要塞と日常
魔導要塞。
読みはそのまま、ルビはない。どんな所かと身構える。中は石と金属と蒸気で生きているような、SFチックな街並みだ。
「不思議か。この街が」
俺たちの前を行く魔法騎士、さんは俺の心でも読んだように言い当てる。さっき戦った時もそうだが、只者ではない。
「魔導、っていう割には凄く物理的だなぁ、と」
「物理、か。それについて語るのも乙だろうが・・・・・・」
チラと振り返って俺の顔を見て満足そうに答える。
「そんなものを肴にする歳でもあるまい。なあ?」
含みのある笑みを浮かべる魔導、いや、このおっさん。俺みたいな若いやつを見るのが好きなのか? まあ不機嫌でいられるよりは全然マシだが。
とおっさんの後をついていく事しばし。城のようなところに着く。最初の城もかなりの大きさだったが、ここのはさらに大きく感じる。
「なにせここが最終防衛ラインだからな。——なんてカッコつけたいが」
おっさんはデカイため息を吐いて言葉を続ける。
「はあ。昨日やってきた魔王の手下と思われる……嵐の王、だったか? 迎撃しようとはしたが逃がしてしまったしな」
「あ、それ倒したよ~」
「……なんだって?」
まあ信じられないよな。前の町で起こった事を説明する。かくかくしかじか。
「・・・・・・マジか。で、首は取ったのか?」
「クビって、生首の事か? 取ってないし、それにアイツは体を穿たれた後チリになって消えた。クビの取りようがない」
「チリに? ・・・・・・。まあ倒したというなら査定結果に出ているだろうが」
「査定、って。なにかあるのか?」
俺の問いに面食らったような反応をする。一瞬の間があって、その後に目頭を押さえながら答える。
「・・・・・・どうやら、お前達を呼び出した奴はなかなか抜けているようだな」
抜けている。か。シルヴィアさん、案外そうかも。
「お前達はこの世界の事を何も知らない。違うか?」
「それは・・・・・・確かに」
「ならば必要なのは・・・・・・」
鉄の扉の前に立つ。いつの間にか目的地に着いたらしい。親指で「ビッ」と扉を指さしてカッコつけるおっさん。
「座学! ・・・・・・の前に腹ごしらえ、か?」
***
扉をくぐっておっさんの後を着いていく。中は外見同様に石と金属で出来ており、明かりは魔法かなにかで蛍光灯みたいな光源を持っている。
しばらく歩いて着いたのはかなりの広さの部屋。並んだ沢山のテーブルと椅子。そしてフードコートのような受付カウンター。いわゆる学食みたいな空間だ。
「好きに頼めよ。俺の奢りってことでな」
と言うので俺とミオは肉料理を。アカリは魚を選んだ。トレイを持って、出てきた料理を乗せていく。本当に学食みたいなスタイルだ。
各々の食事を持ってテーブルにつく。
「さて。まあ飯でも食いながら聞くだけ聞いておけ。自己紹介が遅れたが、俺はブルース。ここの守りを任されている一人だ」
へえ。まあ門の前で出会った時から多分すごい人なんだろう、くらいには思っていたが。
「んで、運がいい事にというか。お前達の力になってくれというお願いも聞いている」
「お願い?」
「ああ。東の、アンタらが来た所から伝書が届いていてな。顔合わせが済んでよかったってとこだ」
男、ブルースさんは豪快に肉を食いちぎる。おっさんとは形容したがまだまだ若いみたいだ。
「んで、だ。これは頼みでもあるし、そして個人的な感覚でもあるんだがな」
いつの間にか皿から肉が消えている。早い。
「魔王城へ攻め込むのは少し待て。まずはここで鍛え直してやる」
俺はなるほど。と首を縦に振るが、ギャル二人はポカンとしている。
「この世界のこともよく分かってねぇ。道を照らす知識の明かりもねえ。まず迷子になって、そのまま死、だ。──それは寝覚めが悪い。」
ちょうど食べ終えた俺たちのプレートをさっさと重ねていくおっさ、ブルース。細かい所に気が回る人だ。
「まずは知識の灯りを持て。闇に挑むのはそれからだ」
と決めてくれたブルースさんの横で、「知識のアタシ・・・・・・?」とアカリが首を傾げていた。
***
やってきたのは講義室、という例えでいいのか? 100人くらい入りそうな、階段状の部屋。その中に俺たちとブルースの4人きり。
「さあ席につい……なんだ慣れてるな。以前は学者だったのか?」
本来は学生だったのだ。座って話を聞くというのはお手の物。
「さてこれから話をしていくが、まずは疑問の解消からだな。一方的な講義ほどつまらんものもないだろう?」
学生側の気分も分かってくれている。いい人だな。
「まずは質問を受け付ける。聞きたいことから聞いてこい」
