嵐とギャルとベッドと
最初の町に着いた。まだ日は高いが、まず宿を確保しよう。
特段苦労があった旅ではないが、疲れはあるはずだ。しっかり休める場所を確保したい。
というわけで宿探し。町にはそこそこな人が見受けられる。幸いにも話すのは日本語でOKなのがありがたい。外国に行くより楽かもしれない。
「で、ここが宿屋か」
立派、とは言い切りにくい建物だ。ザ・最初の町の宿感がすごい。
とりあえず入ってみる。フロントであろう入口の広間には人はいない。多分一人か二人かくらいで経営しているのだろう。カウンターのベルを鳴らす。とてて、と物音がする。
「はいっ、いらっしゃませ!」
カウンターにギリギリ腕が乗るくらいの小さな女の子が対応に来た。店主の娘さんとかだろうか。
「すみません。一泊、二部屋お借りしたいのだが」
「二部屋! すみません、ウチは後一部屋しか空いてなくって」
「そうなのか・・・・・・。ちなみにこの街に他の宿屋はあったりするか?」
「一軒ありますが多分全て埋まってるかと」
「へえ。なにかあるんですか?」
と聞くと少女は周りをキョロキョロと見渡した後、カウンターに身を乗り出し、こそこそ話をするように口元に手を添える。
「実は、この辺りに"嵐の王"が近づいて来ているという噂が・・・・・・」
「嵐の王? それはなんですか?」
少女は乗り出した身を引っ込め、「ご存知ない・・・・・・?」と怪訝な表情を浮かべる。一拍間を置いたのち、「ご宿泊でしたら続きを」と。商売上手だな。
一部屋だって、どうする? とギャル組に問いかける。せめて二人だけでも、と提案しかけたが、その前に「三人一部屋で大丈夫っしょ」「・・・・・・まあ、いいケド」と了承を得た。
「じゃあ、一部屋で」
「かしこまりました! ご案内します!」
こうして宿屋が決まった。・・・・・・が、冷静になるとヤバいのは俺なのでは? ギャル二人と同室。俺の気がどうにかなってしまうかもしれない。
部屋に通される。外見から分かっていたことだが、中身もベッド、机、椅子、以上。簡素なことこの上ない。言っておくが、洋風な部屋だ。
ダブルのベッドが一つ。受付の少女が棚から布団のようなものを取り出し、床に敷いた。この洋風な部屋で床・・・・・・? ファンタジー世界にしてもやりたい放題すぎないか?
「ではごゆっくり」
ひと仕事終えて去ろうとする少女。「ちょっと待てぃ」と引き止める。
「さっき言ってた、嵐の王、だったか? 詳しく聞かせて欲しいんだが」
一瞬だが顔に面倒くささが浮かんだ気がする。印象よくないなぁ。まあいいけど。
「嵐の王、とは。魔王に仕える側近だと言われている非常に強力な魔人です」
魔物、と言わず魔人ときたか。人型の敵は大体強い。なんか四天王的なやつがいるのだろうか。
「嵐の王はその名の通り、近くに嵐を起こします。過去、その魔人に挑んだもの達は「全力を出せずにやられている」という報告が多数です」
「嵐に身体が持っていかれるせいか」
「本来このような場所にまで来るような存在ではありません。ですがたまに、王都が勇者を召喚した時などにここまでやってくるそうです」
勇者の召喚。それって俺らの事か? だとしたらそいつは俺らを狙っている事になる。
ラノベ脳が二つの可能性をはじき出す。一つはその勇者が強くなる前に狩るという慎重な魔王の方針に従っている可能性。もう一つは、単に勇者がどんなものか、と気になって戦いを挑む戦闘狂。
どちらでもありえるな。よくあるパターンだと思う。
「これくらいですが、質問はないですよね」
面倒くさがってるなぁ。まあ大体わかったし大丈夫だが。質問が無さそうだと思った少女はさっさと出ていってしまった。
「・・・・・・んで、どうする?」
ミオが口を開く。そうだなぁ・・・・・・。
「嵐の王。ほっとけないよなぁ。多分なんとか出来るのは俺たちだけだろうし」
「じゃなくってさぁ」
アカリが話を割る。なんか忘れてるか俺?
