ヴァーサス竜騎士
命牙を振るう。その剣閃はヴァルメクの時と同様にすさまじい速度で振り抜いている。
実際、パワー自体は凄まじいもので空中にいて足による踏ん張りが効かないにも関わらず敵の龍を弾き飛ばすくらいには火力があった。
では圧勝か、というとそうでもない。
(力は俺の方が上、でも向こうは《《いなす》》力を上手く使っている)
既に打ち合い4合、会心の一撃は出ずのらりくらりと躱されている。それに加え――。
——ドォン!
アカリやミオの砲撃魔法による援護もある。当たれば必殺クラスの魔法だ。だが敵はそれを防御している。
躱すではなく防御だ。それでも敵はダメージを負っている様子はない。つまりは、「魔法による攻撃はほぼ無意味」と言われているようなものだ。大地を抉り、空間を引き裂くほどの火力を持つ彼女らの魔法をなんなく防いでいるのだから。
(でも、だからこそ勝機は見える)
魔法は防ぐ。命牙は躱す。だったらこちらの動きはこうだ。
足止め用の魔法を展開、躱すことが出来なくなった所へ命牙を叩きこむ。
これで決められる、はずだ。
(——って感じだけど、いけそうか?)
無線魔法で二人に確認を取る。返事は「りょーかい」「分かった」と返ってくる。
短い期間だったが、要塞付近での魔法訓練の成果が出ているようだ。俺が「こんな感じ」と伝えたら、ちゃんと伝わる。
「よし、いくぞ!」
三人による包囲。そして二重の範囲攻撃。
まずはミオからだった。敵の空間を、回避する分も加味した上での超広範囲に空間の”歪み”が見える。多分斥力を利用した魔法だろう。その効果範囲内では重力の何倍もの圧力がかかっているに違いない。
実際、敵の龍の翼が「ギギ……」と軋んでいるのが見える。
並みの相手ならこれで十分。しかし格上にはもう一手必要だ。
斥力で敵が止まった、その一瞬を見逃さずアカリが追撃する。
敵の頭上から大量の光の柱が降り注ぎ、敵の体にぶつかる。
多分狙ったのは串刺しだろうが、敵は防御魔法を周囲に展開し穿たれるのは回避したようだ。
「なんの! ……んん」
アカリは機転を利かせ、光の柱を敵の下側にも生成。そして敵にぶつける。これで実質貫通したのと同じだ。
敵は完全に動き封じられた。あとは――。
「うおぉぉぉぉ!!」
全力を注いだ命牙を振りかぶり、柱の間を抜けて思いっきり叩きこむ!
——はずだった。
——パリィィン!
「え……?」
突然、敵を完全に拘束していた光の柱が砕けた。何故? と頭をよぎったが、突撃してしまった俺は止まれず、そのまま敵に突っ込んだ。
光の柱が無くても敵は動けないのだ。とにかくこちらの勝利条件は命牙を当てること。それができればいい……と棒を振りかぶったが――。
「うわあ!?」
敵に近づいた途端、いや、正確にはミオの斥力圏内に入った瞬間か。体が不思議な力で弾き飛ばされた。
俺たちの隙を見たドラグナーは体を捻りながら斥力フィールドを抜け出した。状況はふりだしに戻った。
「ミオ? どうかしたのか?」
「……ごめん」
ミオの声は沈んでいた。どうしたのだろう。
自由になった龍はお返しとばかりに炎弾を放ってくる。速度的に大したことはない。飛んでいれば回避出来るものだ。
アカリと俺は難なく回避。しかし、ミオが動こうとしなかった。
「っ……! 間に合えっ!」
俺は全力を出してミオの方に飛ぶ。命牙を振りかざし、敵の炎弾を切り裂いた。
「ま、間に合った……」
「……」
「ミオ? 大丈夫か?」
「うん……大丈夫……」
どこか虚ろに見える。ほんの少し前までなんの問題もなさそうだったのだが……。
外傷があるわけではない。——まさか前の頭に喰らったダメージか? とにかく無理をさせられない。
「ミオ、地上に降りて自分だけのバリアを張っていられるか?」
「え……ユーマ?」
「俺とアカリであいつを倒す」
そう判断し、敵の方へ向かおうとして――。
「ま、待って!」
「うおっ、と。どうした?」
「ち、違うの。私、そんなつもりじゃ……」
「?」
なにか、言っていることがチグハグな感じがする。俺が見ているミオとミオの見ている世界が違うような……?
