修行、いる?
次の日。俺たち三人は要塞内部から出た所で集まった。
昨日の夜? なにもなかった。三人とも別々の部屋が用意され、とても快適に眠った。少なくとも俺は。
二人のギャルもツヤツヤしている所を見るによく眠れたのだろう。
「さて、集まったか」
そう言うのはブルース。……と両脇に二人の女性がいる。若い女性なのだが、これまた分かりやすく魔法使い的ローブを纏っている。つまり魔法使いなんだろう。わかりやすい。
「今日は近くの森で訓練するぞ。ここが何故要塞と呼ばれているかも知るいい機会になるだろう」
訓練か。前も言っていたな。後ろでギャルがこそこそと何かを話している。彼女らは訓練なんか必要なさそうだしな。
しばらくトコトコとブルースについて行く。やがて門をくぐり、外の世界へとでた。
さらに歩いて枯れ木が多くみられる不気味な場所に着く。そこで立ち止まった。
「では、ここからは三人別れて訓練する」
なんて言い出した。これはちょっとまずいかもしれない。
「金髪の嬢ちゃんはこっちのアーシャと。黒髪の嬢ちゃんはこっちのミューズと組んで修行を付けて貰え。——一週間、この森でみっちり鍛え上げてやる」
「あの、俺は?」
「そりゃ俺だ。不服か?」
ということで、三人が別々に分かれていった。アカリなんかは「ばいば~い」といつも通りにみえたがミオは大丈夫だろうか。
一週間、ねぇ。短いようで、すごく長い期間になるだろう。特に夜。俺も彼女らも
しばらくブルースについて行く。
「心配か? お嬢ちゃんたちが?」
「いいえ、彼女らは、まあ、強いので」
「だろうな。今朝、もう一通伝書が届いてな。お前たちの能力が書かれていた」
内申書、みたいなことか。ちょっと怖いな。真実を書かれることも、盛って書かれることも。
「嬢ちゃんたちは凄いな。なんでも七次元魔法まで使えるとかなんとか。だとすればいままで片手に収まる程度だった魔法使いが一気に溢れることになる。これは凄い事だぞ」
やっぱりすごいんだ。くらいしか感想が湧かない。なんかそれっぽい事を城で言ってたなぁとだけ記憶しているが。
しかし自分の感覚で、その凄さを知っておきたいものだ。言語化できる、というほうが正しいのかもしれないが。その七次元? というのはどうすごいのだろうか。
「七次元か? ふーむ、俺も講釈垂れる器ではないが。次元、というものが一つ上がるに連れ目に見えない物が要素として増えていく、といって分かるか?」
「えっと、一次元が点で、二次元が面、三次元で奥行きで、四次元が……時間、ですか?」
「なんだ、ある程度は知っているのか。その理解でいいぞ。んで、七次元は『運命』と言われているな。俺にはさっぱりだ」
はあ。ファンタジー世界だが俺たちの元居た世界と変わらないところもあるんだなあ。とはいえ理解の範疇を超えたものだということは分かる。
「んで、お前さんの事も書かれていたぞ。なんでも「追い込まれると本気を出す」とか」
……。そんな解釈をされてしまったのか。あの時は無我夢中でやるだけやった、ってかんじなんだけど。
「結果としてあの剣神・シルヴィアから一本取ったと。多少の手加減はあっただろうが、それでも『王城が陥落しない理由』のシルヴィアから一本取ったというのが本当なら、大した奴だ」
あの人そんなすごい人だったのか。確かに強い人なのは対面した俺が良く分かっているが……。やはり魔法とファンタジーな世界なだけあってただの美人だけではなかったわけだ。
とブルースの足が止まる。
「見ろ」
その視線の先には人っぽいのがいる。っぽい、というのは肌の色がピンクで衣類を纏っていない。そして頭には角が生えている。
魔物、なんかとは違う。この距離からでも感じる存在感。俺が言うのもなんだが、中ボス、みたいな。
「奴もまた王城へ進行しようとする”魔人”だろう。要塞はそいつらの動きをいち早く観測。そして俺たちのような戦えるものが対処する……。というのがこの要塞の役割だ」
説明を聞きながら敵の観測を続ける。なるほど、あんな戦闘能力が高そうなやつが普通の街に現れたら……。それこそ前のような辺鄙な街だったなら。
「”魔人”というには理由があってな。ヤツらは言葉を使う。俺たちと同じ、だ。だが、だからといって説得しようなんて考えるな。ヤツらの根幹の感情は破壊衝動だ」
「……分かりました」
「では倒しにいくか。見た所奴はせいぜいCランクくらいか。準備運動くらいにはなるか?」
「……それ、俺に言ってますよね?」
「そりゃそうだ。お前が前衛、俺はサポートだ。基本的に手出しはしない。出来る、だろう?」
心の中でデカいため息をつく。——勝てるのか? 彼女ら抜きで。
だが、やるしかない。どの道強くなるしかないんだ。やってやる。
「死なせはしないが、ギリギリまで手は出さん。お前さんの本気、見せてみろ」
その言葉を背に、俺はその魔人とやらに向かっていった。
***
「……。よっと」
ブルースが背負っていた”それ”を地面に放る。それとは……俺だ。
「うぐ……」
二日。いや正しくは半日だろうか。最初の魔人と戦って楽勝……なんていくはずもなく。ほぼブルースの手で倒された。俺は走って飛んで、なんとか近づいたら剣を振って、でも躱されて、を繰り返していた。
数分後、俺と同じく俵の様に担がれたガールズたちが来た。
「——きゅう……」
「——うう……」
彼女らも《《のびて》》いた。俺はともかく彼女らがダメになっているのはどういうことだ……?
