↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/42

38・白銀牛のステーキ

「……ふむ。先に完成させたのは、私のようですね」


 オズワルドが火を止め、フライパンを下ろした。


 俺は自分の手元を動かしながら、横目で彼の様子をチラリと窺う。


 オズワルドの前に並べられた三枚の純白の皿だ。

 その中央に鎮座しているのは、絶妙なミディアムレアに焼き上げられた見事な白銀牛のステーキ。


 表面には香ばしい焼き色がつき、そこから赤ワインとトリュフを使ったであろう濃厚なソースがたっぷりと艶やかにかけられている。

 付け合わせの野菜は色鮮やかに配置され、まるで一枚の絵画のような完成度だった。


「さあ、審査員の方々。私の最高傑作、『白銀牛のロティ・トリュフソース仕立て』です。どうぞ、お召し上がりください」


 オズワルドが恭しく皿を差し出すと、三人の審査員たちはゴクリと喉を鳴らし、一斉にナイフとフォークを手に取った。


 すると。


「おお……なんという柔らかさだ! ナイフが吸い込まれるように入っていく!」

「見てください、この溢れ出す肉汁! これぞ、まさしく至高の輝きだ!」

「見ているだけで、食欲がくすぐられる! くーっ! たまらん!」


 三人とも、オズワルドが作った白銀牛のステーキを絶賛する。


 やがて審査員の一人が、切り分けた肉を口に運ぶ。


 その瞬間、彼の目がこれ以上ないほど見開かれた。


「旨い……! 旨すぎるっ!」


 審査員は身を震わせ、恍惚とした声を上げた。


「口に入れた瞬間、白銀牛の脂の甘みがとろけるように広がっていく!」

「それだけではない。この赤ワインとトリュフのソース……。肉の強烈な旨味を全く邪魔せず、むしろそのポテンシャルを何倍にも引き上げている! まさに、計算し尽くされた完璧な一皿だ!」

「ええ、同感です。火入れの技術も神懸かっている。これほどの腕前をお持ちとは!」


 次々と肉を口へ運び、その度に手放しで絶賛する審査員たち。


 一方、俺を応援してくれているベルナードの人たちは、「ああ……」と嘆きの声を漏らした。


 ……なるほどな。


 オズワルドが事前に、審査員を買収している可能性は高いだろう。

 だが、あのリアクションは演技だけじゃない。純粋に料理が美味いからこそ出てくる本能的な反応なのだ。


 使っている肉の質が良いのはもちろんだが、オズワルドの火入れの技術は本物だ。


 肉の表面をカリッと焼き上げつつ、内部にはしっとりとしたロゼ色の赤身を残し、肉汁を一切外に逃がしていない。香草の使い方も圧巻の一言だ。


 最高級の食材と、一流の技術──その二つが合わさって生み出された料理は、間違いなくオズワルドの強力な必殺技だ。


「お嬢様……これでは、タクミ様が……」

「…………」


 青ざめた顔をするリネットに対して、エリシアは両手を合わせてじっと黙っている。

 ハンナにいたっては、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「お粗末な余興でしたが、これで勝負は決まりですね」


 ただいま絶賛されているというのに、オズワルドは「当然です」と言わんばかりに笑顔一つ作らず、俺の方へ向き直る。


「さて──タクミ。あなたの餌は、まだ完成しないのですか? もう勝負はついているのだから、そのままゴミ箱へ捨ててしまっても構いませんよ」


 オズワルドの言葉に、店内はピリッとした空気に包まれる。


 しかし、オズワルドの料理の完成度を見せつけられた後だ。人々は悔しそうに唇を噛んでいるが、反論の声を上げることも出来ないようだった。


「大切な食材を、ゴミ箱に捨てたりなんかしないさ。それに──勝負を途中で投げ捨てるような真似もしない」


 目の前のフライパンの上では、こんがりと焼き色のついた楕円形の肉の塊──ハンバーグステーキが、ジュージューと心地よい音を立てている。


 表面をしっかりと焼き、蓋をして蒸し焼きにすることによって、赤身肉のミンチの中に、炒めた玉ねぎの甘みとたっぷりの肉汁を閉じ込めてあるのだ。


「まだ勝つおつもりだと? あなたの目は節穴ですか?」

「まあ……あんたが作ったステーキが、旨そうなのは認めるけどよ。勝負が終わったら、俺にも一口食わせてくれよ」

「食わせてもらいたいと? 強がりですか。現実が見えていないようですね」


 俺の反応に、オズワルドは眉をひそめる。


「強がりなんかじゃないさ。純粋に、旨いもんは旨い。俺は料理に嘘は吐けない。だが……」


 俺はそう言ってニヤリと笑うと、再び自分の料理へと向き直った。


「俺の料理だって、負けちゃいないぜ」


 そう言って、ニヤリと笑う。


 ──完成だ。


 俺はふっくらと焼き上がった三つのハンバーグを、丁寧に皿へと盛り付けた。


 そして別の小鍋でじっくりと煮詰めていた、俺の最大の切り札である『特製ソース』も小皿に入れ、ハンバーグの横に並べる。


「さあて、待たせたな」


 俺は、完成した三枚の皿を審査員たちの前へと運んだ。


 皿の上には、たっぷりのソースを纏って照り輝くふっくらとしたハンバーグステーキ。そして、付け合わせの彩り豊かな野菜たちが並んでいる。


 俺はオズワルドと審査員たちを交互に見据え、不敵に笑いかけた。


「お待ちどう──『よりみち亭』特製、ハンバーグステーキだ。熱いうちに食ってくれ」

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

下記の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。