魔法と恋慕
次の日。
「んんっ……」
食堂に来ている俺たち。俺の前にはプレート山盛りのご飯を持ったアカリ。
アカリはなんというか、曇り顔というか、まあ……。
「腹減るよな」
「……」
「——俺はおいしそうに食べる女の子は好きだな」
「!」
アカリの曇りは晴れ、プレートの肉に魚にバターライスをガツガツと食べる。やや心配になる量ではあるが当人は幸せそうに食べているのでいいだろう。
かくいう俺も飯の量は多い。昨日から始めた命牙の修行は、どういうわけか体力をよく持っていかれる。まあ、修行、訓練とは疲れるものかもしれないが。
「♪」
おいしそうに食べるアカリ。俺が作ったわけでもないのに見ているだけで幸せになる。それに比べると……。
「ミオ、少なくないか?」
「別に……普通の一人前だし」
「でも、腹減るだろ。俺もなんか減ってるし」
「いいの。これで」
そう言って丁寧にサラダから食べ始める。それに大盛の俺達と食事が減る割合速度が同じくらい。多分めちゃくちゃ咀嚼して食べてる。
「無理、してないか?」
「……別に」
「なにか取ってきてやろうか?」
「……」
不機嫌そうに睨んでくる。なにか、暴食には乙女心がブレーキをかけるのだろうか。多少の飲み食いなんて気にしなくてもいいのに、と思うのは粗雑な考えだろうか。
「……(そうだなぁ)」
——しばらくして。
「「ごちそうさまでした」!」
食事を終える。プレートを持って返却しに行く。そして食堂を後にし、今日もまた修行に向かおうとしていた。
「よーし、今日も修行を――ぴゃあ!?」
「うーん……」
ミオがアカリの脇腹を摘まんでいる。その指先は空を切る。摘まむ肉がないということだ。……すごいな。
「……」
手を離したミオは自分の脇腹を摘まむ。その指には僅かながら肉が乗る。
「くっ……」
勝手に敗北感を感じていた。
「……。俺は、そんなに気にならないけどなぁ」
「うっさい。私自身の問題なの」
「そ、そうか」
俺の薄すぎるフォローなど何の意味もなく。複雑な乙女心の前では意味を出せなかった。女の子の体重問題は繊細で重い問題のようだ。
アカリは摘ままれた自分の腹をスリスリと撫でながら、作り笑顔で言う。
「ほ、ほら! 今日頑張って修行したら、その分カロリーを使えばウィンウィンっていうか……」
「……」
……。そのもう一つのウィンが誰のものなんだろうか。
「新しい魔法を覚えたらそれだけでお釣りが出るっていうか……」
……。その「お釣り」がいらないという話なんじゃないのか?
「ええと……」
多分アカリなりにフォローをしたかったのだろうが上手くいかず、といった様子。女の子同士でも上手くいかないもんなんだな。
だが。
「……まあ、そうよね。——頑張るか」
何かが引っかかったのか、ミオは前向きになった。よかったよかった。
***
ミューズさんと合流し、門の外へ出る。今日は昨日とは別の方向へ向かう。昨日の場所は二人が更地に変えてしまったからな……。小型の魔物の退治も兼ねて別の場所へ向かう、とミューズさんは言う。
「小型の魔物でもそこそこなお小遣いになるし……」とぼやくミューズさん。なんか苦労が透けて見える。つつけばいろんな話が出てくるだろう。
「それじゃ、また二手に分かれて修行ね。今日は私とミオちゃん、かな」
「はい。よろしくおねがいします」
となれば、必然残るのは俺とアカリか。
「じゃあ、いくか」
「うん!」
というわけで二人での修行が始まった、わけだが……。
(昨日はミオに魔法の幅について教えた。でもアカリはその幅を既にもっている)
ならば、俺が出来る事は……なんだ。
「ユーマ?」
「なあアカリ。俺の能力を上げる、みたいな魔法でどこまで俺は強くなれる?」
そうだ。せっかく時間があるわけだし、いろいろ試してみよう。
例えば、俺自身の強化。
これは自負だが、魔法の幅や想像力といった能力は多分このパーティで一番だろう。でも単純な問題があって、それは俺には魔法の素養がないこと。魔法がつかえないから意味がない。
そこで、逆に考える。
