夜明けと下着のギャルと
戦いを終えた俺たち。
実は町では凱旋が、とか思ったりもしたがそんなことはなく。静かな町だけがあった。だれもが気配を消しているような、そんな静けさ。嵐の王を恐れての事だろう。
宿も静か。宿の主人が迎えるでも非難するでもなく、姿が無かった。
戻ってきて最初にしてもらったのは俺の腕の回復。痛みとしては大したことはないのだが、改めて見ると本当にボロボロだ。我ながらよく意識を保てているなと思うほどにはグロい感じになっている。
「う~ん!」とアカリが気合を込めた所……、治った。跡形も残さない綺麗な腕になった。なんならムダ毛が消えた分ツルツルになった。
「よかったね~」とか数言交わした後、寝た。夜中の戦い、それもそれなりに激しい戦闘だった。みんな疲れていたので、朝までの短い時間だが、目いっぱい寝た。
……とまあ、寝る前の記憶は大雑把にしか覚えて無くて、だな。
何が言いたいのかというと、その。
下着のギャルが無防備に寝ているッ!!
「……すぅ」
二人ともまだ寝ている。俺が起きている事には気づいていないだろう。それはいい。助かった。だが当初の寝間着はどこにいった? 着替え忘れるほど疲れていた、という可能性もなくはないのかもしれないが。
アカリはピンクの下着上下で、(あんまり詳しくないが)レースとかついたかわいい系の下着。アカリらしい明るい感じだが、ちょっとエッチだな……。掛布団を抱き枕みたいにして寝ている。
ミオは上下ともにスポーティな感じというか、ブラというよりサポーターみたいな感じだろうか。でもミオの胸も小さくはない。より強調された胸はすごく目のやり場に困る。布団というか一人で寝ているからかすごい寝相だ。
一旦ベッドに体を潜らせ思考を落ち着かせる。あといろいろ落ち着かせる。
このまま寝てるフリをして、その間に彼女らが先に目覚めてくれるのが一番いいのだが……問題が一つ。
(小便にいきたい……)
そう。内臓にプレッシャーがかかっている。死活問題だ。
トイレは部屋の外。宿の共同トイレだ。一度部屋から出る必要がある。だがそれを静かに、彼女らを起こすことなくこなせるだろうか。
(いや、俺がもたない。行くしかない)
腹を括って部屋を出る事にする。一番の理想は、
・俺が部屋から出る。
・それで二人が目を覚ます。
・俺が用を足す間に着替えてもらう。
・俺は寝ぼけて覚えていないことにする。
これでいくしかない。行くぞ、……トイレに。
なるべく音を立てずに動く。静か~に部屋から出る。
やや寒さのある廊下を静かに進みつつ、共同トイレに辿り着く。はぁ……。
で、なるべくゆっくり用を足してから部屋へ戻る。さて、彼女らは……。
ぎいぃ……。
「あ、おはようユーマ」
普通に起きてる! 作戦崩壊!
体を起こしているアカリ。そして映画のベッドシーンみたく掛布団の端を持って体を隠すような感じになっている。肌が見えているわけではないのだが、そのポーズはなかなかにエッチだと思いませんか。
「お、おはよう。えっと、その……」
どうする。バレたぞ。ミオはまだ寝てるっぽいが、いやいやそうではなくて。
思い出せ、ラブコメ主人公はこういう時どう切り抜けていたか。だが思い出せない! 咄嗟の判断が出来ない。
「ねぇユーマ」
「は、はいっ!」
「申し訳ないんだけど、しばらく壁の方向いててくれるかな? ほら、椅子あるし」
そう言ってちょいちょいと壁側にある椅子とデスクの方を指さす。椅子は壁の方を向いているしちょうどいい? か。
「アタシは、まあ、その、いいけど。ミオちゃんとか、恥ずかしいだろうし、ね?」
「わ、分かった」
言われるままに椅子の方へ向かう。この間、アカリの目は見ない様にしていた。目を合わせるのが恥ずかしい。それにどこを見るのが正解か分からない。
あとは椅子だけ見て歩き、椅子を引いて座った。目の前はデスクと壁。さっきまでとは変わって一切色気のない視界になった。
「じゃ、じゃ私たち着替えるから」
「あ、ああ」
「振り向いちゃダメだよ?」
「も、もちろん」
そして彼女達のお着換えが始まる。俺の視界は壁一色。ただ言葉と衣擦れ音だけが聞こえる。以下、聞こえる情報。
「ミオちゃ~ん。起きて~」
「んぅ……アカリ、私朝弱いから……」
「そうも言ってられないよ! 早く着替えないと、その、ユーマが大変だよっ!」
「ゆーま? なんであいつ、が……~~っ!」
「だ、大丈夫だよミオちゃん! ユーマは壁の方向いてるし!」
「ちょ、ちょっと待って。ユーマ……、見たの?」
沈黙で答える。
「だ、大丈夫! すごい寝相だったけど、そこまで見られてないというか……」
「……最悪。——ユーマ、後で魔法かけるから」
え、死んだりしませんか?
