胃痛の男子
……。胃が痛い。
あれから低空飛行によるそこそこな速度で進んだが、目的地に着くより先に陽が落ちた。初めての野営になる。
「飛んでいくのは楽だけど、低空だとそんなに速度は出せなかったね」
なんてアカリは言うが……、さて。
「ミオちゃん、ちょっと野営の準備任せていい?」
「別にいいけど、すぐ終わるわよ?」
「お願いっ! あとユーマをちょっと借りるね」
と、かなり無理がある言い訳で俺とアカリはその場を離れた。
そこそこ歩いたところで立ち止まる。
「アカリ?」
「どおおぉぉぉぉぉぉしよおおおおぉぉぉぉ!!」
頭を抱えて慟哭するアカリ。
「どうしたんだよ、大丈夫か?」
「大丈夫か、じゃなくって! ミオちゃんの事!」
ああ……と腑に落ちる。
前の街、要塞を出てしばらくの話だ。『まさか、”私の事が好き”なんて、言わないでよね』と、ピンポイントで釘を打たれてしまった。
命牙を使用した副作用で「ハイ」になった俺は口を滑らし、アカリに対して「ミオに告白する」なんて言ってしまった。……それだけでも苦しいのに、その告白が「まさかしないよね?」なんて言われてしまったので……。
「ごめんユーマ……アタシ、そんなつもりじゃ……」
「確かに困るけど、でもいずれ超えなきゃいけない問題だからそんなに気にしなくても」
「でもでも……うう……ごめん……」
なにやら責任を感じている様子。
ぶっちゃけ、だ。アカリに対し、俺がミオに抱く恋心を話せたのはある意味丁度よかった。アカリにだけ隠してミオに伝える、なんてのは無理があるわけだし。それに、この旅がどこまで続くか分からないが伝えておくのがいいだろう。
「だって二人ってさ、幼馴染、なんだよね」
「そうだな、まあ」
「これで二人の関係が破綻したらどうしよう……うう、ごめん……」
終始面目なさそうにするアカリ。……だとするなら、だ。疑問が湧く。
「そもそもなんであんな事言ったんだ? 何か考えがあるんだろう?」
「えっと、それは……」
口ごもり、下を向いてもじもじするアカリ。俺は全てをさらけ出したぞ。自分だけ逃げるのは許さない。
「……ほんとは、ミオちゃんもユーマが好きなんだと思ってた。だから二人の背中を押した、みたいな」
「ミオが、俺を?」
それは初耳だ。俺は一方的に恋心を寄せているが、向こうはなんというか、友達の枠を出ないような、そんな感じだと思っていた。
「だって、前の宿でそんな話をしてたから」
「前の……?」
宿、ということは要塞の話ではない。さらに遡って一部屋に三人固まって泊まった時の話か。
***
それは遡ることかなり前。嵐の王と戦う前の夜の話。ちょうど俺がシャワーで離席していた時の話。
「ねぇ。ミオちゃんって、ユーマをどう思ってるの?」
「どうって……。別に、幼馴染?」
「ホントにそれだけ?」
「……何を言わせたいわけ?」
「いやいや! そんな裏があるとかそういうことじゃなくて、その……」
「……」
「あうう……」
「……はぁ。どうせお節介でも焼いてるんでしょ」
「か、確認だよ! 学校でもさ、わりと二人はいい感じだなって、目に入ったし」
「……」
「ミオちゃん?」
「いや、別に……。ただの腐れ縁で、普通に話してただけだよ。友達以上なんたらってやつ」
「……ふーん」
この時、アカリはミオから恥じらいや隠し事をしているような空気を感じ取ったという。
***
「うう、どうしよう。このままだと三人とも関係にヒビがはいっちゃう……」
「大げさだよ。それに間違った事をしたわけじゃないし。いずれにせよ、時間の問題だったって感じだし」
「でも言い出しにくいよね、あんなこと言われたら」
「確かに壁は感じるが……でもこれくらいで止まってはいられないよ」