アカリやミオの魔法を受け継ぐ、みたいなことが出来れば、二度手間にはなるが状況打破の魔法を俺が作る……ことが出来ると思う。
もしそれが出来るなら、状況判断に困った際に俺に丸投げする。みたいな事が出来るはずだ。……。
——違うな。本心で思っているのは、指示を飛ばすしか出来ない自分が嫌だからだ。
これまでの敵を俺の手で倒せたらどれほど気が楽か。……ヴァルメクに好きにさせずに済んだなら。
「うーん、とりあえずやってみるね」
そう言って魔力を込めるアカリ。その出力が凄まじく強いことだけは肌で感じる。
直後、俺の体に力がみなぎるのが分かる。
「……」
感覚が鋭いのが分かる。見上げた枯れ木に付いた枯れ葉が落ちる。不規則な軌道を描きながら落ちる枯れ葉を目で追い、剣を抜いて斬る。一太刀どころかまだまだ余裕そうな感じがするので三太刀ほど加える。それでも時間はゆっくりと流れる感じがしていた。
一度剣を鞘に納めると、徐々に世界の速度が上がっていき目の前の木の葉が粉々に砕け散っていった。速度は元に戻ったようだが、感覚はしっかりしていて葉が砕け散る様をしっかり見届けた。
(身体能力という面では破格の向上だな。でも……)
次に少し離れた木を目がけ炎の魔法を撃とうと構えた。想定ではアカリの通常砲撃と遜色ない純火力の『ファイアーボール』を撃つ、つもりだった。
俺の手から火炎球が放たれる。だがそれはゆっくりと進んでいって、やがて霧散した。
(体の感覚でも分かる。肉体は強くなった。でも魔法は多分使えない。——今なら)
「アカリ、もう少し強めに魔法をかけられるか?」
「うん。出来る、けど……」
「試してみたいんだ。俺にも命牙が使えるのか」
そして魔力を体が受け取る。さっきより強い力。でも――。
(魔力を扱うにはもう少し力を受け取る必要があるか)
練り上げる魔力が足りないと感じる。もっと補助が必要か。
「アカリ、もう少し渡せるか?」
「え……でも……」
「どうかしたか?」
「う、ううん。わかった……」
さらに魔力を受け取る。出来る気がして――、でも出来なくて。
「アカリ、もう少し」
「アカリ、もうちょっと」
と頼み続けた。だが一向に出来る気配がない。すると――。
「アカリ、強化を――」
「——ダメっ!」
アカリが強く反対した。こんなに強く反対されるとは……。
「ど、どうした? なにか問題が――」
そう聞こうとした所、アカリは俺の手を取って強く握り、俯きながら答える。
「ユーマ、分かってる? 今、すごく危ない状態……だと思う」
「そ、そうなのか?」
「うん。魔力いっぱい渡して、フーセンを膨らませてるみたい。いつ爆発してもおかしくない、みたいな」
それもそうかと納得する。魔力を受け取っているものの、それを使っていないのだから溜まる方が早い。
爆発か。そんな感覚はないが、もしかしたらありえるかもしれない。
「分かった。ちょっと落ち着くまでどうにかするよ」
「……」
「……アカリ?」
どうかしたのだろうか。熱いくらいに握られた俺の手を離そうとしない。
軽く引いたくらいではびくともしないのでその手を握り返してみる。
「どうした? なにか不安とか、困り事? ——ああ、俺は今の所大丈……」
「……ユーマ。ずっとピリピリしてる」
「あー……」
流石に隠し通せないか。期間としては短いがそれでも日常の何倍も濃い距離感でここまで来たのだ。感情の機微に敏い彼女らに見抜かれるのは必然だ。
「ブルースさんを守れなくて、だよね」
「……。うん」
その読みは当たりだ。
そも――焦りは最初からあった。俺は魔法必須なこの世界で、何一つ優れたところがない。精々偉そうに支持を出すだけ……。過去に倒したボス級の二体との戦いにおいて、俺がなにかをしたことは何もない。
「アタシも、がんばるから」
「……」
「だ、だから……その……」
……ん?
「——好きって、言って?」
——え?
―――――――――――――――――
お読みいただいてありがとうございます。
よければブクマや最新話から評価をつけて応援していただけるととても嬉しいです!