※※※※※※
※閑話休題※
※※※※※※
俺「そっかぁ、ギャルってのは最強。いいですね、それで物語書こう」
師「どんな話?」
俺「ギャルが異世界で無双するんすよ」
師「それはよくないな」
俺「といいますと?」
師「いいか。ギャルってのは『他人との関係で構築される要素』なんだよ。金髪で肌黒でギラギラのネイルをしてるからって、それは単体はギャルじゃない。普通の女の子なんだ。相手が男であれ女であれ、相手がいてそこで完成するのがギャルという要素なんだ」
俺「じゃあ異世界ギャル冒険は……」
師「まあ男をつけてラブコメにしてしまうのが無難かな」
俺「関係、か……」
※※※※※※※
※休題終わり※
※※※※※※※
「……どうだった?」
ブルースが口を開く。なんだか口が重そうに聞こえる。
「全然ダメね。確かに七次元魔法は使えるみたいだけど、やってる事は基本魔法のそれだし。応用も利かない。それにすぐにガス欠。ほんとにあの嵐の王を倒したの?」
「こっちも。見えてる敵を殺すって事はできるっぽいけど、空間探知とか基礎的な事がなんにも出来てない。一応言えばそれっぽいことをするけどすぐバテるって感じ」
報告を聞いたブルースは「なるほど……」とため息交じりに息を吐く。
暗雲で覆われた空を見ながら疲労の溜まった体を地面に投げる。たった二日なのにこうも上手くいかないとは。男子的に情けない。
「きゅうう~~……」
「はぁぁ……」
「……三人して一週間と持たなかったか。どうやら聞いていた話と相違があるようだ」
ギャル二人も、どんな修行だったのか知らないが疲れ切っている。持っているスペック的には俺なんかより圧倒的に上のはず。なのに俺と同じようになっている。何故だ?
「仕方ない。少し休ませたら街に戻るぞ。後の事はおいおい考える」
完全にお荷物状態。それに期待を裏切る形になってしまった。わりと、いやかなり悔しい。
(ちょっとくらいは俺にも能力があってもいいだろうに)
ちょっと愚痴る。『チートスキルで異世界無双』とまでは言わないが、女の子たちを守れるくらいのスキルが欲しいし、ないなら成長したい。
そう、成長したいのだ。今回だってそれが目的だったはずだ。なのに成長に差し掛かる前に……くそぉ。
「ほら若いの。飯でも食え」
いつの間にか飯を用意してくれていたらしい。のっそりと体を起こし、シチューのようなものにありつく。
「本当は飯の作り方とか昆虫食とかも叩きこむ予定ではあったんだぞ」
「え~、昆虫食~!? ちょっと無理、かも……うぅ……」
アカリがファンタジー世界あるあるに忌避感を感じている。俺も積極的に食いたいとは思わないが。まだマシと思いながらシチューを食べる。
「さて、これからどうするかねぇ」
ぼやくよう言うブルースの言葉が刺さる。うう、情けなくてごめんなさい。
「! ブルース! あれ!」
お供の魔法使いが空を指さす。釣られて見てみると城塞方向から青の煙が上がっている。
「ブルースさん、あれは?」
「城塞そのものに攻め込む何者かが現れたらしい。青は緊急性は低いが……妙なタイミングだな」
やっぱり狼煙みたいな感じなのか。こうして遠方に知らせる手段があるという時点でも十分緊急性が高いと思うのだが……。
「急いで戻らないと!」
「そう急ぐな。あそこは要塞、それなりに腕の立つヤツらが沢山いるんだ。——過去に陥落したことは、ただの一度を除いて歴史にない」
……まぁ、冷静に考えてそうか。じゃなきゃ要塞なんて呼ばれ方はしないだろう。
「とりあえず戻りはするが……。おい、さすがに歩くくらいは回復しただろう?」
「だ、大丈夫です」
立ち上がり、鍋やらを片付けて帰路につく。
帰路。歩きながら要塞の方を見る。それなりに時間が経ったと思うが……この煙っていつまで焚くんだろう。
「——妙だ」
「あの煙、ですか?」
「こんなに長く青が続くことはありえない。脅威があるならそれを片付けて煙は消す。あるいは迎撃に失敗したなら黄色の煙に変わる。何が起こっている?」
その説明は理解出来た。火があるのに延焼も鎮火もしないのは変だということ。何が起きているのだろう。考えられることは……。
「アレじゃない? 戦国ぶしょーが睨み合ってるやつ」
「ソレ、フィクションよ。実際はあんな感じにはならないらしいし」
なんてアカリが言ってミオが突っ込む。でも一理は、あるか。一触即発の空気ってやつが。
だとしたら……、いや分からないな。でも気を引き締めて向かおう。
要塞前。
「——止まれ」
門を目の前にしてブルースが制止をかける。全員が身構える。
「そういうことか。確かに、異常事態、だな」
視線の先には魔人が一人。人の形をしているが、異質に輝く赤い頭髪が印象的だ。
「……ホォ。ホントに待ってるだけで出てくるとは」
魔人が言葉を発する。静かで穏やかな声音、しかし殺意はこちらに向けられている。その圧が、今までに戦った敵たちとは明らかに違った。
要塞前に争った形跡はない。そして要塞も攻撃を受けている様子がない。
ただ待っている。それが青の煙が消えない理由か。
「——構えろ。そして自分の身を守る事に集中するんだ」
ブルースが剣を抜き、前に出て構える。その言葉にはいつもの余裕がなかった。
「Aランク魔人、鮮赤のヴァルメク。殺し屋だ」
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