痛み分け。そして
「く……!」
爆風は凄まじいものだった。俺たちはミオの守りの後ろにいたから大した事は無いが、その守り越しに見える爆発の光はまるでアーク溶接を思わせる光だった。
「ミオ! 大丈夫か!」
「だ、大丈夫! でも……」
ミオの声音的にも大丈夫なんだろうという事は分かった。だが彼女が懸念していることは俺にも分かる。
やがて、爆風は収まった。
「ブルースさんッ!」
俺達より前で、防御魔法も無く、爆風に晒された彼はどうなんだろうか。
「——……」
遠目に見た彼はそれほどダメージを負っているようには見えない。大剣を盾に爆風を凌いだようだった。だが無傷とはいかないだろう――と、駆け寄ったタイミングでドサリと倒れた。
「アカリ! 回復魔法はいけそうか!?」
「りょ!」
外傷は見当たらないが……。その見た目以上のダメージを負っている、と感じた。回復魔法でなんとかなればいいが。
しかし自爆、か。最大の脅威かと話していた相手が自ら消えてくれるとは。
……。本当にそうか? 殺し屋と言われ、昔から脅威を振るっていた敵がここでこんなにあっさり退場するだろうか。
「——マジかよ。奥の手使って全員無事なんてな」
「っ!?」
声がした。この場にいないはずの、敵の声が。
立ち上がり探す。体は爆散している。どこだ……?
「ここだぜ、坊や」
「なっ……!?」
その声の方向を見て驚く。声の主は、ブルースが切断した腕から発されていたからだ。
「ぶっちゃけヤバかったのは本当だぜ? ここは痛み分けといこうや」
ひょこっと腕だけで立ち上がり、ぴょこぴょこと跳ねながら逃げていく。
生きるために必要な核? があの腕の中にあるような、捻りのあるタイプの敵だと判断した。そして腕だけなら棒振りの俺でも倒せる可能性がある。
なにより、仇を取らねば気が済まない。
「じゃあな」
「待てッ……!」
追いかける。だが森の奥から魔物がぞろぞろと出てきた。これでは追いつく頃には敵に囲まれ、自分がやられてしまう。
自力で突破出来ない情けなさに腹が立つが、それより考えるんだ。アカリは治療にあたってくれてる。動けるとしたらミオか。
「ミオ! この魔物ごと全部ふっとばせるか!?」
「思いっきりでいいのね! やるわ」
そう指示した直後。俺の前から見えないソニックブームのようなものが飛んでいき、空間に歪みを与えながらソレに触れた魔物が捻じり切られていく。
(範囲魔法ではある。だがこの感じでは……)
木のような魔物やスケルトンは次々と粉砕していく。威力は破格だ。申し分ない。だがヤツ……あの腕だけの小さい奴も巻き込めるかというと……。
(俺の指示不足か……)
やがて静寂が訪れた。目の前にあった木々は更地に変わり、魔物の一匹もいなくなった。
「……倒したの?」
「分からない」
ミオの疑問に答える確信は無かった。だがシステム的に考えれば、後で査定を受ければ倒したかどうかが分かる。
だが多分……これで終わるようなヤツではないはずだ。
「ユーマ……」
「とりあえず、今はみんなで要塞に戻ろう。運ぶ魔法とかは……」
「なんとかするわ」
***
魔法で浮かせて負傷者を運び、なんとか要塞の中に戻ってこれた。
腹に穴が開いたアーシャさんが重症かと思ったが、アカリの魔法が優秀だったのか特に問題ないらしい。
だが問題は無傷そうに見えたブルースの方が重症だということ。ベッドに横たえた彼の横で医師から説明を受ける。
「彼は命牙を展開し、それで身を守ったと聞きました。実際外傷は見られません。しかし命牙には弱点があります」
そう言って医師は説明を続ける。
「命牙……。『いのち』の『キバ』と表されるこれは、術者の肉体、および精神部分で深く繋がっています。命牙が物理によって損傷することはほぼありません。裏を返せば、損傷するほどのダメージを負う場合、そのダメージは所有者に返ってきます」
「ということは、あの爆風を全身で受けたのと同じ、ということですか?」
「実際に直撃するのとは場合が異なります。今回の場合では彼の防御の判断は最善ではありました。ただ敵の攻撃が規格外のものだったというだけで……」
「……」
彼を守れるほどの力がなかった。……いや、その言い方をするのであればこの要塞内に彼を守れるほどの力を持った存在はいないだろう。
もっと、力があれば。
そう思いながら病室を後にした。
***
査定所を後にする俺たち。ヴァルメクを倒したかどうかの確認のためだったが、結論、倒せてはいない。どうやってかは分からないがヤツは逃げ切ったらしい。査定所から出てきたほんの少しの金銭を受け取りその場を後にする。
「……」
「……」「……」
