VS魔王(前編)
「いかにも玉座前、ってかんじだな」
俺たちは最後の扉の前に来ていた。
”嵐の王”のような圧力のようなものは感じない。だが代わりに熱量とでもいうべきか、圧倒的な力を感じる。
「いけるか? 二人とも」
「モチ!」「ええ」
二人から命牙を預かり、俺も万全の武装を持って構える。
「——いくぞ!」
最後の門を開けた。
門の奥はとても広い空間だった。
部屋は暗く、奥にあるだろう玉座ははっきりと見えない。
ゆっくり、ゆっくり近づいていく。そして玉座に至る階段が見えた。
ラスボス……魔王がいる。そう身構えて……——。
「勇者クンってヤツ~? やっぽー♪」
「……あ?」
暗闇の向こうから魔王らしからぬ声が響いた。魔王、どころかなんというか、この感じ……女子ノリを感じる。
——トコ……トコ……。と階段を下っているだろう音が響く。
そして恐らく俺達が立っているだろう所まで降りてきたところで、部屋の明かりが一斉に点く。闇から、魔王、その人が姿を現す――。
「わ~すごっ、命牙の二刀流? マジウケなんだけど」
「……?」
そこにいたのは、至って普通の女の子、に見える。だが外見からその特徴を言うならば……。
黒ギャル。その一言に尽きる。
言わずもがなこんがり焼けた小麦肌に、ブロンドの長髪をポニーテールにまとめている。髪を結いあげた関係でよく見える耳には黄金の耳飾りが輝く。他にも全身に《《デコ》》っているのが分かる。恰好はラフでビビッドなマゼンタの上着とシンプルな肌着。ミニスカにルーズソックス、そしてマゼンタなスニーカー。
どう見ても、日本スタイルの黒ギャルである。彼女もまた俺達と同じ転移者、なのか?
「ウチ、レソニアって言うんだ~。よろ~♪」
レソニア……なら日本人ではないか。外国のという可能性は……ないと思う。黒ギャル文化が海外へ出たという話は知らない。
まあ普通に考えて異世界の人間だろうが……。なんで黒ギャル?
「ねぇねぇ、あれって黒ギャルってやつじゃない!? 初めて見たんだけど! すご~!」
アカリが喜ぶ。大きく括って同じギャル同士、なにか思うところがあったりするのかもしれない。
魔王みたいなのがいて倒す……とファンタジーな頭でここまできた為、こんなタイプは初めてだ。どうにか戦わずに終わらせられないだろうか。
「あんたらさ~……」
黒ギャルが階段を降りきる。俺達との距離は数歩先といったところだ。
「地味だけど、カワイイじゃん?」
そんな言葉に対し、アカリが答える。
「ううん! アタシらよりもレソ、ニア? ちゃんの方がカワイイ! コーデとかめっちゃすごいじゃん! テンアゲなんですけど!」
「え、そう? ふーん……見る目あんじゃん」
そして、「ネイルみして~」「ん」みたいな感じでとてもフレンドリーな関係を築いていた。……俺は?
困惑しているところに袖を引かれる。
(どーすんのあれ)
(俺に言われても分からん。どうするのが正解なんだ?)