「まず誰がベッドで寝るかでしょ!」
「・・・・・・」
・・・・・・えっ。
「だって二人しかベッド使えないんだよ! 一人床になるのに、ちゃんと決めなきゃ!」
「そんなの、女の子二人がベッドを使う以外なくないか?」
「そんなのダメ! アタシ達は仲間でチームだから! そういうのナシ!」
と言われても。俺がめちゃくちゃ困るんだが。分かってくれないか、男も結構、いやかなり気を使っているんだよと。
「それじゃ、じゃんけんで決めよ」
なんて言い出す始末。ルール的には同じ手が揃ったらペア。ってところだろう。勝ち抜け、負け抜けも考えられるが。
・・・・・・。閃いたぞ。アカリは善意でこういう感じにしたのだろうけど、俺にも守るべき理性がある。全力でそれを守る。
「いくよ〜、じゃーん──」
「待った! ──俺はグーを出す」
「えっ!?」「な・・・・・・」
固まったな、二人。さあどうする。
「そ、そういうのナシだよっ」
「じゃあ忘れてくれていい。でも出すぞ」
「うう・・・・・・」
この場の主導権は握った。決着をつける!
「いくぞ! じゃーんけーん──」
俺:グー
アカリ:チョキ
ミオ:パー
割れた。だが二回目はどうかな!
俺:グー
アカリ:パー
ミオ:チョキ
また割れた。だが三度は続きまい。次で・・・・・・。
「あいこで──」
「待って」
静止をかけたのはミオだ。──嫌な予感がする。
「次、私はグーを出す」
「えっ」
アカリの驚きも最もだ。俺と同じグーを宣言した? それってつまり・・・・・・。
「じゃーん・・・・・・」
いや、ブラフの可能性もあるか。あるいは俺が変えると踏んだか。
「けーん・・・・・・」
・・・・・・でも、ミオがそう言ったのだから、俺は、べつに──。いや、ミオと同じベッドで──。俺は、俺はっ・・・・・・!
「ぽん!」
俺:グー
アカリ:グー
ミオ:パー
・・・・・・。
え?
「じゃあユーマとアカリがベッドね。私床で寝るから」
「ちょ、ちょっと待て!」
ちょっと待ってもらおう。言っていた事と違うじゃないか。ミオはグーを出すと言って・・・・・・。
「なに? 言っただけだけど。その通りにしなきゃいけないルールはないし」
「それは、そうかもだが。だとしたら──」
だとしたら。アカリは何故グーを出した? 俺も考えたように手を変えてくると思ったのか?
真意は・・・・・・と聞きたいところだが。
「・・・・・・」
自分で言い出しておいてこうなってしまった結果に放心している、ように見える。
かくいう俺も放心状態だ。アカリと、寝る? 一緒に? いやいや。少し前まで俺たちはただのクラスメイトだ。そんなやつとなんて、なあ?
「・・・・・・やっぱ俺が床で寝るよ。アカリも困らせたくないし」
というと「ふーん」と頷くミオ。まるで何か考えているような・・・・・・。
「じゃあいっそ、二人で床に寝る?」
なんていいだした!
「なんだよそれ。本末転倒じゃないか」
「別に選択肢としてないわけじゃないじゃん。それでもいい? アカリ?」
何故今話を振ったんだ。そもそもベッドはデカイが布団は小さい。二人なんてまず無理だ。その辺どう考えての発想かミオに聞かねば。
「・・・・・・いやじゃない」
小さく、静かな部屋に響く。
「アタシは、ユーマと一緒でも、……いやじゃない」
そう、はっきりと言った。
「・・・・・・だってさ。どうすんの?」
ミオが催促するように言う。いやじゃないって、それは、ええと・・・・・・。
でも拒否すれば、それは彼女のことを・・・・・・。
「分かった。ベッドで寝る」
腹を括った。据え膳なんとやら。漢として、女性と共に一つのベッドで寝ることを決めた。嵐の王がどうたらとか関係ないほど心臓を中心に全身が熱くなるが、なんとか、する。うん。
「いや〜よかった。私布団派だったんだよね〜」
なんて言うミオ。──嘘だ。昔家に行った時と変わってなければ、ずっとベッドで寝ているはずだ。
なぜ嘘をつく。なぜ手を変えた。なぜ――自分を犠牲にするような事をする。
分からない。長くいるのに、彼女のことが分からない。
そんなモヤを抱えながら宿での一件はまとまっ……た?
窓の外は、なんといえない暗雲が近づいていた。
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