再出発
次の日。要塞内。
昨日は……、……………………、まあいいか。
一晩休んで、朝食を食べに食堂へ来た。
……一人で。
(はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~……)
生涯かつてないほどのため息を吐く(心の中で)。昨日はいろいろあった。本当に、いろいろ……。はぁ……。
順番に整理しよう。
まずミオだが、戻ってきてすぐに医者に見せた。すると「何を見せたいのかわからない」と言われるほどに無事だった。俺は(無責任にも)自室へ戻ってすぐに寝てしまった。その後も何事もなければいいが……。
……。なんて気にするくらいなら朝からでも部屋を訪ねればいい。分かってる。分かってる、んだが。
ええい”あの”話は後回しだ。次。
ヴァルメクとの戦い。その最中に出来た命牙。
これ自体に問題はないそうだ。ただイレギュラーがいくつかあって……。
***
「ユ、ユーマ君!? 大丈夫なの?」
心配そうに言うミューズさん。ダメージ無し。心配される要素などないはずだが。
「あのね。命牙ってその人の大事なものっていうか。もっというと、《《絶対他人は触れられないもの》》なの。だから、その、手が……」
そう言われて自分の手を見ると手の部分が出血していた。痛みは特に感じないが、確かに滴るほどの血が出ているのは大丈夫ではないかもしれない。
だが持っている分にはむしろ安心するというか、悪い気はしない。
「と、とにかく早く手を離すべきよ。そして持ち主にかえすべき」
と言ってくれるが、これを出した本人は触れたがらない。なのでどう返したものかと悩んでいたら自然と消えた。アカリがどうにかしたんだろう。
「そ、それから。二人とも、気分はどう?」
さらに聞いてくるミューズさん。俺は悪くない。むしろ気分が良い。清々しい。少し早めに目が覚めた朝の天気がすこぶる良くて、丸一日休みでこれから何をしようかと胸躍るような朝を迎えたような気分の良さだ。
「その、これは聞いただけの話なんだけど、命牙を使った人は、その、「ハイ」になるらしいの。だから二人とも大丈夫?」
という問いに対して俺たちは――。
「アタシは、平気っぽい」
と答えた。
「……?」
そんなアカリを、俺は抱きしめていた。
「!?!?!?」
「大丈夫なんて言い切るなよ。本当は苦しかった、吐き出したかったんだよな」
「あ、あわわわわ」
「でも大丈夫。俺はちゃんと受け止める。アカリの気持ち、全部聞こえたから」
「わ~~!!」
***
(あれが「ハイ」になるってことか)
詳しく思い出せないが(いや、思い出さない様にしている、のか?)なんか他にもキザったらしい言葉を言ったような、言ってないような。
恥ずかしさが背中を這いずっている。ぞわぞわと、こそばゆい。
仕方ないのかもしれないが、あんなことを口走っていたなんてな……。
だからすぐにミオの所にも行けなかったし、アカリの所にも――。
「……」
「あ……」
俺の座っている席の前にアカリが立っていた。
「……ここ、座っていい?」
「あ、ああ……」
——コココ。カタッ。
椅子に座る音がやけに鮮明聞こえる。そして。
「……」
「……」
沈黙。俺からは話を出しずらい。何か向こうから話を振ってくれないだろうか。
と、目を合わせようとすると、一瞬合っただけですぐに目線を外される。そして沈黙は続く。
正直、昨日の事はよく覚えている。だからこそ、その……。
思いっきり振った相手とどう接すればいいのか分からない。
アカリは何を思っているのだろうか。怒っている? 呆れている? 分からない。
ただ気恥ずかしくて飯を口に運ぶ。
二人とも、そうして沈黙の中を過ごしていく――。
「おはよ」
「ブッッ――!」
真隣から声が掛かる。ミオの声だ。突然すぎて噴き出した。
「ちょ、汚すぎ。アカリの顔に全部かかってるじゃん」
「だ、ダイジョブだよ。はは……」
引きつった笑みを浮かべながら顔を拭くアカリ。
「み、ミオ。怪我は大丈夫なのか?」
「うん、ヨユー。それより、迷惑かけたっぽいね。ごめん、そんでアリガト」
「い、いや、別に。礼は俺よりアカリに言ってくれ」
「そ? ありがとね、アカリ」
「あ、う、うん」
ぎこちない返事だった。
「……。なんか二人とも変じゃない?」
ミオの指摘に固まる俺。
ミオは何があったか知らないはず。いずれ話していくことになるのだろうが……。