重い沈黙が俺たち三人の間にあった。誰もが心の中で反省をしていた、そんなところだろう。
その沈黙を破ったのはアカリだった。
「ムカつく」
ぼそっと放ったその一言だが、雪崩の様に言葉が溢れてきた。
「あの時は、しんどかったし、動くのもしんどかったけど。でもこんなことになって欲しかったわけじゃない」
「……うん」
「いつもどおりなら、前みたいに動けるなら、絶対勝てる相手だった」
「私も……。もっと頭が使えていれば」
俺もただ見ているだけでは駄目だった。頭を使う事を放棄したのがいけない。俺の役割は司令塔。判断が出来なければ話にならない。
「ね。ウチらさ、もっと修行しようよ」
「うん。私もそう思う」
「もちろん俺も」
「となれば……」
こう方針が決まった時のアカリは強い。行動力が凄い。
……というわけで。
「え、わ、わたし?」
前にブルースと共に修行に出た時についてきてくれた魔法使い、ミューズさんの元を尋ねた。
「お願いします! 引率? 的な感じでいいんで!」
「え、ええ……でも……」
ペコペコ頭を下げるアカリと頭を下げたまま上げないミオ。俺も適当に頭を下げておく。だが頼まれれば頼まれるほどミューズさんの顔色が悪くなっていく。
「わたしなんかじゃ……、ええ……、でも……、うーん……」
「お願いします!」
「あの時だって、わたし、数合わせで呼ばれただけだし……それに——」
どよっとしたため息を吐きながら。
「——あの時なんにも出来なかったし……」
目に見えて落ち込んだ様子を見せるミューズさん。彼女も思う所があったんだろう。
だが、だからこそ、だ。
「私達、強くなります! 勝手にやるんで、門の外を軽く案内してくれるだけでいいっていうか……」
「うう……、じゃぁ、案内だけなら……」
という事で(押し切って)案内してもらうことになった。
***
門の外。
木々が生い茂る暗い道を進んでいく。
「この位離れてればいい、かな……」
そういうミューズさんの言葉を皮切りに。
「よっしゃー! いっくぞー! うぉりやぁー!」
アカリが人気無い方向に向かって砲撃魔法をぶちかました。……多分ストレスが溜まってたんだろう。しばらく好きにさせてあげよう。
「ユーマ」
「ん?」
暴れるアカリとは裏腹に落ち着いた様子でミオが話しかけてくる。
「あの時使った魔法……あれじゃ足りなかったんでしょ?」
「あの時……、ああ」
多分、ヴァルメク(腕)を逃した時の魔法の話だろう。火力は十分、範囲も指示通り。だが本音では核爆発のようなどうしようもない程の火力が欲しかったといえばそうだ。
「教えて、ユーマ。私、出来る様になるから」
「……分かった。俺も頑張る」
こうして魔法の訓練をすることになった。
***
「み、みんな~……。ご飯作ったわ、よ~……」
やはり自信なさげに話すミューズさん。そんなに気にしなくてもいいのに。
「ふぃ~。休憩も大事よね! 食べまーす!」
前後左右。見渡す限りを更地に変えたアカリ。ミューズさんの指導もあり魔法の幅が広がったようにも見える。ラノベを読んでいた影響もあってか、飲み込みが早いようだ。
「ほら、ミオも休憩いくぞ」
「そうね……」
頭上に浮かべていたブラックホール的ななにかを静かに消し、凛とした顔で背を向ける。二人ともこの短期間ですごいことになってないか……?
「ふ、ふたりともすごいわね……はは……わたしなんかいらないんじゃないかな……はは……」
ミューズさんは何故か自虐的だ。教えたりとかご飯つくったりとか、すごくありがたいですと伝えても「はは……」とどこか虚ろな返事が返ってくる。
「みんな、も、命牙、つかえるんじゃ、ないかな……」
「そういうものなんですか?」
「魔法使いとして一定の練度を積むと、あとは自然に、かな。はは……」
「ミューズさんも使えるんですか?」
「い、一応、だけど。さすがにブルース先生ほどじゃぁないかな」
先生って呼ぶんだ、とか思いつつ。
命牙。たしか魔術師の切り札とか言ってたような気がする。
俺……は無理だろう。さすがに分かる。でも才能爆発中の彼女たちなら? 出来ても不思議ではない。
「むぐむぐ。じゃ、後でそれの練習でもしようかなぁ」
(簡単に言うなぁ……)
「私も」
(こっちは負けず嫌いか)
とはいえ。前向きに戦力強化出来ているのは良い事だと思うし、出来る様になったらそれはそれでいいと思う。
「ユーマ」
「ん?」
「——絶対、強くなる」
それだけ言って、ミオは前を向いた。俺はその横顔を、少しだけ長く見ていた。
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