↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/34

決戦、嵐の王

 俺たちは歩みを進めた。まあ、浮いてるという方が正しいが。

 そんな高速移動で一日を挟んで二日目。空模様がただの灰色から紫色に変化してきたころ。


「めっちゃ、って感じじゃない?」


「だな……」


 俺たちは、多分、魔王城の前まで来ていた。


 どう見ても城っぽい石造りの巨大建造物が一本の太い橋の先にある。

 ゲームでいうなら、ここから先は引き返せない。というやつだろう。

 旅の終着点を目の前に唾を飲む。


「みんな、準備はいいか?」


「モチ!」「うん」


 返事を聞いた俺は「いつもどおりだな」と安堵し、橋の方へと進んだ。

 進み続けるその音は静かなものだった。敵の気配もないし、俺達も気を張っていて喋らない。

 そして橋の真ん中あたりに来た時、静寂は破られた。


――カッ! と空が瞬いた。そして感じる。強者が持つ圧力を。


(気配だけでこれくらいの圧力。魔王か、他にいるとすれば……)


 魔王城から一筋の光の線が現れる。一直線に上に伸びたかと思えば途中で止まり、線が点になって……——。


「アカリっ! 全力で防御! ミオは次弾に備えてっ!」


「りょー!!」


 寸秒後、凄まじい光と衝撃に襲われる。肌がビリビリとする感じ、この感覚はあの時に似て、いや、規模が大きいものだ。

 その攻撃は数秒続いた。苛烈な攻撃であるのは肌で感じるが、アカリの盤石の守りはビクともしない。


「——ハハ。流石、いや、また力をつけたか!」


 宙《そら》から声が聞こえる。あの時と同じ声だ。


「”嵐の王”!」


 かつて戦った、ソレと同じ空気感。だがあの時は影武者のようなものだった。今は違う。圧倒的、人間と比べるべくもない強者。


「ここまで来たお前たちだ。我の事はもう知っているはず」


 宙を鉄の馬? のようなもので駆けながら語りかけてくる。出力はもちろん、機動力も高い。


「——ならばこちらも全力を出す以外になかろうて!」


 腰が抜けそうなほどの気迫に押されそうになる。だがこちらとて黙っていない。こっちの出力だって上がっている。


「ミオ! 全力ブラックホール! アカリ! バリア張りながら援護だ!」


「わかった」「り!」


 ミオはほぼ予備動作なく敵の正面に空間の穴を開けた。光さえ飲み込む重力の嵐。普通に考えたらこれに対応出来るやつはいない。だが――。


「面白い! ハァッ!」


 馬を蹴って、なんとブラックホールへ直進していく。光さえ取り込む巨大な重力に潰される……俺もそう思っていた。しかし。


 ブラックホールに消えていく敵。しかし、消えるはずの赤い輝きはずっと残り続けた。あれはなんだ、と考えを巡らせていた、が。


「——きゃっ……!?」


 ミオが何かに弾かれたように体勢を崩した。と同時にブラックホールにも異変が起こる。

 光さえ飲み込む重力の極点。その中で敵の赤い輝きは消えることなく存在し続け、遂にはその光が重力の嵐さえも貫いて内部から崩壊させた。


「マジか……!」


 ブラックホールなんて超常現象をなんとかしてしまうとか。元居た世界の天文学者に見せてやりたいものだ。


「……ハハハハハ! 面白い! 面白いぞ!」


 敵さんは随分ご機嫌である。こちらとしてはかなり困る展開だが……。


「アカリ、命牙だ。俺が前線でヤツを押さえるから、ミオと二人で援護を頼む」


「り!」


 アカリの胸から命牙を引き抜く。そして前に出る。

 ……この命牙は切り札だ。こちらが持つ最大戦力。だが……。


 敵の槍? はブラックホールさえ破壊してみせた。命牙へのダメージはその術者に跳ね返ってくる。

 ”得物”同士で鍔迫り合いをするつもりはない。一瞬、隙を見つけて叩きこむ。意識するのはこれだけだ。

 ……それがどれだけ大変なことかは、分かってはいるつもりだ。


(俺とアカリの二人分の命を張る(ベット)。気合を入れろ、俺……!)


 敵に向かって飛んでいく。命牙の力も借り素早い動きで接敵する。既に出力は高めだがそれでも足りないと感じてしまう。


「——うおおおおっ!!」


「ハアッ―—!」


 俺は武器を振るった。それに真向から応じる様に敵は槍を振るってくる。


(やはりそういう戦いを好むか)