今俺の前には「振った女」と「これから告られる女」がいるということ。もう心の情緒がぐちゃぐちゃだ。
助けを求めてアカリの方を見るが下を向いて目も合わない。
「……ふーん」
勝手に何かを悟った様に納得するミオ。多分その考えは間違いだと思うのだが。
だが俺の口は動かない。なぜなら――。
『俺……、ミオにちゃんと告白する』
なんてアカリに言ってしまった手前、アカリに対してもミオに対してもどう動くかというのがいろんな意味を持ってくる。
(い、息苦しい……)
ど、どうしよう。あれはその場の勢いで言ってしまったというか。でも嘘かと言われればそうでもないっていうか。
でもさぁ、こう、空気感とか、あるじゃん? だから、その……。
「よし。んじゃあ行こっか」
「ミオ?」
「私たちはここで立ち止まってられない。でしょ?」
***
要塞内。大広場。
門をくぐってすぐの広場に俺たちは集まった。
「買い物は十分か?」
「そうね。ここから更に北へ。距離にして二日くらい。十分な食料も買えたし、体調も万端。大きくて安全なベッドは恋しいけど、いつまでもいてられないし」
「思い切りがいいな。よっと……」
でかいリュックを背負う。昨日は少々戦えたとはいえ基本スペックは彼女たちの方が圧倒的に上。彼女たちの手を空けるのが道理だろう。
「もう行くのね」
後ろから声が掛かる。ミューズさんとアーシャさんだ。
「止める、ほど偉そうなものではないし。それに命牙が使える様になったとも聞いたわ。なら既に魔法使いとしては上澄みの上澄み。この先も十分戦っていけるはず」
「そ、そうね。でも、ほんとにいいの? やっぱりブルースの回復を待った方が……」
背中を押してくれるアーシャさんと引き留めようとするミューズさん。万全を期したいという気持ちは分かるがここに留まって時期に一週間になる。さすがに前に動かなければならないだろう。
「ならまずは北へ進みなさい。小さいけど町があるはず」
「すみません。いろいろと」
「礼はいいわ。それよりも、楽な道はないという事を覚えておきなさい。いままでは魔物との遭遇だけだったかもしれないけど、この先は魔人もいるわ。ヴァルメクほどではないでしょうけど、少なくとも楽ではないわ」
「はい。気に留めておきます」
といいつつも、「初見でギャル魔法に対応出来るやつはそういないのでは」とタカを括っている俺がいる。ヴァルメクの狙撃のような戦法を取られると厳しいが、それでも命牙の力があれば大抵なんとかなるだろう。
「じゃあ、行ってきます」
そう言って俺たちは要塞を後にした。
門を通って階段を降り、道なりに歩いていく。
……。
「……。で、誰が説明してくれるの?」
「え?」
「説明。私、ほとんど寝てたんだから」
「あー……。そうだな、そうだよな」
言われてみればそうである。あっけない決着と話したくない部分が多すぎて話すのをあと回しにしていた。
というわけでかくかくし(か)じ(か)。
「……なんで最後の方ボカすの?」
「いやボカしてない。うん、ちょっと説明がヘタなだけで」
「ふーん……」
うまいことまとめてなんとか納得させた。これで大丈夫だろう――。
「で。ユーマはミオちゃんに言いたいことがあるんだよね~」
「ふぅん」「え゙」
アカリ……? なんでそんなことを……。
「何? 言いたい事って」
「いや……、無い……こともない、こともない……」
「別に、言えばいいじゃない」
「いや……、今は、その……」
「何よ」
ど、どうする。少なくとも今ってタイミングではないだろう。えーっと。あっ。
「アレ、魔人——」
——ドゴォォォン!!
「……いないじゃない」
「いただろ! お前が消し飛ばしただけで!」
「どっちでもいいじゃない。——で、何?」
なんてこった。こういう時のギャルが強すぎる。
「っ……。つ、次の町で……」
「へぇ。一晩も黙るつもり? ——ああ、でも」
何か言おうとして黙った。次の瞬間、体が浮く。
「おい! 空は飛ぶと危ないって――」
「え~? 低空飛行なら大丈夫っぽくない?」
アカリも何故かノッている。なんでそんなことを。
「まあ、次の町で喋るなら、それでもいいわ」
——。よかった。首の皮一枚つながった――。
「まさか、”私の事が好き”なんて、言わないでよね」
——え。
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