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ギャル仕込みの伏線

「宿はあんなだったけどご飯は意外と普通だね。どこも飲食店は大変ってことかな」


 テーブルに並んだパンをメインにハム、ソーセージ、チーズといったラインナップ。飯はドイツっぽいのかと異世界を感じる。

 店内は人がいないわけではないが少ない。こんなものなのかもしれないが。


「でも普通に食べられるものがあって良かったね。異世界とかいうから変なものとかいっぱいあるかと」


「・・・・・・」


 それは確かにそうだ。魔物メシとか出てきても不思議では無い。・・・・・・いや、加工されてるだけで分からないだけの可能性もある。でも食べれるだけマシか。


「・・・・・・ってかさあ」


 ミオが不機嫌そうに言う。


「なんでアンタら喋んないの?」


「っ・・・・・・そ、それは」


 俺とアカリは不自然な程に口を開かない。そりゃそうだろう。この後、ベッドで、並んで、寝るのだから!

 はっきり言って俺は緊張している。どうすればいいのかなんてさっぱりだ。普通は、こう、付き合って、距離感確かめて、んで、こう、なんか、最終的に辿り着くのがっ、ベッドなんじゃないのか。


「お、お前はどうなんだよ」


「私? さっき見えた露店の店とか見たいかもな~って」


 コイツに夜のことは頭にないらしい。いや、意図的に話さないようにしているのか。

 ミオの事は味方だと思っていたけど、今はどこか、遠く感じる。


「お菓子とかジュース売ってたりしないかな。夜にパジャマパーティとか。アカリそういうの好きそうじゃない?」


「……」


「アカリ?」


「えああ!? ごめん聞いてなかった」


 アカリも心ここに非ずといった感じ。考えることは俺と同じか。

 でも少し意外だ。彼女は「なんとかなるっしょ!」みたいな明るい感じでいるものだと勝手に思っていたが……。

 ——いや、意外、という感想を持つのが失礼か。彼女だって年ごろの女の子。俺みたいな奴と近づくのは、それなりに思う所があるのだろう。

 ……今晩は身体を徹底的に磨いておかねば。


 ***(夜が来る)


 宿に戻った俺たち。宿の中には一台だけシャワーがあるとのこと。宿泊者同士うまい事順番に使ってね、とのことだった。


「じゃ、行ってきます……」


 俺たちのパーティからはアカリ、ミオ、俺の順でシャワーに行く事になった。まずアカリがシャワーに向かった。


「……」


「……」


 取り残される二人。沈黙が満ちる。でもアカリがいない今がチャンスか?


