ジャンル:ラブコメ
「あんたっ……好きとかっ……空気読めし!」
「でも、今くらいしか言えないかなって」
「そもそもあんた――」「でも――」というなんか痴話げんかみたいなのが始まった。
それを受け、俺達も「どーする?」という空気になる。いやぁ、どうしようねぇ。
向こうもなんか敵意を無くし口喧嘩にお熱である。
かといって。武装を解除するのは違うよなぁ、とは思う。
ちょっと閃く。ミオの変幻自在な性質を活かして鞘を作ろう。んでそこにアカリの棒を仕舞っておけばなんかいい感じにならないだろうか。
というわけで鞘を作って棒を収めようと――。
「あっつっっ!」
ミオが跳ねた。
「ちょっと、あんた何やってんの!?」
「え、なんか《《いい感じ》》にしようと」
「いい感じに、って。……あっ、あたしの命牙……!」
「そう《《便利だから》》こうしようかなって」
「《《いい感じ》》? 《《便利だから》》?」
……なんだ、なにか空気が良くない方に流れている気がする。
「どうせ私のことも都合のいいヤツみたいに扱うんだ」
「え、なんでそうなるんだ?」
火の付いたミオはアカリも巻き込みかくかくしかじかと話す。アカリの表情が最初はぽかーんとしていたが、徐々に怪訝な顔になっていく。こういう時彼女らが何を考えているかとかは命牙は教えてくれないものだ。そして――。
「ユーマが悪い」
と、アカリがバッサリと切り捨てた。
「ユーマはその命牙から私たちの事を知ってるくせに、そんなぞんざいに扱うんだ」
「いやいや。むしろ大切だから鞘にしまおうと……」
「アタシの熱を「持つのもめんどくさい~」ってミオちゃんに投げたわけじゃん? ふつーに傷つくんですけど」
「いやそんなことは考えてないよ。なんでそうなるんだ?」
「……で、私に投げれば”いい感じ”に収まるって考えたんでしょ?」
「ええ? いやそういう話ではないような……」
なんだ? なんでこうなっているんだ?
――俺、なんかやっちゃいました?
「「ユーマ!」」
「ええっと……」
じりじりと後ろに下がっていく。と何かにぶつかる。
「ってかあーしはぁ……、おい聞いてんのかよ」
ぶつかったのは竜騎士(元?)だった。彼も彼で魔王・黒ギャルに問い詰められたらしく、じりじりと後退していたようだ。結果、俺と背中をぶつけた。
「……」
「……」
……ああ、分かってる。ここはあれだ。あの戦略を使う時だ。
かつての敵に背中を預けてくるっと回る。彼と位置が変わるような形になる。
「……ああん?」
必然、俺の前には黒ギャルがいるわけで……。
「ちょーどいいや。ユウシャ君さー、ちょっと聞いてよ」
「お、おう……」
命牙はある。ここで襲われても凌ぐくらいはできるはずだ。
「ああいう状況でコクるって、男の子的にどーなんよ?」
「え、ああ、そ、そうだな……」
どうやらこちらはこちらで同じような事を話していたようだ。
「まあその……告るのはやっぱ場の流れ、っていうか……」
「いやいや。どう考えても雰囲気でしょ! ムードってやつ!」
「でも心の声ってやつは結構大きくてさ、なんなら叫びたいまである、とは思う、ぞ」
「はぁ? そんなんね、まず空気作りでしょ。んで最大効果を引き出すんよ」
「でもさ、その、俺がやっておいてなんだけど、彼は多分死ぬ気でいたんじゃないかな?」
「あいつが? あんたに? まぁ、ユーシャ君くらいの力なら殺しも出来る、か」
「んで、そういう時って、悔いを残したくないじゃないですか。だからその、空気を読まない形になったけど、思いは伝えておこう、みたいな」
「あーしの近くにいて死なせるわけないじゃん。アイツほんと鈍感」
「そう思うのも結果論じゃないですか?」
「どゆこと?」
「彼の思いを今聞いたからそう思ってるだけで、もしかしたらもっと前から好きだったのかもしれませんよ」
「そんなこと……」
目線を外し考える黒ギャル。じーっと考えると若干顔が赤くなっている気がする。
「……あーしが距離感近かったから?」
「それは知りませんが、でも彼がいろんな思いを抱えていたのはホントだとおもいます」
「……」
「じゃなきゃこんなタイミングで告白なんてしませんよ」
「ぬぬ……」
……なんか普通の恋愛相談みたいになっている。別に俺だって経験豊富なわけじゃないし、なんなら俺もこの後(?)決戦が控えてるわけだし。
「……その、男子が言う好きってさ……どんなもんなの?」
「世界一くらいには思ってると思いますよ」
アカリとミオに挟まれている俺が言っても説得力がないが。
「~~~、そう、わか、った」
黒ギャルは考え込むような体勢になる。一件落着、か?
「……で、お前はどうなんだよ」
「お、俺?」
「あの女子の……黒い方とくっつくんだろ?」
か、簡単に言ってくれる……! そんな簡単にいけば苦労はしないって……!
