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旅の始まり

 門を出た俺達三人。渡された地図を元に西へ進路を取る。

 だがここで小さな疑問が浮かんだ。


「歩道は続いている。多分地図もあってる。でもこっちがなのか?」


「どゆこと?」


 きらめ……アカリが聞いてくる。


「なんとなく太陽の位置で東西南北を把握しているが、今の測定方法は「日本にいた頃の知識」だ。この世界では太陽の位置とか、南半球とか北半球とかで向きは変わってくる。ホントにあってるのだろうか」


 と不安を漏らす。俺は本当にただの一般人でサバイバル技術があるわけではない。どっかで聞いた知識だけで戦おうとしている。非常に危険だ。


「結局どこ目指してるんだっけ?」


「西に半日歩けば町があるらしい。とりあえずはそこかな」


「ユーマは方向に自信がない、だよね」


「まあ、恥ずかしながらそうだ」


「じゃあちょっと――見てくるね」


 え、見るってなに? と思ったらなんとアカリ、空を飛んで行った。多分魔法だと思うのだが、いつの間に上達したのか。あっという間に米粒サイズになる。

 どこまで行くんだろう、とか思ってたら帰ってきた。


「うん。結構距離あるけど町が見えたよ。途中の林? を真っすぐ抜ければすぐつきそう」


 魔法を初めて使ったのは昨日。なのにもう使いこなしている。すごい。

 とりあえず方向はあってるらしい。一安心だ。このまま足を進めて行く。


 ……。


 先ほど言っていた林が近づいてきた。ここを抜けると近道らしいが……。


(ゲーマー的な感覚だけど、こういうところは一段強いモンスターとか出るような気がする)


 足跡はこの林を迂回するように道になっている。通らないのが普通、なんだろうけど。


「え~、ここ避けると結構時間かかっちゃうよ。通っちゃおうよ」


 死亡フラグみたいな事をいいながら進めてくる。でもまあ、彼女らの魔法があればなんとかなる、か? 

 俺の恐怖を振り切って、林ルートを選択。なにが出るか……。


 ちょっと進んだところで。


「枝がローブに引っかかる~」


 と愚痴をこぼしていた。そりゃそうだろう。とは言わず胸の内に仕舞っておく。


「めんどくさいので……伐採ビィィーム!!」


 なにそれ、と思った次の瞬間太いレーザーのような魔法が木々をなぎ倒していった。そして、一本道が出来た。


「これで歩きやすくなったね♪」


 アカリは上機嫌に戻った。無茶苦茶するなぁ。ミオも「誰かに怒られないの?」とちょっと引いている。

 だが歩きやすいのは確かだ。景観を壊したという罪の意識はなくはないが、今は楽させてもらおう。

 しばらく歩くと再び林になる。またしても「伐採ビィィーム!」を繰り出し前方をくり抜く。

 また歩くだけ、と思ったら──。


「待て!」


 俺が静止をかける。抉れて出来た道、その横からのそっと巨体が現れる。


(クマ・・・・・・のモンスターでいいのか? このでかさはグリズリーって呼ぶんだっけ?)


 そのグリズリーはこちらを捉えている。ゆっくり、回り込むように、距離も詰めている。俺だって経験があるわけじゃないが、飢えた獣が放つ独特の殺気に腰が抜けそうになる。

 俺は剣を抜いて構える。俺以上の体躯のモンスター相手にこの体と剣で戦うなんて正気じゃない、と言いたいが。女の子の前だ、ちょっとは格好つけたい。

 だがどうする。半端な斬撃は毛皮に弾かれる。となれば一撃必殺を狙う突きだが、急所を外せば返しの爪で引き裂かれて終わりだ。

 でも、やるしか──。


「ちょっと待って!」


「な、ど、どうした?」


 アカリが静止をかける。一瞬振り返ったがそれどころではなかったとグリズリーの方を向く。

 グリズリーはこちらの様子を伺っている。


「むむむ・・・・・・、こう!」


 後ろでなにかやっている。俺はグリズリーの警戒で手一杯だ。


「見て〜出来たよミオ〜」


「う、うん。分かったから・・・・・・」


 一体背後で何が起こっているんだ。グリズリーは今にも襲いかかって来そうで、──いや来た!