「ミオ。落ち着いて。それまで自分の身を守って落ち着くんだ。それから援護してくれたらいいから」
「……」
俺の言っている事は聞いてくれている、様にみえる。だが不安そうな……いや。
「怖い、のか?」
直感でそう感じた。普通に考えるとミオが怖がる要素がどこにあるのか分からない。敵はかつて一度会った敵で、かつ一度撃退している。加えて修行期間があった上にアカリの力とはいえ命牙がある。甘い考えだろうが、勝てる戦いだ。
それなのに何故、俺はミオが怖がっている、と感じたのだろうか。
「とにかくここで身を守るんだ。いいな?」
弱弱しく頷いた。それだけ見て俺は再び空中へ戻る。
「アカリ! 待たせたな」
「大丈夫~! でもどうする?」
「今度は俺自身がおとり……というか動きを制限させてみせる。その隙にさっきみたいなのをもう一度頼む」
「りょ!」
俺が前に出る。と同時に――。
(俺が命牙を持っている。これが魔法の結晶なら、俺も多少は魔法が使える……と思うんだが)
想像する。自分が使いたい魔法。あとはこう、ギャルズなノリで、適当に力を籠めれば……。
(……。体感では出来た、気がするが……)
こんな魔法をチョイスしたのが間違いかもしれないが、相手を倒すならこれくらい必要だと思ったから創造した。
——透明な剣。それが俺の背面に、羽のように二枚存在しているはずだ。ホントはもう少し欲しかったが、俺では出来ないらしい。
この羽をファン〇ルのように飛ばして多方向からの同時攻撃を仕掛ける。
「——いくぞ!」
命牙を握りこむ。力が伝わってくる。俺が振るう一撃は当たれば致命傷になるはずだ。
——ぶおん。と敵の龍が体を捻る。巨体だがすばしっこく、それに動く度に風で俺の体が押し返される。だが。
透明な極薄の羽剣は風の抵抗を受けずに敵に向かっていく。
敵は見えていないだろうし、そも見えない角度から刃を飛ばしている。
これが当たれば形勢も少し傾くはず。だったが。
(! 躱した! 見えてないはずなのに!)
器用に躱した。何故だ、と頭をよぎるが一つ思い当たる節がある。
躱されたその龍へ向けて再び突撃。だが躱される。
(俺の突進速度は秒速2000m。ヴァルメクさえこの速度には対応出来なかった。なのにこのドラグナーは対応してくる。ってことは……)
こういう超反応系はラノベで読んだことがある。敵は視覚情報で判断していない。もっと別のものを見ている。例えば、魔力の流れ。
もし魔力を感知する感覚器官を持っているなら納得のいく話だ。現に魔力で出来た俺の羽は回避されている。
この知識を流用出来るなら、攻略法も掴めてくる。
「アカリ! 魔法で岩とか掴んで投げれるか?」
「え、魔法で作るとかじゃなくて?」
「ああ。えっと(ごにょごにょ)」
「なるほ! やってみるね!」
純粋な質量の射出と敵の誤認を誘う魔力弾の同時攻撃。複雑な注文だが、即座に理解したようだった。すごいなギャル。
「——準備完了! いけるよ~!」
「よし」
まず俺が突進する。
それが回避されることは分かっている。さらに追撃の羽剣も回避するだろう。
この時点で敵の回避リソースはそこそこ使わせたはずだ。
そこへ敵を詰める様にアカリの魔法弾が飛んでくる。敵は防御するだろう。
——その魔法弾はおとり。必要なのは防御という一拍だ。
魔法による防御を張った、その後ろから人くらいなら飲み込める大きさの岩が飛んでくる。
直前で気付くも感知だよりの回避ばかりだった敵はこれに反応できない。
(体勢が崩れた! 今だ!)
敵のドラグナー、駆り手を目がけて飛ぶ。
接近し攻撃を仕掛ける。体勢が崩れた今、回避行動は取れない。
「もらったッ!!」
命牙を振りかざす。それが直撃するのは確実だった。その時——。
(なに……?)
敵ドラグナー、龍の駆り手は龍を手放し、背中から離れた。
命牙は振るわれた。直撃を受けた龍は咆哮を上げながら地面に堕ちた。
その隙に、駆り手は自分で作ったであろう闇の中へ手を伸ばしていた。
(逃がすかッ! 二度もッ!)
最速ではないが急いでそこへ向けて飛んだ。そして棒を振るう。
——が、虚しくも命牙は空を切るだけだった。
「クソ……」
追い詰めはした。だがまたしても逃がすという結果になってしまった。
***
魔王城。
またしても敗走を喫した竜騎士は体を引きずりながら魔王の元へ向かっていた。
そして玉座。魔王の座る場所へ来ていた。
「……」
竜騎士は何も喋らず、片膝をつけ頭を下げるだけだった。
魔王は――。
「——二回負けるとか、ウケる」
平坦なトーンで答える。
「へー。そんなにすごいんだ? そのゆーしゃみたいなのって」
玉座から立ち上がる。その姿は――。
「テンアゲなんだけど。早くアテシのとこまで来ないかな~」
所謂、黒ギャルであった――。
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