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告白

「な……!」


 ミオの体が力なく倒れる。狙撃された!? どこから? いや、まずは――。


「全方位に防御を!」


「う、うん!」


 アカリが即座にバリアを生成する。これで次弾は防げるはずだ。


「ミオ!」


 力なく横たわる体に近づく。


「——」


(頭に傷があるけど、貫通まではしていない。多分大丈夫だと思うけど)


「アカリ、防御魔法を展開したままミオの傷を治せるか?」


「大丈夫、任せて」


 頼んだそばからすぐに血が消えていく。胸が上下に動いているのを見て一安心する。今はただ気を失っているだけのようだ。

 ミオは無事。なら次は敵の排除を考えるが……。


(見回した程度で見つけられる程の範囲にはいない。それに狙撃のような攻撃、とくれば)


 思いつく敵はヴァルメクのみ。殺し屋と言われる彼らしくプライドなんてなさそうな手段を使って殺しに来たわけだ。

 向こうから来たのなら好都合。仇討ちといこう。

 ……。だが、なかなか次弾が飛んでこない。次弾が飛んできた方向から反撃を考えていたが……。


「あっ、ああっ……!」


 ミューズさんが声を上げる。何かに恐れるような震えた声。その正体はすぐに分かった。魔物がこちらに向かってきている。

 一匹だけというわけではない。複数体、間隔を空けて、俺たちの周りを囲う様に集まってきている。


(包囲して、しかもこの間隔はアカリやミオの超火力を逃がす為だろう。ヤツはただの殺し屋だけじゃない。軍略も持っている)


「えっと、あっ、わ、わたしはうしろの敵を……」


「駄目です。アカリのバリア圏内から出ないでください」


「で、でも、でも」


「敵は個別撃破を狙っているはずです。こっちも手数は欲しい」


「う、うぅぅ……」


 ……、なんて、口にしたはいいが、この状況を打開する方法は……。


「アカリ。このバリアの一部分に窓みたいな穴を開けられるか? ミューズさんにその穴から魔法で攻撃してもらう」


「えっと、えっと。ちょっと待ってね。う~ん……こう!」


 するとアカリの背面側にあたるところに本当に窓が出来た。例えであってこんな学校の窓みたいなのが出来るとは思わなかったが。


「ミューズさん。この窓から迎撃をお願いします」


「こんな小さな穴からだけ!? む、無理よ、間に合わないわ!」


 分かっている。だが……。


「……」


 分かってはいる。だがだ。


 ——カツッ。コン。


「なんだ?」


「なんかバリアに石? みたいなのがぶつかってるっぽい?」


 バリア越しに目を凝らす。ちょっと大きめのゴブリンみたいなやつが投石しているのが見えた。それも一方向ではなく全方向からだ。バリアが頑丈すぎて危機感を感じていないが、飛んできている石は頭くらい大きい。当たれば致命傷だ。


「わーっ! すごいいるー!」


 加えてこん棒を持った小型のゴブリンも集まって来ていた。バリアは軋みを一切感じさせないが、囲まれているというのはそれだけでプレッシャーだ。


「ひぃぃ~~!」


 アカリの後方、後づけの小窓から腕を突っ込んでくるゴブリン。


「アカリ! 窓はやっぱ無しだ! 消せるか!」


「ちょ、ちょっと待って! う~ん、ほい!」


 小窓が消える。ゴブリンの千切れた腕が落ちる。


(ジリ貧だ……この状況は打開するには……)


 俺に出来る、頭を使う事。思考を深くした、その瞬間——


 ——バキィッ!


「うわっ!」


「どうしたアカリ!?」


「めっちゃ強いのが飛んできた! 石なんかじゃない!」


(しまった……! ヴァルメクの第二射を見逃した……!)