「・・・・・・えっと。じゃあ直近の話で。査定ってなんですか?」
学生らしく挙手して質問する。ただそれだけだが、ブルースはそれが気に入ったようだった。
「ほう。聞き手というのを分かっているようだな。感心感心。大人でも出来ないやつは多いというのに。
査定、か。魔力を金に変える、いや、伝わらんか・・・・・・。ふむ、改めて基礎の難しさを感じるな・・・・・・」
顎に手を当て上を見るブルース。多分だが、俺たちの世界で言うところの「1+1=」を説明しろ。と言われているようなものなんじゃないだろうか。だとしたら凄く難しい。
「例えば、お嬢ちゃんが100%の赤色の魔力を持っていたとする。んで、例の嵐の王とやらが青色の魔力を持っていたとする。そいつを倒すとお嬢ちゃんの魔力に「こべりつく」。ちょっと紫に近づくはずだ」
1を色としたか。だが「こべりつく」とは変わった表現だ。混ざるとは違うのだろうが。
「査定はその「こべりついた」魔力を「削ぎ落として」金に変える。魔力は混ざったりするものではない、と分かってくれるか?」
「ちょっと分かった気がします」
要するに魔力が絡んだ経験値ケージがあるんだろう。それを見れる人がいて、金に変えてくれるのだろう、多分。
「ということは──」
……それからしばらく俺とブルースの1体1の授業が始まった。もともと異世界の理解の深い俺はついていけるが、ギャル二人は多分……。
「——みてみて、小っちゃい炎」
「——アカリほんと器用だよね」
ギャル二人は手遊び感覚で魔法で遊んでいた。だがブルースはそれを咎めたりはしなかった。
「嵐の王を退けたんだろう? 実体験に勝る授業はない。……まあ、常に学び続ける方がいいのはそうだが、こういう自由なやつの方が後に天才と言われるのかもしれない」
と、少し甘めの先生だった。
「それに今、この時間で感じたことだが。お前は司令塔のような役割なんじゃないか? 魔力の流れはお嬢ちゃんが圧倒的だが、それをコントロールするのはお前さん、といったところか?」
「そう意識してはいませんが……結果的にそうなのかもしれません」
「だろう? そいつが一番頭がいいってのは定石だ。お嬢ちゃんという武器を、お前さんがどう使うか。それが今後の戦いの要になってくるだろうよ」
そこまで告げたブルースは立ち上がり優しくギャルを起こす。
「じゃあ行くか、査定。金持ちになる用意はいいか?」
なんて言って煽ってくる。なんだかんだ言っていい兄貴分というか、話していて気のいい人だ。
そんなブルースについていく事暫し。別の建物、銀行みたいなところに着いた。手続き諸々をブルースと共にこなして使い方を覚えていく。
査定は役所で書類を提出する時の感じに似ている。……のだが、担当してくれている人が奥のデスクを行ったり来たり。明らかにイレギュラーな時の対応だ。
で。いざ査定結果……。
「——以上が査定結果になります。稀に見る特異な魔力をお持ちで、なかなか苦労しました」
目の前の机の上。ちょこんと乗っかる布袋。小さい。あまりにも。
「ふむ……」
「え~!? お金いっぱい貰えるんじゃないの~?」
ブルース、アカリがそれぞれ正反対の反応をする。すると対応者にブルースが聞く。
「倒したのは嵐の王、の影だな? であれば納得がいく」
「影、というと?」
俺が聞いてみる。確かに相手は強かった。それなのに、本体じゃない、みたいな話を今しているのか?
「魔物の肉を使って作る人形みたいなものだ。泥人形のように作り、そして遠くから意識だけを飛ばして操作できる。便利な人形みたいなものだ」
「あれだけ苦労したのに……」
「影になるだけで戦力は10分の1ほどまでに落ちる。だが本物の嵐の王はそれでもなお強いほどの存在だという事だ」
俺は恐怖を思い出していた。俺が前に出てなんとかしのいでいたあの攻撃達は本来の10分の1。もし本物だったら、俺は……彼女たちを守れなかっただろう。
偶然だが命を拾った。それは良いことかもしれない。でも、いずれ本物と相対した時、その時の俺は、ちゃんと彼女たちを守れるのだろうか。
……いや、そんな考えでは駄目だ。彼女達を守る。そのために鍛えて貰う。そうでなければだめだ。
「なに。どうであれ生き延びたんだ。それでいいだろう。それに、いい目標が出来たじゃないか」
あくまで前向きに、明るく声を掛けるブルース。
「今の十倍強くなる。どうだ、簡単だろう?」
どうにも、この世界で悲観的になるのはまだまだらしい。
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