ギャルとお泊り
アカリたちは魔法でパジャマを作っていたが、俺にそんな力はない。それまでの服を着直して部屋に戻る。
部屋の前で一旦立ち止まる。
「──」
「──」
何かを話している。は、聞き取れるが内容までは分からない。つまりアカリやミオがタイミングを見計らって入ってくるのは不可能。あれは偶然だったということだ。
「・・・・・・」
入って、どう口を開けばいいやら。
アカリにもミオにも微妙な感じで離れてしまったし、かといってその続きを話すような感じではない。
気まずい。どう入ろう。
いや、見習うべきは彼女たちだ。二人とも「さっぱりした〜」って感じで入ってきたじゃないか。
俺もそうやって入る!
「いや〜シャワーだけでもスッキリするもんだな!」
こうだろう。間違いは無いはずだ。──だった。
「・・・・・・」
「──」
えっ。なにこの空気。俺が凄く空気の読めないやつみたいになってる。何も言われていないが、「は?」「何お前」みたいな、ギャルが放つ拒絶感みたいなものを感じる。
「・・・・・・あれなら、出直します、けど・・・・・・」
なんて情けない言葉が漏れるように出た。だって怖かったし。
「・・・・・・寝よ、アカリ」
「うん・・・・・・」
と言って、さっきまでベッドに並んで腰掛けていた二人は離れ、アカリはベッドに、ミオは床の布団にと別れていった。
俺、そんなに致命的だった・・・・・・?
なんか寝る流れになったので俺も寝るしかないか。と、とぼとぼベッドに向かう・・・・・・、その時! 気が付く! というか思い出す!
ベッドに横になっているアカリ。半分は彼女のスペース。もう半分は――。
(ここにいくのかっ、俺……!)
女性が寝ている横に入っていく、という工程が発生する。これが、心臓に負担をかける。半分は俺のスペースとは思ったものの、今寝ている彼女がベッドを制圧しているようなもの。
そこへ、掛布団をめくるという俺の手が入る。そして腰をつけ、足が入っていく。最後に上体を倒してベッドイン完了。俺が彼女の領域を犯すという行為が完了する。
何度目かの大きい何かの嚥下。
文字遊びでしかないが、”彼女”の領域を”犯す”というのが、なんというか……。
か、考えすぎか。ベッドに入るくらい、なんてことないだろ。
ごそごそ、と。
「……——。……」
おやすみとか言えんのか! くそ、思った以上に緊張が体を縛っている。
真っすぐピーンと寝ている俺。リラックスもクソもない。だって気を抜いたらその手がアカリに触れるだろう距離にいるのだから。
「——ミオちゃん、起きてる?」
俺たちの配置だが、上から見ると左から布団のミオ、ベッドのアカリ、俺。という順番になっている。今の発言はアカリ・ミオ間で行われている。疎外感。
「……起きてる」
「えへへ。なんか修学旅行みたいだなって」
「まぁ、分からなくもない」
女子トークが始まった。俺は女子トークのテンション感が分からない。昔から女友達がいなかったせいでもあるが。
「——ね」
「——ね」
これだけで成立していく会話。分からない。
俺に出来る事はないと悟り、目をつむって寝ようとする。が……。
アカリが少し動くたびに俺の上の掛布団も動く。それがこう、ムズムズする。
「……。ミオちゃん?」
その問いに答えは無かった。そういえば昔、アイツは寝るのが早かった気がする。もしかしたらもう寝たのかもしれない。
「……」
それを察したか静かになるアカリ。物足りなさを感じてそう。何か話した方がいいのかなぁ。
「……」
隣から息の音だけが聞こえる。たまに窓ガラスが風に揺れる。
……。なんだろう。息の方向、とでもいえばいいのか。こっちを向いている気がする。目を閉じているので分からないが……気になる。
横見てみる。
「——」
——恐ろしい程の美少女がこちらを見ていた。
窓から入る微かな明かりに煌めく瞳がなお美しい。
「っ……」
「ユーマ」
優しい声音で話しかけてくる。さっきはツンケンしていたみたいだったのに、今はすごいやさしい感じだ。
「な、なに?」
「男の子って、夜なにするのかなぁって」
夜ナニをするって……、困る。でもせっかく話してくれたんだし、俺もなにか話題を……。