 どうする。この囲まれた状況では、仮にヴァルメクだけの場所を特定出来たとして反撃までは出来ない。

 打破するには、強力な力がいる。盤面を一撃でひっくり返す、強力無比な力が。


「……。アカリ。正直に言ってくれていい。——バリアを維持したまま広範囲を攻撃出来るか?」


「う……」


 無茶を言っているのは分かる。片手でミオの回復を、片手でバリアの維持に使っているのは分かっていた。だからさっきの小窓を作ったりなんかは少し時間が掛かった。むしろ出来ただけすごい。

 可能性があるとすればミオだが、頭に狙撃を受けて無事かも分からない。いつ目を覚ますか分からない。無理はさせたくない。


「どうする……」


 つい口に出してしまう。どうすれば現状を打破できるのか。

 ……俺が。

 もっと強ければ。


「わ! なになに!?」


「!?」


 アカリの声に驚き振り向くと、彼女の胸元が強い光を放っている。

 その光は、徐々に大きくなり遂には直視出来ない程になった。


「く……!?」


 俺も腕で目元を覆って目を閉じた。何か、何が起こっている?

 ——。5秒か10秒。目を開くと光は収まっていた。ゆっくり目を開く。それと同時くらいに、ボト、という音がした。


「へ……?」


(なんだ?)


 音がした方を見る。そこにあったのは――。


 棒。程よい長さで固まった溶岩の様な色をして、熱いのか陽炎が揺れている。


 棒だ。それ以外に表現のしようがない。——と。


「めっ……命牙……!」


 とミューズさんが漏らす。


「え……」「な……」


 俺達二人して驚愕する。なんで今、命牙なんてものが……。


 ***(アカリ視点)


「どうする……」


(……!)


 またユーマが思い詰めている。

 たぶんきっと彼は、自分の非力さを悔やんでいるに違いない。

 だから悩む。自分を責める。それは、望んでいないことだ。


(じゃあ、アタシは何が出来るの?)


 あの時感じた、ユーマの答え。

 「その、改めて、だけど……。俺は――」


(あれも魔法なのか、分からないけど――)


 アタシにはその先が”視”えた。


 「俺は――、ミオが好きなんだ」


 魔法が見せた未来視なのか、あるいは、緊張したアタシの頭がみせた錯覚なのか。

 分からない。分からない、けど。


 それでもいいと思えた。《《好きな人の事だから》》。


 アタシは手を引くんだ。それで、この旅がどこへ向かうのか分からないけど、アタシは二人を祝福したい。

 幸せになってくれればいい。本当にそう思ってる。

 なのに。


 ——なのに。

 どうしてこんなにも、ムカつくのだろう。

 むかつく。ムカツク。きっと、この胸に発生した泥のような感覚は、ムカつくと表現するのが正しいはずだ。——吐き出したい。


 ……。


 ——ああ、そうか。たったそれだけの事か。


 吐き出したい。これが全てなんだ。

 ねえユーマ。

 アタシの気持ち、まだ聞いてないでしょ。アタシもまだ知らないの。変だね。

 だから、見てて。これがアタシの告白《めいが》。


 ……なんて。


 アタシも、この時はよく分かってなかったんだ☆


 ***(視点は戻る)


「ほええ!? 命牙、ってアタシの? ホントに?」


「ア、アカリちゃん。拾ってみて。きっと、すごい力が出せるはず……!」


「う、うん……」


 どういうわけだか分からないが、この土壇場でアカリは命牙の生成に成功したらしい。ほんとにこのギャルというのは分からないものだ。

 だが、ここで一番欲しかった「一発逆転の切り札」。これで形勢は逆転する。

 アカリがその棒(でいいのか?)を拾おうと手を伸ばした。その時——。


 ——バチッ!!


「痛っ……」


(なんだ……? 弾かれた、様に見えたが……)


 異様な音と共にアカリの手が弾かれた。どういうことだ、まだ俺達の知らない命牙の仕組みがあるのか?