(やるしかない・・・・・・!)


 相手との距離が詰まった瞬間、喉から剣を突き刺し脊髄も貫く。これで倒せる、はずだ。

 覚悟を決め剣を握り込む。そして──。


「えいやー!」


 気の抜けた掛け声がした、かと思えばグリズリーが吹っ飛んでいった。

 ……。

 吹っ飛んで行った。


「え」


 俺が見た、見えた限りでは二足歩行のように立ち上がったグリズリーが、見えないなにかに顔面を殴りつけられ、その勢い凄まじく吹き飛んでいった。と思う。

 後ろを振り返る。ドヤ顔のアカリとポケっしたミオ。説明が、欲しい。


「えっと、なにが、どうなったの?」


「ふふ~ん。これ見て」


 アカリが手に持って掲げるのは、杖、か?

 黄金と宝石が飾られた、マジカルステッキみたいなものだった。


 「衣装を貰った時に一緒にもらったんだ~。普段はブレスレットになってて使う時はう~んって力を籠めたら出てくるの」


 貰った服を衣装て。だいぶ見た目(魔法少女感)に引っ張られている感があるが、まあそれはいいか。


「は、はは……」


 自分もやられるかと腹を括ったものの、それをサクッと吹っ飛ばしてしまったアカリ。俺、いる?

 しかしそのマジックステッキみたいなもの。使用感はどうなんだろう。


「で、そのステッキはどうなんだ? 魔法が使いやすい、とか?」


「うん。前までは出すかどうかみたいな感じだったけど、これを持ってからは出し方に段階が付けれる様になった感じ」


 魔法の感覚は分からないが、なんかよくなったというならいいんだろう。でも段階が付けられた、というとだ。さっきのは……。


「もしかして、さっきのは手加減した?」


「うん。クマさんを吹っ飛ばすくらいの感じで」


 吹っ飛ばす、か。ということは、あのグリズリーは”まだ生きている”。


「——見て、アカリ」


 そう告げる様にいうのはミオ。指さす先にいるのは先ほど吹っ飛ばされたグリズリー。そして素人目にも分かる気の立ちよう。

 それを見て、今度はミオが前に立つ。


「やさしいのはいいけど、やるときはやらないと。後で後ろから襲われるなんてこともありえる」


 ミオの手元に少しの光が集まる。するとパッと杖が現れた。こちらはステッキではなく長杖、スタッフに分類されるだろう杖を出した。

 そして音もなく、予兆もなく、静かに放たれた「砲撃」がグリズリーの頭を抉った。グリズリーだったものはそこに力なく倒れ、体が霧散していった。


「……俺が貸したライトノベルにも戦闘描写があったりなかったりだけど、そいつらもこうやって命の奪い合いで生きてる、はずなんだ」


「……うん」


 アカリは少なからずショックを受けている様に見える。やっぱり心が綺麗な人なんだなぁ、と思いつつも「ファンタジーの現実」を突き付けるのは少し心が痛む。

 俯いて、反省か、自戒か。何か思考を巡らせているようだ。だが――。


「ん! 分かった!」


 と数秒で頭を切り替えた。


「そういえばこういう魔物がいるから町の人たちも安心できないんだよね。そういうのを倒すのも私たちの仕事なんだよね」


 理解も爆速だった。すごいなこの人。


「よーし、気を取り直して先に進もー」


 と明るく歩き始めた。だが杖はそのまま。(直し方が分からないのでなければ)ちゃんと警戒をしながら歩いている。適応力がすごい。


 その後は特に何もなく、俺たちは最初の町へ入っていくことになる。


―――――――――――――――――

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