余韻と茨
「ミオ、大丈夫か?」
ドラグナーを逃した俺は真っ先にミオの元へ向かった。戦闘中ドラグナーは不自然なほど攻撃をしてこなかった。それにこちらの攻撃も派手なものは無かったから流れ弾のようなものはないだろうと思っていたが、肉体的な心配より精神的な心配の方が勝る。
「……大丈夫。落ち着いた」
「一体どうしたんだ? ミオにしては珍しい」
「……珍しい、か」
「?」
口では落ち着いたと言っているがどうにも様子がおかしい。
「ミオ。後でいいから、ちゃんと教えてくれ」
「……」
……。その後、アカリも合流し、パーティ全員が揃った。少し移動し、いい感じに休めそうなところでバリアを張ってもらい簡易キャンプとした。寝るには早いが、それなりの激戦後で疲れがあった。
「よし、シチューが出来た」
「ユーマがご飯担当になると毎回シチューだよね」
「む……だって簡単だし、おいしい、よな?」
「悪くないけどたまには別のものも食べたいってゆーか」
「……考えておくよ」
なんて会話をしながら少し早い晩飯を作った。それからゆっくり休んで再び歩みを進めようと思った。
「ほら、ミオも食べようぜ」
「うん……」
うーん。ミオがしおらしいというか、元気がないというか。「らしくない」って感じ。
こういう時こそ幼馴染である俺が汲み取っていい感じにケアをする……みたいなものだろうが、今は取っ掛かりが見えない。なんと声をかければいいのやら。
「……」
俺の沈黙が波及したか、アカリまで黙ってしまった。どうしようかなぁ……。
黙食を続けしばらく。全員食べ終わった。片付けも済ませ後は休むだけ……。
「じゃあ休むか。ベッドが恋しいな……」
「んー」
アカリの小学生の適当な返事みたいなのが返ってくる。まあ緊張が解けているならそれはいいことだろう。ただ……。
相変わらずミオは元気がないというか、どうしたんだろうか。
(……もしかして……話しかけられ待ち?)
町は崩壊していたが「そこ」には一応着いた。であれば「あの話」をするべき、なんだろうか。
でもやっぱり気恥ずかしさというか、その心の準備が出来てなくてだなぁ。いやしかし、ここで二の足踏むのは男らしくないというか……うーん。
……ええい! こういうのは勢いも必要だろ。言ってやる、言ってやるぞ。
「み、ミオ!」
「……」
「あの、街に着いたらっていう約束のアレだが……」
「……ああ……。今は、いい」
「俺は……——、ん?」
いいって言った? それはどういうことだ?
「お休み」
「え、お、おう……」
なんと向こうから話題を切られてしまった。なんだ? 何を見落としてる?
して、もやもやを抱えながら本当に休むことになった。
***
静まり返った辺りを見て、再び一人の時間を作ろうとした。
バリアを抜けて、適当に景色を見る。
「……はぁ」
一人膝を抱えてため息を吐く。どうしようもない壁のようなものを感じた、絶望の混じったため息だ。
(あれが命牙……)
そう、このタイミングまでミオは命牙の形を見たことが無かった。そして「ソレ」を見て衝撃を受けていた。あんな――
(あんな《《痛々しいもの》》を作りだすなんて)
命牙の形状。ミオには茨で作った剣のように見えていた。
それも並みの茨ではない。それを持つものは敵味方問わず傷つけるであろう攻撃的な鋭いトゲが無数にある。
ユーマは難なく握っていたようだが……それもわからない。
(命牙……その人の人生の形、だっけ)
以前受けた説明をぼんやり思い出す。であるならば。
あのトゲはアカリの心であり、その心はとても攻撃的(あるいは防御的)に特化している。
——いや、ごまかすのは止めよう。
あれはアカリの心。そして恋心が発現したものだと考える。
なんて恐ろしい心なんだ。その恋路は自分も相手も血を流さずにはいられないと言っているような、そんな信念。
だから、怖い。
(——)
膝を抱く。怖い。恋とは、好意を持つというのは、こんなにも恐ろしいものなのかと。
だとしたら――。
私に勝ち目はない。
私は傷つかずにいようとしている。覚悟が違う。私ではそんな領域に踏み込めない。
私は――。私なんか――。
「——ミオちゃん」
「!?」
驚いて振り返る。私の後ろにアカリがいた。
そして「よいしょ」と私の隣に座る。そして――。
「——で、ミオちゃんはどうするの?」
「ど、どうって、なに?」
動揺が隠せない。どこから見ていたか分からないし、無意識に声を出していなければ悟られようもないだろうが。
「なにってそりゃぁ……ユーマからの告白だよ」
「告……白……?」
コクハクってなんだ。……ああ、やっぱり私が知らないところで何かやらかしたんだろうと思った。懺悔かな。そういうコクハクだろう――。
「ユーマはミオちゃんが好きなんだよ」
「—————————、え?」
コクハクって、そっちなの? ホントにそういう告白なの?
「あ、アカリは知らないだろうけど、私とユーマはそういう関係じゃ……」
「ううん。「そういう関係」になろうとしてるんだよ」
「え……あ……」
徐々に熱くなる顔。体も脳もその意味を理解しているのに、精神だけが理解を拒もうとしている。
「ち、違う……。ユーマはアカリみたいな子の方が好きで……」
「その話ね~。アタシ思いっきりフラれたんだから」
「フラれ……!? え、どういうこと?」
……。それから、私が気を失ってる間に起こったこと。特にユーマが説明をぼかしたところを詳細に語ってくれた。
「……って感じなんだけど」
「あ、あわ、あわわわ……」
彼は正気で本気なのか。今聞いた話が本当だとして、いや本当なんだろうけど、私は、私は……。
「ど、どうしよう」
「どうもこうも……あ、そうだ」
アカリは思い出したように言う。
「ミオちゃんなんでさ、「まさか、”私の事が好き”なんて、言わないでよね」なんて言ったの?」
「そっ、それはぁ……」
い、いやだ……。ただの凄い勘違いだったなんて、いいたくない……。
遡る事要塞を出た時の話。いや、細かいことを言うならその日の朝か。
よく分かってはいなかったが、ユーマとアカリの間に赤い線が繋がっているのが見えた。
「へー、運命の糸ってホントに赤いんだ」なんて心の中で思っていた。
その糸が見えたということは、二人の仲になんらかの進展があったと考えた。
だって赤い糸だし。そんなの絶対「そういうこと」だと思うじゃん。
「……でも実際は違った、と」
「その糸? は私には見えないんだよね。なんでだろ」
わからない。命牙にはなにかしら効果があるのかとも考える。
……なんて思考を変えられるうちはまだよかった。ちょっと間が開くとユーマの事が頭を埋めていく。
「……って感じだから、ミオちゃん。ファイト!」
なんて言われても……。
「ど、どうしよう……」
今日の夜は随分変わった色をしていた気がする。
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