第9章 サボリ魔王子が暴いた真実②
ミルティアは目の前で深いお辞儀をして、一向に顔を上げないソイが何故こんな行動を取っているのか分からなかった。
ソイはオシリス祭でマラソンの給水係として一緒に仕事をしたり、ミルティアの護衛として関わってくれてはいるが、たわいもない会話はするが、土下座される覚えはなかった。
ミルティアはただこの状況が理解できず、助けを求めるようにショコライルを見つめると、意図を理解したショコライルは苦笑いを浮かべて頭を撫でてくれた。
「ソイ……突然行動だけだとミルティアが困ってる。きちんと説明が必要ではないか?」
「ショコライル様のおっしゃる通りですね。……驚かせて申し訳ありません、ミルティアさん。この度は親族が大変ご迷惑をおかけして……、ミルティアさんになんとお詫びしたらよいのか……。」
ショコライルの呼びかけに顔を上げたソイであったが、話し始めるとまた再び深いお辞儀をしてしまった。声が震えているため強い反省の言葉だと伝わるが、何を言っているのかミルティアには分からなかった。唖然としているミルティアにショコライルは補足をしてくれた。
「ソイはサンティカ子爵の三男だ。」
「えっ?!ソイさんは貴族の方だったのですか?」
「はい……。この度は本当に申し訳ありませんでした。」
「お顔を上げてください。ソイさんのせいではありませんよ。ただ血縁とだけでご自分を責めないでください。わたくしこそ子爵家のご子息だとも知らず、大変失礼な態度をとっていました……申し訳ありません。」
「やめてください!!今まで通りでお願いします。」
「ですが……公爵家の方になるのですよ?男爵家のわたくしでは……。アレン様とお呼びしていますし、はやりソイ様の方が……」
「やめてください。慣れないんで。アレン様は生粋の公爵家ですし、ショコライル様の側近です。片や私は子爵家から上がっただけです。それに三男ですので家督は継ぎません。いずれはまたサンティカ子爵を授かる予定ですので、今まで通りでお願いします。」
「そんな……。」
「ミルティアさん、ここはソイを立ててあげてください。じゃないと私のこともアレンと呼ばせますよ?」
終わりそうにない会話に助け舟を出したのは同じ公爵家のアレンだ。決心がつかないミルティアではあったが、さすがにアレンを呼び捨てにすることなど無理なため、ソイの申し出を受け入れることにした。
「アレン様狡いです。わかりました……ソイさん、これからもよろしくお願い致します。」
ミルティアは悔しそうに頬を膨らませてアレンを見つめる。本人は至って真面目に悪態をついているのだが、大きな目で頬を膨らませて見つめ姿は子リスのように見えるだけで、悪態にはとても見えない。
アレンが困ったように笑うがそれを許さないのが独占欲と溺愛が加速しているショコライルだ。
ショコライルはすぐにミルティアの顔を隠すように抱きしめ、自分の胸に閉じ込めてしまった。ミルティアの姿を誰の目にも映させないという凄まじい嫉妬心をむき出しにするショコライルにアレンはそれはそれは深いため息を吐く。
「ミルティアさん……このばか王子をよろしくお願いします。」
「お気の毒に」という声聞こえてきそうな顔で言うアレンを不思議に思いながらも、ミルティアの気持ちは一つしかなかった。
「おまかせください!」
ミルティアの力強い言葉にアレンは一瞬目を見開いた後優しく微笑む。隣で嬉しさのあまり顔を赤めているショコライルの姿を見逃さないが、だがこんなにも想ってくれる女性にショコライルが出会え、心を掴めたことがなんだか自分のように嬉しかった。
「ミルティア、話の続きをしようか。」
ショコライルは赤くなる顔を隠すように話を切り替える。
「家を取り潰さない代わりに、王都から近い領地を一つ没収とした。一公爵家の反乱であるし、急に公爵家の当主が変わるため、今回の事は全国民が知ることになる。但し最低限伝えるだけで、ミルティアのことも伏せるよ。サマド公爵の名は残るが、全くの別物となる。だから安心して。」
「……お気遣いありがとうございます。」
「遠慮しないで。それからスーピナ国のことだけど……少し長いけど聞いてくれる?」
ショコライルはそこからスーピナ国について話してくれた。
