まさか閑話休題がてらの雑談でより負荷を与えることになるとは。


 けれど、話さないわけにはいかないからユリウスはここで本題を、『最後の爆弾』を投下した。


「本当に悪いんだがさ、最大最悪のニュースがあるから聞いてくれ」

 ぴくっと耳を動かし、フィーナはユリウスを見た。

「そう。一つ、謎があったんだ。君が善意で私を助けたのは理解した。それでも、君が積極的に私に介入する理由がない。そして、これだけの情報を開示する理由も。何かあるんだろう? 私に話すべき、重要な事象が」

 まくりたてるよう、フィーナは尋ねる。


(やっぱこの嬢ちゃん頭良いな)

 頭の回転が速いとか、そういう話じゃない。

 明らかに会話を先回りしている。

 だてに名探偵を演じていたわけではないようだ。


「まあ、そうだな。単刀直入に言うとな、嬢ちゃん。あんたの命は保ってあと十日ほどだ」

「えっ?」

「十日以内に、嬢ちゃんは死ぬ」

「……ほわーい?」

「とりあえず、トイレの方に鏡がある。そこで口の中を見てくれ。話はそれからだ」

 呆然とした顔のまま、とっとっとと可愛らしい足取りで洗面台に向かう。

 そして少しして……。


「んなぁあああああああ!?」

 大きな、がなるような叫び声が轟いた。

 

 どたどたと足音が響き、そして再び叫ぶ。

「なにこれなにこれなにこれなにこれ!? ……ユリウス、何してんの?」

 両耳を手のひらで塞ぐユリウスに尋ねた。

「気にするな。馬鹿のサンドイッチを作っていただけだ」

 そう言って、そっと耳から離す。


「んで、なにこれ!? どうなってんの!?」

 ゼロ距離で最大音量。

 ユリウスの耳が、キーンと響く。

 サンドイッチを解除したことを、心の底から後悔した。


「……まあ、つまりそういうことだ」

「いや、そういうことじゃなくて……なにこれ本当に!? どういうこと!?」

 そう言って彼女は自分の口元……正しくは、その八重歯を指差す。


 可愛らしい二本の八重歯は妙に鋭く、突き出ていた。




 当初、ユリウスの目論見としては数日分の食料と金、そして仕事場を用意し、後は適当に放置する予定だった。

 外に返してやることが出来ない以上、後はここで一人生きてもらう以外ユリウスに出来ることはない。


 けれど、そうもいかない事情がここに見つかる。

 彼女は今、ユリウスの同類に堕ちようとしていた。

 すなわち……【怪物】に。


「とっくに滅亡(くたば)ったと思ってたが、しぶとい奴らだ。あの糞蝙蝠共が」

 ユリウスはそう吐き捨てた。

「蝙蝠?」

「ああ。嬢ちゃん。あんたはそいつらに噛まれたんだ」

「いや、ちょっと待ってくれ。蝙蝠で、この牙って……それじゃあ、まるで吸血鬼みたいな……」

「そう、【吸血鬼】だよ。嬢ちゃんを噛んだのは。そして嬢ちゃんも、近いうちにそうなる」

「いや……この科学の時代にそんな古典的なモンスターなんて……」

「いるんだよ。まあ、大方滅ぼされたけどな。それでもまだ生き残ってやがったらしい」

「じゃあ……私は……吸血鬼に……」

「ああ、吸血鬼になる。……そして、嬢ちゃんじゃ怪物となり果てたら生きていくことは難しい。特に、この混沌街ではな」

 フィーナは泣きそうな表情となるが、すぐに顔を引き締め、首を横に振った。


「五秒くれ」

 目を閉じ、思考を飛ばす。

 そして……。


「ユリウス、君にすべて任せる。失敗しても恨まない」

 そう、告げた。


 ユリウスは最初から助けるつもりであり、そして吸血鬼化に対して何等かの手段がある。

 そう察した故の、フィーナの判断だった。


「冷静になってくれたおかげで時間が短縮できた。本当は、ここで待っていて欲しいんだがな……ここだって絶対安全というわけじゃない。もしもの場合がある。だからさ、これを羽織って付いてきてくれ」

 そう言ってユリウスはフィーナに汚らしいマントを渡した。


「……顔を隠せと?」

「ああ。嬢ちゃんは目立ちすぎる」

 綺麗な金髪と、透き通るような肌。

 化粧品の入手が困難な混沌街で彼女は、あまりにも目に毒だった。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