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サボり魔王子の家庭教師  作者: 梨乃あゆ
第二部 恋人編
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第8章 サボり魔王子の大切なもの⑤

 ショコライルが手配した医師が部屋に来ると、アニスは一度退室する。ショコライルはどうやら気になるらしく退室せずに診察に付き合ってくれた。



 診察の結果は毒に侵されてはいたが、思いの外良好ということであった。どうやら連日ハミルダが治癒魔法をかけてくれていたらしく、かなり状態はいいということであった。


 問題があるとしたらやはり筋肉であった。筋肉の働きを抑える毒であったため、いくら治癒魔法をかけても動かさないことには回復しないということで、少しずつでも運動するようにとのことであった。



 

 ショコライルは率先してミルティアの運動に付き合うとのことで、医師から筋肉のマッサージの仕方や運動の仕方を学んでいた。

 嬉しい気持ちはあるが、さすがにマッサージをしてもらうのは恥ずかしいため、アニスに助けを求めようと密かに決意するミルティアなのであった。




 医師が退室すると、今度はアニスが入れ替わり入ってきて、飲み物と消化に良さそうな食事を持ってきてくれた。ショコライルはそれすら受け取るとアニスを退室させ、自ら進んでミルティアの介助をしてくれる。

 

 恥ずかしさはもちろんあるが、やはり動くこともできないミルティアにとっては有難いことではあるし、何よりショコライルに甘えられるのは嬉しかった。

 

 珍しく素直に受け入れてくれるミルティアを可愛いと思いながらも、少しでもミルティアの側にいて、ミルティアと同じ時を刻めることの嬉しさをショコライルは噛み締めていた。




 用意された食事はさすがに全ては食べられなかったが、それでも半分は食べることができた。お腹が満たされるとやはり襲われるのが眠気である。

 ミルティアも例外なく睡魔に襲われつい大きな欠伸をしてしまう。それにすぐに気が付いたショコライルは楽しそうに笑うと、食事のために起き上がらせていたミルティアをベッドに寝かせて、頭を優しくぽんぽんと叩く。



「まだ疲れているんだ。今は寝ることが仕事だよ。ずっと側にいるから安心して眠っていいよ。」

 

「ショコライル様はずっとお側にいてくれたのですか?」

 

「ああ……。離れたくなくてね……。」

 

「きちんと寝ていますか?」



 

 その言葉に思わず笑顔が引き攣ってしまう。ショコライルはミルティアのことが心配で、片時も離れたくなかった。離れたらまたミルティアの身に何か起きるのではないか……そんな不安が消えなかったからだ。

 アレンやハミルダ、エディルダ達が何度休めと伝えても、首を縦には振らず夜もミルティアの側にいた。ベッドの横に置いた椅子に座り、ミルティアの手を握ってただ目覚めてくれるのを待つ時間だけが過ぎていったが、手から伝わるミルティアの温かさがミルティアがそこにいることを教えてくれるようで、安心することができた。

 仕事で離れることはあっても短時間で済まし、できるだけミルティアの側にいたいショコライルは、仕事もミルティアの側で行っていた。

 


 そんなショコライルの気持ちが痛いほど分かる部下達は、ショコライルがミルティアの寝室に入るとなるべく部屋に入らず2人っきりにさせていた。

 時々アレンやアニスがショコライルの身を案じて確認に向かうが、連日の仕事と心労で疲れたショコライルが何度もミルティアのベッドに突っ伏して寝ている姿を目撃していた。

 

 ショコライルはこの5日間ベッドできちんと休まず、疲れて眠り落ちることを何度もやる睡眠しか取っていなかった。


 だからこそミルティアからの指摘につい言葉が詰まり、笑顔が引き攣ってしまっていたのだ。



 


「ああ……眠れてるよ。」


 

 きちんと寝てはいないが、寝ていることは確かなので多少誤魔化して伝える。疑い深そうな目でショコライルを見つめてくるミルティアは、ショコライルに無言で手を差し出す。ショコライルはすぐにその手を握り返すと、ミルティアを愛おしそうに見つめてきた。




「ショコライル様、一つお願いいいですか?」

 

「ミルティアのためなら何個でも聞くよ。」



 嬉しそうに応えるショコライルの動きとは逆に、ミルティアは恥ずかしそうに布団を顔の半分まで上げると、その状態でショコライルを見つめた。



「わたくし……1人で眠るのが怖いのです……。」

 

「ああ……だから側にいるから安心して。」


 

