第9章 サボリ魔王子が暴いた真実①
ショコライルとミルティアが目覚めたのは次の日の昼近くであった。一度も起きることなく寝続けたミルティアは、目を開けるとショコライルのとても優しい笑顔と目が合う。ただでさえかっこいいショコライルが、愛おしそうに見つめてくれる顔の破壊力は凄まじく、ミルティアはたちまち顔を真っ赤にさせていた。
「おはよう、ミルティ。よく眠れた?」
「おはようございます……ショコライル様。お陰で沢山眠れました。ショコライル様は?」
「俺も沢山の寝れたよ。ミルティが一緒に寝てくれたお陰だね。」
ショコライルは嬉しそうに微笑むとミルティアを抱きしめる力を強める。ミルティアは気がついていなかったが、眠った時と変わらずショコライルがずっと抱きしめていてくれたのだ。一日中ショコライルに抱きしめられていたなど幸せすぎて蕩けそうになる。ミルティアはショコライルの胸元に顔を埋めると、無意識に顔を擦り付けた。まるで甘える猫のような動きに、ショコライルは1人理性と戦うことに必死になっていることなどミルティアが知る由もなかった。
「ミルティア、起きれる?」
ショコライルは心配そうにミルティアを支えながら起き上がらせてくれる。昨日は1人で座ることはできなかったが、今日は沢山寝て体力が回復できたのか、座ることはできた。
ショコライルはそこまで確認すると、ミルティアの頭を軽く撫でてからサイドテーブルにいつの間にか置かれていたベルを手に取り鳴らした。
普段ミルティアはベルを使用しない。まだまだアニスに遠慮しているミルティアは、自分の都合で呼び寄せるのが申し訳ないらしく、アニスがいなければ自分で済ませたり、アニスを待つなどしている。
だが今回置かれたのはアニスの気遣いなのだろう。なるべく2人を起こさないようにする配慮が伝わってくる。
ベルの音が響くとすぐにアニスが駆け寄ってくる。心配だったのかアレンも一緒だ。2人はミルティアとショコライルの元気そうな姿を見て安心するとすぐに食事の用意をしてくれた。
ショコライルが一旦着替えに戻っている間に、ミルティアは軽く身支度を整えてもらった後食卓まで歩くことにした。
久しぶりにベッドから足を下ろし立ちあがろうとするが、足に力が入らず立ち上がることすらできない。アニスがミルティアの食事だけ寝室に持ちに行こうとするよりも早く、着替えを済ませたショコライルが、すぐさまミルティアを横抱きして居間に向かってしまった。
それを呆れながらも後を追いかけるアニスと、ご満悦な表情のショコライル。それとは対照的に顔を真っ赤にして恥ずかしそうにショコライルの胸元に顔を埋めるミルティア。居間に行けばミルティアの無事な姿を見て安堵する護衛騎士やミルティアの姿を見て微笑ましく笑うハミルダ、ショコライルの溺愛が加速して苦笑いのエディルダ。皆がいろんな反応をしてミルティアの無事を喜び、穏やかな日常が戻りつつあった。
穏やかな昼食後、ショコライルはミルティアとともにソファに座ると、彼女の身体を支えるように背中に腕を回してことの顛末を話してくれた。
主犯であるサマド公爵は、代々カルレッタ公爵家に遅れを取っていることが気に入らず、サマド公爵家の地位が上がることに躍起になっていた。
一人娘であるメランカのショコライルに対する感情を知っていたサマド公爵は、娘を輿入れさせサボり魔王子のショコライルを掌握し政権を裏で握ろうと考えに至ったが、ショコライルはメランカに一向に見向きもせず、あろうことか毛嫌いしていた。
対策を立て直そうと思案していた矢先、魔法騎士団長の任を解かれたことで、表舞台からの事実上の引退に絶望した。やがてその絶望は、ショコライルを逆恨みする気持ちに切り替わり、いつしかこの国は自分が新たな王になり、富も名声も全て手に入れて、忌まわしきショコライルを追放し断罪することに心血を注ぐようになっていた。
表の顔はエクラを支え忠誠を誓う部下として過ごしたが、偽りの愛国心は邪な感情を持ち合わせる人物にはすぐに見透かされてしまう。どこから情報を得たのかスーピナ国がサマド公爵に近づいてきた。
リンレッド王国の王族を追放したい思惑と、どんな形であれリンレッド王国を滅ぼしたい思惑。2つの思惑は利害が一致し、瞬く間に秘密裏での盟約を交わした。
スーピナ国から出された盟約は大きく分けると3つに分かれていた。
一つは、どのように滅ぼしても文句は言わない。
2つ目は人員や金は必要ならスーピナ国が手配すること。
3つ目はリンレッド王国が滅んだ後は、スーピナ国の支配下に置かれ、サマド公爵が新しい国の王となること
が示されていた。
サマド公爵はその日から国を滅ぼすことに躍起になり、魔法の研究に明け暮れた。研究は禁忌にまで及びその中で、気配を消す魔法を魔石に込めたり、魅了魔法を完成させたらしい。
