(多分)日常
「……ん、朝か……」
ベッドから体を起こす。ベッドなんてあったか? なんて話だが、滅ぼされた町の民家を漁っていた。
道徳とかそういうものに瑕がついた気もするが……、「戦場に身を置く兵士の気分」を体験したと思えば、幾分か逞しくなったと前向きになれる。
「よし、二人とも゙っ!」
二人のいる隣の部屋に入ろうとしたらバリアに阻まれた。もちっとした柔らかいバリア。だが如何なる魔法をも弾く頑丈さをも持つ。アカリの魔法障壁。
俺はハブられたのか。うん、そうだろう。
あの後……、そうあの後。
みんなで休んだと思ったら俺一人だけ離れている感じになり。
ドラグナーと戦ったところから戻ってくる道すがらもなんか俺一人距離を置かれるし。町についてもなんか距離がある。
話せないほどか、というとそうでもなく。
「アカリ?」「どったの?」「いや……」
と、会話は問題ない。だが会話が終わると……、アレだ。ギャルが陰キャに聞こえない様に陰口をいうような、アレ。
コッチの話をしているのはチラチラと飛んでくる視線で分かる。でも「なんの話?」と聞くと「なんでもな~い」と返ってくる。
話をしているのは一目瞭然なのになんでもなくはないだろう。
それに……ここまで旅をしてきた仲じゃないか。なのになんでこんな距離が出来てるんだ? 旅も重ねてきたのに……。
(とりあえずバリアがなくなるまで朝飯でもつくるか)
というわけでクッキング。崩壊した町とはいえ、元は人間の縄張りだからか魔物は寄ってこない。少し気を緩めていられる。
厚めのベーコンを焼き始めたころ、ギャルズが目を覚ます。
「おはよう」
「ふわあぁぁぁ……おは~」
バリアが霧のように消えていく。そして中から出てくるギャルズ。
「朝飯。簡単のだけど」
「ううん、無いより全然いいよ。いただきまーす」
「……イタダキマス」
? なんか、ミオの様子がおかしいような。
と少し思ったその時、「あーっ!」とアカリが声をあげる。
「ミオちゃんのベーコンがぶ厚い!」
「え……そうかな」
「これはあれだよ。ユーマが手を回したに違いない!」
「俺はそんな器用じゃないよ」
「っ……」
なんて会話があったのだが。
「ミオ? 多かったら残しても大丈夫だぞ?」
「……ダイジョブ」
「もしかして気分が悪いのか? 白湯ならあるが……」
「……ヘーキ」
なんかカタコトで話してるな……やはり様子がおかしい。
そんなとこで、あっ、と思い出す。
「なあミオ?」
「……ナニ」
「この後、ちょっと二人きりになれないか?」
ビタ、とミオの動きが止まる。それだけだが、心なしか顔色が悪くなっている気がする。やっぱり調子が悪いのか? とここまで遡ってある結論を弾き出す。
(生理、ってやつか……!?)
男子には到底理解出来ない現象。生理が始まると体調不良に加え、ホルモンバランスも乱れ、精神も不安定になるという。
痛いし精神も不安定だし、と本当に男子には分からない領域だ。
そしてなによりも――
女性と付き合ったりしたことのない俺にはその対応がわからない。ネットから得た知識でお腹を温めるとか、温かいものを飲むといいとかその程度しかわからない。
ここまで考えて、しまった、と思う。
もしそうであるなら、軽率な行動は控えるべきだ。
「よーし、食べ終わったし。次は西? に行くのかな?」
「ちょ、ちょっと待てアカリ!」
「んん? なあーにー? ……ってちょっ!」
半ば強引に手を引く。部屋の外に出てから話す。
「なぁーにー? どうしたの?」
「その、ミオなんだが……」
「もうっ、女の子をこんな強引に引き連れちゃダメだよ? 優しくしないと」
「ああ悪かっ……じゃなくて、ミオなんだが」
小さい声で俺の生理推察を説明する。
「だからその、もう少し気を使って、というか……」
「ん~……」
考えるような素振りをする。が、すぐに答える。
「あれは生理とかじゃないよ?」
「そっ、そうなのか……!?」
なかなか食い気味に話す俺。ちょっとキモイかもしれない。
「同じ女子のアタシが言ってるんだから多分間違いない、多分」
「そうか……。だったらミオはなんで……」
「ああ、それは――」
そして淡々と語られる、前日の出来事。
アカリがミオに、俺の好意を伝えた話を。
「————」
「ダイジョブ? もしも~し」
……つまり、なんだ。俺は、俺の心を知っているヤツにそれとなく話しかけていて、そして向こうもどうしていいのか分からない感じ、なのか。
——ってちょっと待て。
「なんかアカリだけズルくないか? 盤外から見つめてるような感じで」
「当たり前っしょ。だって――」
俺の口に指を《《刺される》》。痛い。
「ユーマがアタシを振ったんだよ? じゃあもう野次になるしかなくない?」
「そっ、それは……」
「アタシの心を弄んだ罰だ。精々苦しめ♪」
「ぐ……」
だが確かに、ここ最近で俺はいろんなことをやらかしてる。俺は振られたとかあんまり分からないけど。でも、心の奥の本当の気持ちってやつを伝えて、それが通らないってのはいい気分にならないことは分かる。
露骨にへこむ俺の肩をバシッと叩かれる。
「ダイジョブ、アタシって、理解ある女だから。二人の恋を応援しちゃうよ」
「そ、そうか……ありがとう……」
——という話があって。
「ヨーシ! 目指すは魔王城! 世界を救っちゃうよ~!」
アカリの号令と共に俺たちは町を後にした。
***
……。なにも問題はない。万事良しである。
でも、なんだろうか。
(やっぱりアレが出来てからだな)
胸に手をかざす。思いを馳せるのは自分の命牙。
見た目はただの棒きれ。ユーマもそういう認識。
でも本当は違う。
——ただ正直なだけだ。捻りの無い、純粋な好意。
(……恥ずい)
ただの棒という、経験の無さ、設計の無さ、計画の無さ。それらが顕現したあの形。
アタシより魔法センスのいいミオちゃんなら分かるだろう。
あれは処女の設計だ。
あの棒切れは――
それが通じると信じて疑わないし。
それが折れるなんて考えてないし。
それが負けるなんてありえないし。
アタシ、煌城燈は。恋愛において自分を曲げることなく、そのままの自分を相手に認めさせる。”理想”を形にしたものだ。
それは美しいだろう。気持ちのいいものだろう。
それが、恋愛の答えか?
……たぶん違う。だからこんなにモヤモヤしている。
ユーマはアタシの気持ちを全て知ったと言った。
じゃあなんでコッチを見てくれないの?
なんでアタシを受け止めてくれないの?
気持ちだけが、静かに熱を持つ。白くなった焚火のように、遠目には熱を感じない。しかし触れるものは確実に火傷を負う。
感情の暴走。あまりに若い考えと理屈。
子供のダダを見ているようだ。痛々しくて見ていられない。
でも――。
ユーマはそれでも握って手を離さない。
その手が焼けても離そうとはしない。
(ムカつく。そういうところも)
アタシなんてテキトーにすればいいのに。
ミオちゃんだけ見てればいいのに。
なんで手を離そうとしないんだ。
目の前には、大きな気持ちを持ったユーマと。
感情の整理がついてないだけのミオちゃん。
……まったく。
早く幸せになってくれないかなぁ。
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