ミオに迫られるが本当にどうしていいか分からない。仲がよさげな二人をみていると倒すとか倒さないとかそういうのが分からなくなる。
しかし、魔王として、人間サイドに被害が出ているのは事実。これをなんとかするのが役目なわけだが……。
目の前でギャルなトークを交わす二人。しかし、次の一言で空気が変わった。
「——ってかさー……」
「あんたら、あーしを倒しに来たんでしょ?」
「……っ」
周囲の空気がズン、と重くなった気がする。
「いーよ、取り繕わなくて。あーしにとっちゃ年一? のイベントみたいなもんだし」
その言葉は本当に軽く、ネイルを見ながら雑談のように語る。それが逆に恐ろしい。自分の命綱を握られているような錯覚を起こす。
「いーよ。今なら回れ右しても殺したりとかしないし。《《おんなじ匂い》》がするもの同士、見逃したげる。てか逃げなよ。あーし今気分いいからさ」
だが俺よりも近くにいるアカリは動揺を見せない。その言葉に対しても雑談のように返す。
「確かに倒しに来たよ。それにレソニアちゃんがいい子っぽいのも感じる。でもね――」
静かに、アカリは距離を取った。
「アタシ、守りたいものがあるんだよね。それが平和なものであってほしいから……だから、レソニアちゃん、止めさせてもらうね」
決別の言葉を告げる。
ダル気に聞きながら、頭を掻いたりしながら、ため息も混ぜつつ、魔王・レソニアはしっかりと答える。
「——ダル」
深い息を吐いて言葉を続ける。
「なんか仲良くなれそうとか思ってんじゃない? いっとくけど、あーしはそんなキャラ、とっくに卒業してんのよね。……あーあ、ダルい。そのイケてる顔、ぶっ飛ばさなきゃいけなくなるじゃん」
轟、と魔力の圧が増す。これまで感じたことのない圧だ……!
「ブッ壊すケド、あーしに文句言わないでよね」
「っ、アカリ!」
流石に引いて見てはいられない。命牙を構え、アカリを守る様に前に出る。
だがアカリは冷静だった。静かに杖を構える。
「レソちゃん……」
静かながら、しかし火の着いた石炭のように魔力を練り上げるアカリ。
「何かを壊す手は、自分の手も痛めるものだって知ってる。——レソちゃん、アタシは手を伸ばすよ。友達になりたいからっ!」
その言葉と同時に魔力砲が放たれる。アカリの砲撃と魔王の砲撃がぶつかりあい閃光を散らす。
(っ……、すごい衝撃だが、互角、なのか?)
最強クラスの魔法の使い手であるアカリと同じ火力を持つ敵ギャル。その攻撃は苛烈そのものだ。
「証明してみせなよ。あんたなら守り切れるってトコをさあ――!」
隙の無い連続攻撃。だが俺も黙っていない。
次に飛んできた砲撃をミオの盾で防ぎつつ、アカリの棒による攻撃を試みた。今までの敵ならこれで十分な必殺技足り得た。だが今は――。
「——遅い、っての……!」
「なにっ!?」
相手は(恐らく)重力操作の魔法で俺の機動力を削いだところに、物理的な攻撃を叩きこんできた。魔法はミオの命牙で捌けたのを確認されたところで即座に切り替えて水銀のような変形自在なもので”殴られた”。
俺は防ぎはしたが壁に叩きつけられる形になる。
「——、助かった、ありがとう」
「ほら、集中!」
ミオがバリアのようなものでクッションを作ってくれた。おかげでダメージはほぼ無い。再び立つ。
「……。ふーん……」
激しい魔力砲の応酬が続く。だがピタッっと砲撃が止む。
? を浮かべるアカリ。
「あんたら、そーいう関係なんだぁ……、ふーん……」
何かを悟ったような事を言う魔王。すると魔王は、魔力で編んだであろう魔力の鎖を出現させる。その鎖に繋がれた存在が姿を現す。
「そっちはそっちでやりあっててよ。——返事は?」
”そいつ”は首に繋がれた鎖をギャリッと引かれ、魔王の前に出る様な形になる。そして武器を構え、俺と相対する形になる。
「お前……、ドラグナーか?」
その姿には見覚えがあった。少し前に戦い、逃がした相手、竜騎士。
彼? が首輪を繋がれて魔王に服従するかのような形になっている。