着々と準備が進む中で、サマド公爵はたまたま公爵領に帰る道すがら、不審な地下へ続く道を見つけた。普段は見向きもしないだろうが、心が何故かざわつき確認に向かった先で、偶然消えずに残っていたあの魔法陣を見つけたらしい。その魔法陣を書き写し、帰宅後魔力を魔法陣に込めると瘴気が湧き出したため、慌てて魔法陣の一部を消したらしいが、彼はそこでこの魔法陣を王都で一気に使い、国民の混乱に乗じてエクラやショコライルを亡き者にしようとしていたらしい。
それがうまくいかなくても、ある程度混乱したところで魔法陣を壊し、その後この騒動をサマド公爵が鎮めたと言いふらせば、混乱を対処できなかった王族への不信感を国民に募らせ失墜させた後、英雄となったサマド公爵が統治する未来を描いていた。
だがその計画は直前にショコライル達によって未遂に終わる。王都が瘴気に覆われる時刻になっても何も起きず、作戦が失敗に終わったサマド公爵は、またしてもショコライルに邪魔されたことが許せず、ショコライルを苦しめる方法を考えてミルティアを襲ったのであった。
「ここまで聞いてどう思う?」
いつしかショコライルはミルティアを安心させるように背中をさすっていた。
「そこまで綿密に練られていたんですね……。直前で止めれてよかったのですけど……」
「けど?」
「国を滅ぼした後そんなにうまくいったのでしょうか?」
ミルティアの指摘にショコライルは嬉しそうに目を細める。
「ミルティアはそう言ってくれると思ったよ。そう、あまりにサマド公爵に都合が良すぎるよね。……ミルティア、サラク帝国が滅んだ後覚えてる?」
「はい……。内通者が消えたことですよね?」
「そう。スーピナ国はサラク帝国が滅んだ後どうなったかきっと王族には伝わっている。なら、今回も同じことをするはずだ。」
それはつまり、サラク帝国の消えた側近と同じで、サマド公爵もリンレッド王国が滅んだら国王になる前に始末されるということだ。スーピナ国にとってサマド公爵はただの使い捨ての駒なのだ。サマド公爵がこの計画に足を踏み入れた時から、裏切り者の犯罪者か人知れずその命を終わらすかどちらかしか答えは残されていなかったのだ。
「っ……」
ミルティアは想像するだけで恐ろしくなる内容に言葉を詰まらせただ自分のドレスの裾を握りしめる。その様子に気がついたショコライルは、安心させるようにその手の上に自分の手を重ね合わせた。
「全く……目先の餌に後先考えず食いつくからこうなるんだ。……サマド公爵はもう少し賢いと思ったが……欲に目が眩んだな。」
「お気づきではなかったのですか?」
「ああ……。あいつに尋問した時にこの事実を伝えて驚いていたよ。」
ショコライルはサマド公爵とのやり取りを思い出していた。ショコライルの部下達の尋問になかなか口を割らず悪態ばかりついていた。だがショコライルがその事実を伝えてると初めて動揺の表情を見せたのだ。ショコライルがさらに畳み掛けるように、ショコライル達に捕まらなければ今頃愛しい娘と共にこの世にはいないと伝えれば、青ざめようやく自分が偽りの夢に縋っていたことを悟ったのだった。
「サマド公爵は離島の凶悪犯罪者を収監する監獄に送る。2度と出て来れないから安心して。サマド公爵家を本当は取り潰したいところだけど、あそこは歴史ある家柄で公爵家を潰すとなると公爵家の分家から反感を招く恐れがある。新たな火種は生み出さないために取り潰しはしないが、遠縁のサンティカ子爵がサマド公爵の叙爵を受け、引き継ぐことになった。」
歴史ある家柄ともなると、婚姻によって爵位を増やしたり、国から褒賞として叙爵されるため、一つの家でいくつもの爵位を持つことがある。サマド公爵は本家で、持っている爵位を分家に授けていた。サンティカ子爵もそのうちの1つであった。
「サンティカ子爵様ですか?」
「ああ。サンティカ子爵は非常に優秀な父上の文官だ。その能力が認められ、子爵でありながら次期文官長とまで言われている人物だ。実直で忠誠心も強いので彼が適任となった。」
「そうだったのですね。まだお会いしたことはございませんので、いつか挨拶したいと思います。」
「挨拶なら……ああ、ソイ!」
ショコライルは部屋の中を見渡し、隅に待機していたソイを見つけると声をかけ呼び寄せる。呼ばれたソイは駆け足で近づいてくるともの凄い勢いでミルティアに頭を下げてきた。
「えっ?」
あまりに突然のことに、ミルティアはこの状況が理解できずただソイを見つめて固まってしまっていた。
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今日から第9章が始まります
続きは明日の11時に更新予定です
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