「ミオちゃんってさ」
「う、うん」
突然出てきたミオの名にビビる。な、なんだろう。
「——かわいいよね」
「あ、ま、まあ、そうだな……」
なんだろう。俺の事全部バレてるんじゃないかって感じがする。ミオの事を言われたら、なぁ。窓がガタガタと揺れる。
「アタシと比べたら?」
——。そんな、こと。
何でそんなことを聞くんだ。女の子の考えは分からない。
……でも。
ミオは寝たし、アカリしか聞いてないならここの答えは——。
「——なんて。ミオちゃんの方がいいよね」
「え」
「見てたら分かるよ。ミオちゃん、ずっとユーマを見てるんだもん」
俺を見てた。としてもそれはこの少ない人数ならよくありえることじゃないか。
俺からの視線は……あるかもしれないが。
そして、——ギャルの嗅覚か——何かを察知したように聞いてくる。
「ユーマ、ミオちゃんにだけ特別な感じ、じゃない?」
核心を突いて来た。心臓が跳ねる。
それに俺は、答える、のか? 結論を言っていいのか? それをアカリに伝えて、それで、どうなる? 窓がガタガタ鳴る。
俺は……、俺、は……。
と、俺が冷や汗が滲んだ時。アカリが掛布団をばさっと被せてきた。ちょうど俺とアカリが隔離されるような、膜が出来る。
二人して向き合う形になる。暗闇が出来上がり、互いの呼吸がはっきりと聞こえる程に密閉した空間が出来る。
多少の音なら外に漏れないような、そんな空間でアカリは口を開く。
「——嘘。ホントはなんにも分かってない」
「え?」
「ね、アタシがユーマをどう思ってるか。考えたことある?」
「それは……」
正直考えた事が無かった。だってクラスではただのラノベ繋がりというだけ。彼女からどう思われているかなんて考えたこともなかった。窓がガタガタいっている。
「アタシね、実はユーマの事、結構意識してる」
「え……」
その意識というのは、あれか? 男女の仲の、っていう……。
いつからだ? 高校に入って二年同じクラスだったのは知っている。でも一年のころは全く関係なかったし、一年の後半で俺が熱心に読んでるものについて聞かれて……みたいな流れだったはず。
「だってこんなよく分かんない世界に来たんだよ? ——怖いもん」
「そう、だよな。普通ではいられないよな」
「でもユーマは結構知ってそうだし、頼れるし、カッコイイし」
そんなことは無い、と思うが。……カッコイイ、か。
「……って言ったらどうする?」
と、暗くて見えない闇の向こうで笑っているように感じる。
「な、なんだよ。ちょっとビックリしたじゃないか」
「えへへ。ごめんね、——でも」
その言葉が、狭く、暗く、息がかかる距離の空間を支配した。
「——本気だよ?」
「——っ」
今、彼女がどんな顔をしているのかわからない。でも、さっきから話しているこの声は、ずっと本心を言っている様に感じる。
「ねぇユーマ」
「あ、ああ」
「ユーマの答え、聞きたいな」
真っ暗な掛布団の中。互いの息遣いだけが聞こえる中で――、答える、というのは。
「俺は……」
「うん……」
答えを――。
——ガタガタガタガタ!!
「「「いやうるさいな!?」」」
掛布団のヴェールから出る。さっきから窓がうるさい。風に揺れる音だと思うが、それにしたってうるさい。
「なにしてんの、アンタら」
「え!? い、いや、なにも……? ミオちゃん、起きてた?」
ミオがめくれ上がった掛布団を見て指摘する。確かに聞かれると困るのだが、それより……。
「なんだこの風、台風かなんかか?」
俺は窓の外を見ていた。月明りの届かない暗い外。雨は降っていないが、風の強さはまさに嵐——。
「嵐? まさか、例のやつか?」
この街に来て聞いた”嵐の王”なる存在。それの影響かと思う。
このまま無視してもいいのかも知れないが、相手が探しているのが俺達なのだとしたら……。
「ユーマ」
声をかけてきたのはアカリだ。さっき見た潤んだ瞳とは違う、気力のみなぎった目。
「私たちの出番……じゃない?」
「……。ああ、そうだろうな」
嵐の王。その討伐へ向かう――。
「ユーマ。信じてるよ」
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