 ショコライルは側にいるから安心して眠れると伝えたはずなのだが、どうやらミルティアの希望は違っていたらしく、顔を真っ赤にしてショコライルを見つめていた。



「その……一緒に寝てくれませんか?1人で布団に入って眠るのは……出来そうにありません。」



 言われた言葉をすぐさま理解できず、ショコライルは目を見開いて固まっていた。顔をさらに真っ赤にしたミルティアは頭まで布団に潜ってしまい隠れてしまっていた。状況を理解したショコライルは、珍しく動揺していた。



「えっと……ミルティア?流石に婚約も何もしてない状況はまずいかなと思うのだけれども……。」



 この国では結婚するまで寝台を共にしないことは珍しくはない。ましてや婚約すらしていない2人が寝台を共にするものなら……間違いなくバーナードの逆鱗に触れそうであった。



「そうですよね……すみません……。」

 

「いや……、やはり共に寝よう、ミルティア!」

 

「えっ?!」

 

「あー……、安心してね。絶対何もしないから!」

 

「はい……。」

 

「とりあえず、アレンに絶対入るなとだけ伝えてくる。後服も着替えてくるね。少しだけ待てるかな?」

 

「はい……。」



 ミルティアは隠れていた顔の半分だけ出して、ショコライルに返事をする。そのあまりに可愛らしい仕草にショコライルは思わず額に口付けを落とすと、もの凄い勢いで寝室を後にした。



 部屋の外でアレンとアニスの驚く声が聞こえた気もするが、それより自分はなんてはしたないお願いをしてしまったのかと、今さながらミルティアは恥ずかしくなっていた。



 ショコライルの目の下のクマや疲れた顔から、ショコライルがきちんと休めていないことなどすぐに分かっていた。布団でしっかり休むよう伝えてもきっとショコライルのことだ。ミルティアが心配で嘘をついて側にいるはずである。ショコライルの体調がこのままでは崩してしまうと考えたミルティアは、それならば一緒に寝てしまおうと考えたのであった。


 

 だが寝台を共にする意味をよく理解すると、解釈によってはすごい誘いをしたことにもなる。ショコライルはミルティアの意図を読み取ってくれているだろうが、やはり冷静になると一緒にただ眠ることすら恥ずかしく思える。



 そんなことを考えていると、ショコライルが息を切らして部屋に戻ってきた。普段見慣れている王太子としての装いから、リラックスした服装に着替えたショコライルはゆっくり寝台に近づいてくる。夜着ではないのはショコライルの少しばかりの配慮であろう。




 


「ミルティ……入ってもいい?」


 歩みを止めたショコライルがミルティアに最後の確認をしてくれる。



「もっ……もちろんです。よろしくお願い致します。」



 


 緊張で声が思わず裏返ってしまった。

 ショコライルはミルティアの言葉を合図にするかのようにゆっくりと布団の中に入ってきた。触れるか触れないかぐらいのギリギリの距離にショコライルがいることがよく分かる。ミルティアは恥ずかしさでショコライルに背中を向けていたが、意を決してショコライルの方に向き直る。すぐに2人の視線が重なり合うと、2人とも顔を真っ赤にして初々しい反応をしていた。



 



「ミルティ……その……この向きでいいの?」

 

「はい……。ショコライル様を近くで感じたいので……。」



 

 ミルティアが言葉を発した瞬間、ショコライルは自分の目に手を当てると何故か天を仰いでいた。ミルティアはその行動の意味がよくわかっていなかったが、ショコライルはあまりのミルティアの可愛さに悶絶し、己自身の煩悩と戦っていたのだった。

 


 落ち着かせるように一度深いため息を吐くと、もう一度真っ直ぐミルティアを見つめ、ミルティアの頬に手を置いた。



 


「ミルティ、もしよければなんだけど……抱きしめてもいい?」

 

「はい……。そうしてほしいと思っておりました。」

 

「そっか……。じゃあ今日はこのまま眠ろう。」




 

 ショコライルは優しく微笑むとミルティアを抱き寄せた。距離が近いためお互いの鼓動が聞こえる。どちらも同じくらい早いリズムで刻んでおり、2人ともがこの状況に照れているのがよくわかる。



 緊張しているはずなのに、お互いの存在を感じることに強い安心感を覚える。布団に包まれる温かさとお互いの体温の温かさを感じると、2人はすぐに深い眠りにつくのであった。



 


 居間にはアニスとアレンとエディルダが寝室の見張りとして残っていた。

 ミルティアが目覚めたことはエクラにも伝えてはいるが、疲労が酷いため面会は控えるよう伝えてある。今日はきっと急な来客など来ないはずだ。たとえ婚約前であったとしても2人の絆を疑う者はいない。

 それならば、今は幸せを噛み締めて穏やかに眠ってほしい……そう願い誰も2人のことを咎めることはしなかった。

お読みいただきありがとうございます

これで第8章は終わりです




明日からは第9章に入ります



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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