 俺の武器と敵の槍がぶつかった。

 俺の放った武器はいとも簡単に砕かれてしまった。


「ムッ! これは……」


 敵が砕いたのは命牙ではない。その力を流用して作ったサブウェポン。


「……」


 空中で静止する俺の周りには複数本の剣が浮かんでいた。

 翼のようにも見えるソレは、俺の意志で動くファ〇ネルのようなものだ。

 先ほどはその剣を束にして敵の槍にぶつけた。結果、ポテチでも割るような軽い手ごたえと共に砕け散った。


 俺は出力を上げ、展開する刃の羽を増やす。攻撃、防御、陽動、拘束。それらを同時にこなす手足の延長として刃を同時に操る。


「それなりに長く生きた我だがこの戦術は初めてみる! もっと楽しませてくれ!」


「っ……」


 羽を飛ばす。敵の上下左右、前後を羽で覆って逃げ場を無くす。その上でさらに――。


「ムンッ!」


 剣として飛ばすだけではなくそこを中継地とした魔砲攻撃を折りまぜる。……だが、敵はそれさえも見切っているというように砲撃を叩き落とした。

 その振り下ろした隙、あきらかな弱点に向けてアカリは砲撃魔法を放つ。それは体を捻って回避されてしまう。


「うう~~」


 アカリの攻撃タイミングは悪くない。なんなら完璧まである。なのに届かない。


 俺は敵の攻撃を受けない。敵は完璧にいなす。

 状況は膠着状態に陥った。そんな時だった。


「——甘いッッ!」


「うわっ!」


 凄まじい風圧と共にそれまで展開していた羽剣が全て壊される。敵の発破一つで膠着、と勝手に思い込んでいた状態は崩された。


「剣の複製、その合間を縫う砲撃。並みの相手なら十分だろう……。だがッ!!」


 敵は高らかに騎乗している馬の頭を上げる。


「我には届かん。《《真っすぐすぎる戦略》》如きでは、この我は倒せん!!」


 さらに圧力が増す敵。届かないのか……? だが、これ以上の戦略は……。

 そんな考えが頭をよぎった時——。


「ムッ、そこか!」


 敵は何もない空間へ向けて槍を振るった。……何もないのだからなにも起きるはずもない。そんな空振りを見ていた時、突然彼は体勢を崩した。


「ぬ……、馬が……」


 なんと彼は馬から振り落とされることになり、橋の上に足をつける事になった。


「我に一矢報いたか。《《陰湿な一手》》、だが大したものだ。前言は撤回しよう」


 何が起こっているのか分からないまま、俺も橋の上に降り立つ。

 一体なにが。と考えていたら後ろから声が掛かる。


「ユーマ……」


「ミオ?」


 不安そうなミオの声が聞こえる。彼女の目線は地面に向けられており、そこにあったのは――。


「……盾?」


 それは小さい盾だった。腕と少しの体を守れるような丸い盾(ラウンドシールド)。

 だがソレからは凄まじい力を感じる。魔法とは違うような、車酔いでもしたようなくらりとする感覚。これは、まさか命牙か。


「あっ」


 ミオが小さな声を漏らす。俺がその盾を拾ったからだ。

 手にしてみて確信する。これは、ミオの”命牙”だ。


「やめてよ、そんな《《汚いの》》。触らないほうが……」


「……」


 触れて理解する。アカリの時のように、ミオの心を覗く。


「ユーマ、ソレ捨てなよ……。汚いよ、ソレ……」


「……。——ミオ」


 理解した俺は優しく語り掛ける。


「——言いたい事は、言っていいぞ」


「え……」


「俺はそれを受け止めるから」


「……」


 ポカンとした顔のミオだったが、しばらく考えたのち、彼女も真意を理解したとばかりに眉をきゅっと締める。

 ズンズンと前に出ていくミオ。アカリより前に出る。


「ミ、ミオちゃん?」


 すーっ、息を吸い込んだ。そして――。


「ユーマのっっっ、アホーーーーーーーー!!」


 えっ、とちょっと面食らう俺。思ってたのとちょっと違うな……。


「アカリのっっ、バカーーーーーー!!」


「えええええ!? アタシ!?」


 流れ弾が飛んでいった。


「……ふう。ちょっとマシになった」


「ミ、ミオさん……?」


 若干の困惑を覚えながらもその心はなんとはなく分かっていた。

 ミオが押さえていた恋心。少なからず抱いていたモヤモヤ。

 それはアカリのような真っすぐで混じりけのない心とは違って、もっと複雑で、そして陰湿なものでもあった。

 「お似合いな二人を見守る」なんて、らしくない。


「ユーマ!」


「は、はい!」


「使い方、分かってるんでしょ? ——とっとと倒してきなさい」


「あ、おう……」


 右手にアカリの棒を、左手にミオの盾を携え、嵐の王へと向かっていく。


「来るか!」


 相手も構える。だが、俺の手にあるのは矛盾を持った二つの命牙。

 次の打ち合い一合で決着がつく。そんな確信があった。


 間合いに入った俺に、迎え撃つのは敵の槍。それを「棒で弾く」。その隙に生まれた一瞬を「盾が穿った」。


 こうして、二人の「心」を同時に持って理解した。


 アカリは、抑えきれない恋心を武器にした、のではない。素直という心の壁を形にしたものだった。だから形状は棒であり、誰かを傷つけるといった能力は控えめなのだ。

 対するミオの盾は、見てくれは防御に振っているようだがその実は違う。丸い盾の中に仕込まれた無数の暗器による暗殺。油断を刈り取る攻撃性を秘めた武装だ。


 武器で守り、防具で攻める。歪な戦法になった。


「……ふ、はは……」


 嵐の王は、盾から伸びる鎗に胸を貫かれていた。

 俺の思うこの”嵐の王”は武人の人だと思っている。だが、この暗器という武器による決着は納得しないだろう、と思っていた。だが……。


「執念、思い……」


 相手は言葉を漏らす。


「実に……面白いものだ。お前たちなら、あるいは……」


 嵐の王は膝をついた。


「かの魔王を打ち倒せるだろう……。さらばだ……」


 そう言い残し、塵となって消えた。


「……」


 静寂が訪れる。俺は二つの命牙をそれぞれの持ち主に返す。


「ミオ……」


 俺はミオの命牙に触れた。だから心が分かる。

 その心への答えを返そうと思ったが……。


「まずは魔王城の攻略、でしょ」


 そうミオに言われ、「そうだな」と返して先に進むことにした。

 そして……俺はきっと――。


―――――――――――――――――

お読みいただいてありがとうございます。

よければブクマや最新話から評価をつけて応援していただけるととても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。