「ミューズさん、これは……」


「わ、分からない。だって、私だって知らないし……」


 どういうことなんだ。せっかくの切り札なのだが……。


「アカリ、もう一度拾えるか?」


「え。ええ~……。いや~、その~……。ええ~……」


「どうした? 何か分かる事があるのか?」


「え、だってこんな《《痛々しいモノ》》、持てるわけナイってゆーか……」


 ……、痛々しい?

 地面に落ちた棒を見る。尖っているとか、トゲトゲしているとか、そんな見た目は一切していない。棒だし、どちらかといえば弱弱しいように見えるが……。


「ユーマは、これ、こわくないの?」


「怖い? どこが?」


「ええ~……。パンパンの風船並みに怖いっていうか……むしろ爆弾? みたいな……」


「だとすれば、まあ、怖いか……」


 そう説明されるとちょっと納得する。であれば怖いというのも分かるが、さっきは痛々しいと表現していた。トゲトゲ風船……怖いか?


 ……。いや、だったらだ。俺が持てばよくないか?


 アカリは弾かれた上に異様に怖がっている。だが俺は恐怖を微塵も感じない。じゃあほら、男の的にいくしかないでしょ。

 と、無言でその命牙に手を伸ばす。


「っ! 駄目!」


 ミューズさんが止めかけた。でも俺の手は止められず――その棒を握った。


「ハウゥッ!!?」


 アカリが変な声を出した。


「んっ……、や……、ぁぅ……」


「……」


「ぅ……ん……」


 色っぽい声を漏らしながら、へにゃっと座り込んだ。そして、これは……。


 同時に、ポッ、っと情けない音と共に周囲を囲っていたバリアが消えた。——押し留めていたゴブリン共が襲ってくる――。


「~~っ、やばっ――」


 ——ことは無かった。周囲一帯は灰燼に。燃えカスだけが宙に浮かんでいた。


「…………、ほえ?」


 呆気に取られるアカリ。全てはものの数秒間で起こった出来事だからだ。

 ひと振りにも満たない、一薙ぎで灰にした。


「——アカリ」


「へぁっ、はい!?」


「——ごめん」


「え……」


 ——カァン……!


 水を差す様に飛んできたヴァルメクの弾丸。それを叩き落す。同時に地面を蹴って飛ぶ。一直線に。弾丸の飛んできた方向へ。

 時間というものを必要としなかった。彼我の距離は無に等しく、放たれた弾丸が冷めるより先に敵・ヴァルメクの体を両断した。


「——。化《ば》け物《モン》が――」


 断ち切られた体が燃え始め、しばらくその体を眺めていた。

 逃げ去る影は見当たらず、ヴァルメクは完全に燃失した。


「……」


 あっけない。そう思わないでもないが……、そんなことより、だ。

 もう一度飛ぶ。今度はゆっくり、アカリを驚かせない様に。


「か、帰ってきた……」


 終始呆気に取られたような顔をするアカリ。まあ、自分でも驚いているが。


「アカリ」


「な、なに?」


「全部、聞こえたよ」


「どういう、こと?」


「この命牙を通じて、アカリの思いが、考えが、——俺への想いが。《《全部》》、聞こえてきた」


「……。……?」


 一。


 二。


 三秒。


「~~~~!!!??!?!?!?」


 顔を真っ赤にするアカリ。この三秒でちょっと冷えた俺の顔もまた熱くなってきた。


「あ、あああ、あの。なんていうかなんていうか。アタシっ、っていうのは、その――」


「アカリ。聞いて欲しい」


「えああああ、えっと、あの、アタシはホラ! あれ! あの~……!」


「俺……、ミオにちゃんと告白する」


「アタシ、アタッ……ぇえええええええ!!」


「んで、学校の近くに店を建てる。パンのおいしい喫茶店」


「え、え、え」


「子供は二人欲しいかな。真逆の性格でも、仲良しの二人」


「あわっ、あわわわわ……」


「それで……——」


 ……。

 俺の暴走は、しばらく続いたらしい……。強大な力の副作用? 的なもので……。はぁ……。


―――――――――――――――――

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