ミルティアが眠っている5日間のうちに、ショコライルはなんとスーピナ国まで出向いていたというのだ。普通に王都からでは10日程かかる道のりではあるが、有事の際に使用するチースイ領の転移魔法陣を利用したため、移動は1時間足らずで済んだ。
サマド公爵の少ない証言だけでは、スーピナ国はしらを切るだけだったろうが、確かな証拠を掴んでいたショコライルはミルティアを傷つけられた怒りも相まって、ショコライルの部隊に魔法騎士団まで総出で動員し、一気にスーピナ国の王城に詰め寄った。
最強と言われている魔法騎士団の登場と、怒りで凄まじい殺気を放つショコライルの姿にスーピナ国の王族達は震え上がり、ショコライルが証拠を突きつけたお陰もあってすんなりと降伏し、城は明け渡されることになった。
国王主体で今回の件は動いていたため、国王とその側近達は捕縛され今はリンレッド王国の牢に入れられているが、全てが明らかになったら一生出れない収容所に送る予定だ。
国王が捕まり、城が開城されたことでスーピナ国は滅び、リンレッド王国の一部となることになった。
元から国民達は無謀な戦いばかりを繰り返し、国民の生活を豊かにせず戦いの資金のために税収を上げたり、徴兵する国のやり方に不満を抱いていたため、開城させたショコライル達は歓迎されているらしい。
スーピナ国の話は瞬く間に近隣諸国に伝わり、リンレッド王国を怒らすとスーピナ国のようになると再認識させたことで、近隣諸国を牽制することもできた。
またリンレッド王国と友好国となる方が自国を護れると判断する国も増えたらしく、友好国を希望する打診が増えてきている。
友好国が増える事は、平和であることの象徴でもあるため、嬉しい事である。それにしても、一体どんな態度でショコライルがスーピナ国に詰め寄ったのか……ミルティアは想像することしかできなかったが、どうしてだか穏便ではなく脅しのようなやり取りをしたと感じてしまう。つい苦笑いを浮かべてしまうが、ミルティアの考えはあながち間違っていない。
実際は閉じられていた城の扉は全て、ショコライルが通る際に破壊し、国王達が逃げた部屋を何なく見つけると、近くにいた護衛はショコライルの風魔法で吹き飛ばし、国王と共に逃げてきたこの計画に加担した側近達を、ハミルダが水魔法で全身ずぶ濡れにさせ、震え上がっている国王の首元にアレンが炎を纏った剣を突きつけ、ショコライルが張り付いた笑顔で証拠を手に詰め寄ったのである。
そのようなことが起きていたため、ショコライル達が城に入ってからわずか30分もしないうちに、全てが終わり城が開かれたのであった。
「ミルティア、大丈夫?スーピナ国の話はやはり嫌だったかな?」
引き攣った笑顔を浮かべているミルティアが、スーピナ国の話を聞くのを怖がっているとショコライルは思ったが、実際はショコライル達が行ったであろう詰め寄り方を考え少しだけスーピナ国の国王を哀れんだとは言えない。
ミルティアは首を横に振り問題ないことだけを伝えて話の続きを促した。
「スーピナ国はリンレッド王国の一部となる。あの国は国民に犠牲を厭わせすぎていたため、まずは生活基盤を整えることから始めるよ。」
「ショコライル様が行うのですか?」
「ああ……もちろん協力者もいるけどね。父上から国王になるための試練だと言われたよ。国を纏めるんだ。上手くできない人間が大きな国を支えるなんて無理な話だから、頑張るよ。」
「お手伝いさせてくださいね。」
「もちろんそのつもり。スーピナは雨が少ない土地で水不足に悩まされている。だからミルティア、君の力が必要なんだ。それに……」
「それに?」
「もう君とは絶対に離れない。何処へ行くのも一緒だ。ミルティアが嫌だと言っても連れて行くから。」
真っ直ぐミルティアを見つめる瞳の奥は不安で揺れていた。ミルティアと離れることが今のショコライルにとって何よりも1番恐れていることが伝わる。
ミルティアはショコライルの手を握りしめると優しく微笑んで見せた。
「嫌なわけありません。ずっと一緒にいられるなんて嬉しすぎる話です!」
ミルティアの幸せそうな顔を見ると、ショコライルの瞳の奥にある不安も消えていく。ショコライルは小さく「ありがとう。」と伝えるとミルティアの手を握り返すのであった。
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