↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
34/39

34・勝負の条件

「……なるほど。店を畳み、料理人まで辞めると。しかも勝負に負ければ、私の言うことをなんでも聞いてくれる……ですか」


 俺の覚悟を聞いたオズワルドは、ここで初めて面白そうな笑みを浮かべた。


「タクミさん……! ダメです! そんな無茶な勝負!」

「そうよ、タクミ! 私のために、あなたがそんなリスクを負う必要なんてないわ!」


 背後からハンナの悲鳴のような声と、エリシアの制止する声が飛んでくる。


 だが、俺は彼女たちに振り向かず、オズワルドを見据え続けた。


「俺は本気だ。そっちがエリシアの自由を賭けるなら、俺もそれ相応のものを賭けなきゃフェアじゃないだろ」


 もちろん、店を畳むのも料理人を辞めるのも、絶対に嫌だ。


 前世からの夢だった自分の店。温かいお客さんたち。ハンナやエリシアと過ごす居場所。それを失うなんて考えたくもない。


 だが、ここで引けば、エリシアは二度とこの店に来られなくなるだろう。

 それだけは、絶対に避けなければならなかった。


「……面白い。あなたがそこまで言うのなら、その勝負、受けて立ちます」


 オズワルドの唇が、三日月のように吊り上がる。


「──決戦は一週間後。場所は……そうですね、ここ──『よりみち亭』にしますか。あなたも慣れ親しんだ厨房で調理をする方が、力を発揮できるでしょう?」

「ああ、それでいい。だが、随分と優しいんだな。あんたのことだからてっきり、自分に有利なフィールドで戦うと思った」

「ふっふっふ、どう転ぼうとも、私が絶対に勝てると思っているからですよ。それから──勝負までのこの一週間。特例として、エリシア様がこの『よりみち亭』へ足を運ぶことも許可します」

「いいのかしら?」

「勝負の結末を見届けるのも、エリシア様にとって良い経験になるでしょうから」


 ……こちらに都合がよすぎるな。

 それだけ、オズワルドは料理の腕前に、絶対の自信を持っているだけ、ということかもしれないが。


 オズワルドはさらに続ける。


「なんでも作っていい……となれば、審査をする側も困るでしょう。そうですね……一つ、料理のテーマを決めるのはいかがでしょう。私が決めても?」

「構わない」

「では──テーマは『ステーキ』。幅を持たせるため、テーマはシンプルな方がいいでしょう」

「ステーキ……か」


 俺は即座に、頭の中で作戦を組み立てる。


 ステーキというのは一見シンプルな料理ながら、だからこそ料理人の腕が直接問われる料理だ。

 ステーキなら、料理ギルドで肉の仕込みもやっていたことがある。一見、対等な条件のように見えるが……。


「いけませんか?」


 黙りこくった俺に、オズワルドは見下すような響きの声を浴びせる。


「いや……問題ない。料理テーマはステーキにしよう」

「では、決まりですね。繰り返しますが、勝負は一週間後。場所は『よりみち亭』。料理テーマはステーキ。審査員については、私が用意いたします。確かな舌を持った美食家を招きましょう」


 俺が首を振ると、オズワルドは「それでは」と言い残して、『よりみち亭』を後にした。


 ……ヤツにとって、エリシアが屋敷を抜け出すのは想定外だったようだが、特に無理やり連れ帰るような真似はしなかった。


 果たして、どこまでが計算だったんだろうな。


「……タクミ」


 震える声で呼ばれ、俺は振り返った。


 すると──大粒の涙をぽろぽろと零しているエリシアが、俺の胸に飛び込んできた。


「どうして……どうして、あんな無茶な条件を飲んだのよ……! 私のために、あなたの料理人人生を賭ける必要はないのに……!」


 エリシアは俺の胸の内で、しゃくり上げながら泣き崩れる。


 ハンナも隣で、「タクミさん……」と涙ぐんでいる。


「心配するなって」


 俺はエリシアの頭を優しく撫でる。


「俺が勝てばいいだけだけだろう?」

「で、でも……」

「それとも、俺の料理がヤツに負けると思ってるのか? あんなにいつも、楽しそうに食ってくれたのに?」


 そうニカッと微笑みかけると、エリシアは涙で泣き濡らした顔を上げてくれた。


 俺の力強い言葉に、店内にいた客たちも沸き立つ。


「そ、そうだ! グランフォード家の執事だかなんだか知らねえが、あんなヤツに大将が負けるわけねえよ!」

「大将、勝ってくれよな! このお店がなくなるなんて、ごめんだぜ!」

「アタイは、ここの店の料理が世界一美味しいと思ってる! 自信を持って、勝負に挑みな!」


 先ほどのオズワルドの理不尽な振る舞いは、腹に据えかねるものがあったらしい。

 みんな、俺のことを応援してくれていた。


「タクミさん……絶対に負けないでください。タクミさんならきっと勝ってくれるはずって、信じてますから!」

「おう、任せとけ。俺は絶対に勝つ。だから……一週間後、一番特等席で俺の勝利を見ていてくれ」


 俺は決意を込めて、みんなにそう言い切った。



 ──オズワルドもオズワルドなりに、考えがあるんだろう。



 しかし俺には、俺の料理を信じてくれる人たちがいる。


 その思いを肌で感じたら、仮にヤツがどんな汚い手を使ってきても、不思議と負ける気はしなかった。

【作者からのお願い】

「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、

下記の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!

よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。