一歩下がった。その時再びぶつかる。
***
「えっと、ドラグナー、君? でいいのかな?」
「……僕に名前はないので」
「え~。じゃあリュウ君で」
リュウ君……と復唱するリュウ君。彼もまた変な状況に巻き込まれた可哀そうな人物である。
「ねえ聞いてよ~、ウチのユーマがさ~……」
「そうそう。ウチのユーマがさっきね~……」
かくかくしかじか。これまでのあらすじを語った。
ついでに身の上話も。
「どう思うリュウ君?」
なんて話が飛んでくる。それに対してリュウ君。
「それは彼が悪いですね」
とバッサリ。凄まじい切れ味であった。
「僕ならそんなことで迷わせません。はっきりと言います」
そのアンサーの一瞬きょとんとする二人。しかし。
「そ、そうだよねぇ! やっぱりユーマが悪いんだって!」
「いや……でも、その……」
言い淀むのは言われる側、ミオ。
「ムードっていうか、タイミングっていうか……」
「何言ってるのミオちゃん! 早い方が全然いいって!」
「わ、私の準備が出来てないっていうか……。あ、アカリだってっ、どうせ自分の話じゃないって思ってるんでしょ?」
「まあ確かに無くはないと思うけど、今はミオちゃんの話じゃん?」
「自分がされる側だと思って考えてみ?」
それに即言い返そうと口を開いたが回る頭が弾き出したのは恥。
「でっ、でも、告白は……。あうう……」
アカリの頭から湯気が出る。そこへ切り込むのはリュウ君だ。
「受け入れるかどうか。それだけの単純な話じゃないですか」
「いや……それは……」
「気にいらないならそういえばいいんです」
「そ、それは違うよ! 勇気を出してくれた相手にテキトーに返すのは違うよ!」
その口論を聞いたミオの目が光る。
「リュウ君さ……告白される側に立った気持ち、考えたことないでしょ」
その指摘に顎に手を添えて考えるリュウ君。
「別に脈無しの相手ならソレでもいいかもだけど、相手が相手ならそれなりに慎重にはなるものよ」
「僕は――」
「あんたは勝手に玉砕でもいいとか思ってるんだろうけど、私らはその「玉」を丁寧に受け取る必要があるわけ。分かる?」
ミオの圧に押され下がるリュウ君。
「大切に思ってるのはお互い様。だったらどうするべきか」
更なる圧に下がる。……と、またしても背中をぶつける。
背中から伝わる「目の前から逃げるべき」という感覚を共有し、二人は再び位置を入れ替えた。
***
俺の前にはアカリとミオがいる。二人してさっきより機嫌が悪い気がする。
下手に口を開けない……そう感じ取った俺は黙るという選択を取った。するとアカリがビシッっと指をこちらに差しながら言う。
「謝って」
「……。えっ、それは、なんで?」
「謝って」
そこには男の言い訳が入る隙を感じなかった。圧倒的なギャルの領域。俺に成すすべなく……。
「えっと……ごめん?」
「何に謝ってるの」
「え、だって……」
「はっきりと。謝って」
な、なんだこれは。俺は何に謝るんだ。なにかヒントはあったか? うーん、一回魔王との会話を挟んでるからなおのこと思い出せない。
「……(むっすー)」
なんで頬を膨らませているんだ。俺が一体……いや待てよ。
さっき俺が魔王と会話してた時、二人はドラグナーと会話していた、はずだ。その時何かがあった……んじゃなかろうか。
だとすれば何か共通点があるはず。それに対して怒っているのではないか? ……それはなんだ?
「えっと、気が回らなくてごめんなさい?」
「(むすー)」
「空気が読めなくてごめんなさい?」
「(ふしゅー)」
「(あ)決断が遅くてごめんなさい?」
「(ぷくぷく)」
「(違うか)はっきりしなくてごめんなさい?」
「ん!」
これが正解らしい。何がはっきりしないんだろう。俺のスタンスは途中から完全に固まったものだと思うが……。
「向こうの男の子もそうだけど、中途半端はよくないよ。うん」
「(ここで質問したら面倒になるだろうから黙る)」
「だからこういうときは……こう!」
突然体が引き寄せられる。ふわっと浮いた体はそのまま、もにゅ、っと。ミオと引っ付いた。体がべったりと付いて顔も数センチでくっつくほどに。
「っ、アカリ!」
割と本気めに怒鳴るミオ。
「ふーんだ。そのままちゅっちゅべろべろしちゃえばいーんだ」
「何を言ってるんだ!?」
「好きがどうとかうだうだ言うほうが悪いんだ~」
「……」
密着した体だからミオが震えているのが分かる。この震えは……。
「アカリーーーーー!!!!」
アカリの床が突然爆ぜる。同時に体の密着が剥がれた。
「さっきから黙ってれば……好き放題言ってくれて……ッ」
まずい。怖い。良くないことが起ころうとしている。そして同時に――。
「あーーーーーー!! あーしも無理!!」
反対側で何かが爆発した。
「こ、これは……」
なんだかマズイ感じがする。魔力もそうだがそれ以外の、感情みたいなものが渦巻いている。
そしてその渦の中心は……俺。
「「「こうなった責任を取れーー!!」」」
……こうして、魔王城は木っ端みじんとなった。
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