「と、とにかく着替えちゃお! ユーマも困ってるだろうし」
「分かった。けど新しい下着に変えたいな……」
「うん、アタシも思った。でも今は持ってないし、あとで買いに行こ」
「そうね。……あのさ、アカリ?」
「どうしたの?」
「アカリってさ……大きいよね?」
「んなん……! なんで今言うの!?」
「あ、ごめん。寝ぼけて考えた事全部口に出ちゃった」
「一応ユーマも聞いてるしっ、あんまり、そういうのは……」
「ああ、そうだった。——で、カップは?」
「ミ、ミオちゃん!」
「いや普通に気になってさ。後で買いに行くにしても知ってた方がいいかなって」
「じ、自分が分かってればよくないカナ!?」
「そうだけど……。で、いくつなの?」
「それは……(聞き取れない)」
「ほぼFって感じ? すご」
「ミオちゃん!」
……とまあ、こんなこんな会話を聞かされながら俺は壁を見つめていた。幻視、とは違うだろうが、短い間とはいえ見た彼女らの素肌の色を思い出していた。土色の壁がぼんやりと肌色に見えるような。
F。Fか。具体的にどうなのかは分からないが、男なら必ず見てしまうあの主張の激しい胸。あれが、F。すごい。
「お待たせユーマ。もういいよ」
「ほ、ほんとか?」
「うん、大丈夫。うん」
立ち上がって振り返る。そこには昨日と同じく魔法使いらしい姿の二人がいた。ちょっと安心。——デカいノイズが一つあるが。
「それじゃあ宿を出たら少し街を見て回ろっか。下着があれば買いたいし」
そう仕切るミオ「分かった」「さんせー」と二人して同意する。
……バレないようにこっそりアカリの胸を見る。あの胸が、か……。
で、俺たちは部屋を出る。先にアカリが出て、その次にミオが、という順だが。ミオが俺の前を通るとき、俺の目を見て小さく呟いた。
「あれでFだってさ」
コイツ……。やっぱり分かってやがる。
***
異世界ラブコメ、みたいなジャンルはあまり読んだことがない。そうでなくても異世界の下着事情が描写されている作品は見たことがない。なので俺は「下着屋なんてあるのか」と思っていた。
「見てミオちゃん! あれじゃない?」
案外すぐ見つかった。モールなんかで見かけるように、普通にあった。
そして下着屋のテンプレ? なのか内装はピンクで、男は非常に入りずらい。「ゆっくりしてきな」と言って俺は店の前で待つことにした。
店内から楽しそうな声が聞こえる。一方の俺は旅に必要なものってなんだろうと必死に考えていた。と。
「ユーマ」
背後から声が掛かる。声の主はミオ。んで、両手に下着のセットを持っている。
俺としては女性もの下着を見るのもなかなかにアレなのだが。
「どっちがいい?」
「どっち、って……」
そんなこと言われても……困る。
右手に青をベースに花柄のあしらわれた美術品みたいな下着。
左手にベージュの飾りのない機能性が高そうな下着。
うーん。なんだかなぁ……。
「俺は、黒とか似合うと思うぞ」
「黒? ふーん。それってさ――」
一拍おいて。
「今着けてるやつみたいな、ってこと?」
し、しまった。墓穴を掘った。なんで自ら朝の出来事を掘り起こすような事をいっているんだ俺は……!
「い、いや今朝がどうこうっていうよりか、そう。ミオのイメージカラーが黒って感じで」
「黒ねぇ……。ふーん……」
「……悪かったな。その、事故みたいなモンとはいえ、見ちまってさ」
「別に」
呟きながら店内へ戻っていった。これでよかったのだろうか。
んでしばらくした後。
「買った! 買い込んだ!」
と楽しそうなアカリ。
「お城出る時にもらったお金、多くて良かったね」
ミオは財布管理もしてくれている。そんな彼女らを見て。
「キャリーバッグみたいなやつを持っておくべきかもな。ついでにそれも買おう」
と提案。反対意見はなし。二人もいつまでも紙袋を持っている訳にはいかないというのは分かってくれているだろう。
それを買ったら出発だ。次の目的地までは距離がある。長い道のりになりそうだ。
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