静かに、しかし腹を括る。どんな答えが返ってこようが、俺はそれを貫いてみせる。
腹も決まったところでミオの元へ戻る。
「もう戻ってきたの? 早いわね」
「そんな大したことじゃないよ。ほれ薪」
適当にひろった枯れ木をばらばらと並べる。
「ふーん。作戦会議はもういいの?」
「なんだよ、作戦会議って」
するとミオはこちらへ振り返る。
「アカリは何かを言わせたい。でもユーマはそれを言いたくない。そんな二人がこそこそと話す……作戦会議でしょ、普通に考えて」
流石の洞察力、というべきだろうか。人間や状況を見て判断を下すのが上手い。
「ま、黙ってたいなら別にいいけど」
「む……」
今の言い方は少し引っかかる。なんか《《つっけんどん》》な言い方だ。
でも仕方ないか。俯瞰的に見ても俺とアカリでミオを仲間外れにしているようなものだし。気分は良くないだろうな。
「その、悪いとは思ってる。仲間外れみたいにして」
「仲間外れ、ね」
そのワードに対し、なにか思うところがあるような、憂いた表情を見せる。
「アカリ」
「ええっ!? なに……?」
名を呼ばれビクリと体を震わせるアカリ。ポーカーフェイスとまではいかなくとも、もう少し落ち着きを持って欲しいものだ。
「さっきの話だと、命牙。使えるんでしょ」
「えっと、うん。多分」
「私もできるかな」
「出来るとは思うけど、あの時は……う~ん……」
命牙について聞かれたアカリはそのノウハウを教えようとする。が、「ぐわーってやって」「がーって感じで」とよく分からない。
やっぱりミオも使える様になるまで要塞にいるべきだったか?
「……なるほどね」
「わ、わかった?」
「わかんないけど、なんとかなるんじゃない? そのうちね」
ミオはカラっとしていた。もし俺だったら不安や焦りが出てしまうだろうが。
「私は気絶してたけど、アカリの命牙があればなんとかなるんでしょ。強い奴は任せるわ」
……なんだ? 何故ミオはこんなにも、こう、自暴自棄なような事を言うんだ?
「なあミオ?」
「——さ、ご飯食べて休みましょう。朝一で出発したら昼には街に着くだろうし」
「……」
「そしたらユーマも黙ってない。でしょ?」
「それは……」
この時の俺はなにも言えなかった。どの方向にも話を広げられず、どう話せばいいのか分からなかった。
***
広めにバリアを展開し、安全の確保と虫がいないことを確認した。
相変わらずコチラにチラチラと視線を送ってくるユーマだが、あえて気付かないフリをしていた。
食事を済ませ、片づけもして後は横になるだけとなった。
全員横になり、頭を寄せる様にして眠りについた。
……しばらくして、私は体を起こす。バリアを出て少し離れる。
「……はぁ~~~~……」
一人、ため息を吐く。いろんな感情が混ざった、複雑な一息となった。肝心なところで気絶するし、その間にユーマとアカリは「線」が出来てるし。
推測でしかないが、その気絶中、アカリとユーマの間で何かがあった。決定的な何かだ。それが命牙の習得の鍵のはず。
(たぶん、アカリがユーマに告白みたいなことをしたんだろう)
でなければあんな強い「繋がり」にはならないはずだ。
じゃあ。一歩遅れた私はどうするのか、だが。それこそ、致命的な問題。
(アカリには積極性がある。恋心に真っすぐで、傷ついてももろともしないような。そんな精神性を持っている)
比べて私はどうだ。ユーマの言葉が怖い。傷つきたくない。だから――感情の発露という一線を越えられない。
故に、《《私は命牙を扱えない》》。
「……」
声にならないため息をまたついて空を見る。——ああ。こんなめんどくさい私が大嫌いだ。
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