「……」
彼は何も発さない。ただ静かに槍を構えた。
「……ミオ、コイツは俺が何とかする。アカリの支援に回ってくれ」
「……分かった」
魔王の力は圧倒的だ。竜騎士ぐらいなら俺一人でもなんとかできる。竜がいない騎士だけならなんとかなる、そう判断した。
俺はためらわず棒を振るった。それを槍で受ける騎士。
「う……!?」
手応えが、強い。前に対峙した時とは比べ物にならないくらいに。
「お前、まさか……」
強くなった竜騎士との打ち合いが始まった。
***
「ほらほら! もっと動けよ!」
「ぬぬぬぬぬ~!」
砲撃、槍飛ばし、氷と炎と雷。いままでの力を振り絞り魔法による戦闘を続ける。相手の攻撃を捌く、それが手一杯だった。……だと思っていた。しかしそれは少し違う事に気付く。
「アンタもあーしと一緒。加減しないと世界を壊しかねないって分かってるんでしょ?」
「ぬぬ~~~~!」
彼女の言うことはアタリだった。正直、今までの旅で所謂全力はだしていない。
それがはっきりとしたのは命牙が出来てから。アレを見て確信した。アタシは多分、全力なんてものを出したら世界を焼きかねない。
それは嫌だ。そんなことをしたら”好きな人”に嫌われてしまう。
「かわいいねアンタ。でも、それが隙だらけッ!」
「きゃあ!?」
今のアタシは9割くらいの力で戦ってる。1割手加減してるのではなく、それは”超えてはいけない一線”だと思ってる。それを超えたらアタシは多分……——。
「ん?」
バキバキッ! と空間が裂ける。その特徴的な魔法はミオちゃんのものだ。回避のしようがないだろうその空間魔法さえ難なく抜ける魔王ちゃん。
「……」
「へぇ~ぇ。なに? 姑さんみたいな感じ?」
「……別にそれでもいいけどっ!」
ミオちゃんは相手の空間を破壊しながら詰めていく。空間ごと飲み込んでいく彼女の攻撃は魔王を引かせるには十分な火力だった。
「アカリ、無事?」
「うん、大丈夫」
アタシとミオちゃんで並び立つ。二人なら怖くない。
「……ふーん、……♪」
再び魔王ちゃんの攻撃が来る。それにはミオちゃんが素早く動き、魔法を叩き壊す。
「あっ……」
だがアタシには見えた。魔王が別の方向を見ていたことに。
その視線の先はユーマだ。
「駄目ッ!」
何かを察したアタシは先回りする。ユーマに手出しはさせない。
「……♪ ザマァ♪」
「えっ……」
敵の攻撃は無かった。代わりに――。
「きゃあ!?」
「ミオちゃん!」
ミオちゃんの背後から魔力砲が放たれていた。なんとか防ぎはしたようだが、威力を殺しきれず吹き飛ばされる形になる。
「……あはははは! なぁんだ二人、そーいう感じなんだ」
「っ……」
敵が何を気付いたのか分かりかねるが、なにやら楽しそうにしている。
「ねえねえ。フラれたってのはどんな気分?」
「! こんのぉ……!」
相手は何かを嗅ぎ取ったらしい。怒り任せに魔法を放つが全て防がれる。
「健気でカワイイ白ギャルちゃん。今どんな気分で彼を庇ってるの?」
「なんか勝手に話進めてるケドッ! アタシは納得してるしっ!」
「ふーん、じゃあこういうのはどう?」
そう言いながら指で魔法を行使する。身構えるが、何かが飛んでくる気配はない。
そこまで考えてハッとする。魔法が飛んできたのはこっちじゃない。ミオちゃんの方だ。
四方八方からの魔力砲をミオちゃんが受けている。防げてはいるが苦しそうだ。
「やめて!」
渾身の砲撃を放つ。魔王は難なく防いだが、攻撃の手を止めさせることに成功した。
「ホントにいい子ちゃん。ハッピーエンドとか好きそう」
魔王はいじらしい笑みを浮かべてご満悦。ムカツクなぁ……。
「ねえねえ、どんな気分であーしと戦ってるの? 純粋な疑問。なんでなんで?」
「ぬぬぬ~……」
その時、なんだろう、何かがキレた感じがした。
——本気でいこう。そう思った。
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