「なあミオ」


「なに?」


「さっきのじゃんけん。なんであんなことを?」


 俺には不可解な点が三つあった。

 1.ミオがグーを宣言。

 2.ミオがパーを出した。

 3.アカリがグーを出した。

 ミオがなんであんなことをしたのか。それが気になる。


「アンタらをくっつけてやったんじゃん。よかったでしょ?」


「んな……」


 くっつけてって。ああそうか、ミオの前では一応アカリの様な女の子が好きな男でいるんだった。だから勘違いをおこしたのか。


「んでどーすんの? ──ああ、邪魔そうなら途中で私消えるけど」


「それはマズいだろ!」


「なにが?」


 なにがって・・・・・・。お前がいなくなったら、つまりは、一つの部屋に男女一組。そんな状況になったら、そんな・・・・・・。


「・・・・・・ふーん。一応分別はあるわけね」


「一応ってか、普通にマズいだろ」


「でもイヤじゃないんでしょ?」


 イタズラっぽい笑みを浮かべるミオ。こいつ・・・・・・、そんなこと言って・・・・・・。


「・・・・・・イヤっていう男がいるかよ」


「あはっ、正直じゃん」


 カラカラと笑うミオ。くそ・・・・・・俺の気も知らないで・・・・・・。

 笑っていたミオの顔が少し落ち着く。その時にポロっと、漏れたように言葉が出た。


「さっさと告っちゃえよ」


 そう零した。この言葉に、──どうしてかは分からないけど──俺の中の何かがキレた。


「お前なぁ・・・・・・」


「え、ウソウソ。タイミングは人次第って──」


「俺が誰が好きかも知らないで」


「え・・・・・・」


 俺の一言は確実に空気を変えた。楽しそうにしていたミオから陽気が失せる。


「・・・・・・お前、グー出すって言ったよな」


「ま、まあ?」


「俺は、"変えなかった"んだぞ」


「──そ」


 なにかを言いかけて口を閉じたミオ。でも俺は言葉を続ける。


「俺だって、あのじゃんけんで何も思わなかったわけじゃない。でも無難な結果になればいいと、そう思ってた」


 ミオは黙って聞いている。


「お前がグーを出すって言って、そのまま俺とペアになるなら、角は立たないし、それでいいって思えた。──思えたんだ」


「で、でもアンタ──」


「お前が勝手に誤解しただけだ。──こんな形になるとは思わなかったが・・・・・・」


 ミオはベッドに腰掛けたまま。俺がその正面に立ち、見下ろす形になる。

 上から見下ろすミオは、頬が染まっていて、涙が出そうな潤んだ瞳で俺を見上げていた。


「俺はな」


「は、はい」


「俺が好きなのは──」


 その時──。


「──お風呂きもち〜! シャワーだけだけど、久しぶりに気持ちよかった〜!」


 アカリが部屋に戻ってきた。気まずくなって顔を逸らして距離もとった。


「見て見て〜、魔法で何か出来ないかなってやったらパジャマ出た〜。かわいくない?」


 アカリは薄ピンクの少し大きめサイズの余裕のある服を来ていた。荷物として持っていたものの中にそんな服は無かったので、本当に魔法で作ったのだろう。


「? どったの?」


「い、いや。・・・・・・次、ミオだろ」


「う、うん。いって、キマス」


 ギコギコとぎこちない動きでベッドから立ち、部屋から出ていった。

 はぁ、はぁ。アカリが帰ってきたのはいいタイミング、だったのかもしれない。あのまま勢い任せに言っていたら取り返しのつかない事になっていたかもしれない。ミオが座っていた所に腰掛ける。


「もしかして……大事な話してた?」


「い、いや。ただの雑談だよ」


 アカリは「ふーん……」といいながら、トコトコ歩いて……俺の横に座った。

 ……。えっ。


「……」


 アカリは何も発さない。シャワーであったまっただけか、それとも別の要因でか、頬が赤いような気がする。

 そんな彼女が、何を思って俺の横へ……。

 いや、察すべきは俺か。これから寝る(そのままの意)のだからその前のヒアリング、とか、いろいろ必要なのがオトナなのかもしれない。

 な、なにを話そう。クソ、経験のなさが際立つな。


「あ、アカリっ、さんっ!」


「はいっ! あっ、さんは、なくて、いい……」


「その、さっきの、じゃんけんさ……、なんでグー出したのかなって」


「そ、れは……」


 いい話題が思いつかずつい疑問を口にしてしまった。

 俺は俺で「ミオと一緒なら」とグーの維持を選択。ミオは……聞きそびれた。だが何か考えがあってパーを出したようだった。

 アカリは・・・・・・グーを出した。俺と同じグーを、だ。タイミングもだ。ミオがグーを出す宣言を聞いてからグーを出してきた。


「・・・・・・聞く?」


 俺の喉のでっかいナニカを飲み込んで、こくりと頷く。聞かれて困るのだろうか。

 俺も、言われて困る答えが、あるだろうか。


「ほんとはね・・・・・・」


 緊張が走る。今になって頭が回る。俺と同じ手を出した。それが意味する事は・・・・・・。


「アタシ──」


 俺と、同じ──。


「──みんな一緒に寝たらいいなって」


「・・・・・・そっ」


 そう、かぁぁ〜・・・・・・。アカリはカワイイ答えを持っていた。確かにツインのベッドは大きい。少し詰めれば三人寝ることも出来なくないだろう。そうかぁ、そうだなぁ。


「そ、そうだな。みんな揃ったら試してみるのもいいかもな。出来るかもだし」


 俺はそうアカリの意見に乗った。──はずだが。


「えっ」


「・・・・・・え」


 帰ってきた答えは想像と違った。なんで? 同意して・・・・・・それがマズいことある?

 気まずい間が流れた。俺はなにかを、失敗してしまったようだ。どうする。


「お、俺は──」


 言い訳を紡ごうとしたその時。


「あ〜、さっぱりした」


 ミオが帰ってきた。パジャマ姿で。


「ほんとに魔法ってなんでも出来るね〜」


 なんて言っているが、コイツ・・・・・・狙って入ってきてないか? タイミング悪すぎだろ・・・・・・。

 どうしよう。アカリとの間に凄くマズい亀裂が入ったままだ。かと言って修繕方法も分からない。どうする?


「ユーマ、次」


「あ、ああ・・・・・・」


 なんて催促されるがままに部屋を出ることになった。


 ***(もんもんとする)


 シャワーを浴びる。前のギャル二人が魔法でシャンプーでも出したのか。凄くフローラルな香りがこのボロいシャワールームに満ちている。


 ──凄く、女の子の香りだ。


「・・・・・・」


 下をむく俺。

 すごく丹念に身体を磨き上げた。


―――――――――――――――――

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