誰の功績
翌日、隊長執務室に、思いがけない来客が案内されてきた。
「失礼します。王宮魔術師団、団長ナルニエル。それと、副団長のルイです」
ナルニエルの隣に立つ、快活そうな雰囲気の男が、そう名乗った。
「突然の訪問、失礼します。昨日の件、団員一同と協議いたしましたので、ご報告にまいりました」
「……昨日の件、ですか?」
ラルローディアは、怪訝そうに眉を寄せた。何も報告を受けていなかったからだ。
隣に座っていたレオンが、僅かに、視線を泳がせる。
「レオン」
小声で、鋭く問いただした。
「お前、俺の知らないところで、何かしたのか」
「……後で、ちゃんと説明する」
レオンはそう言うと、気まずそうに目を逸らした。その様子に、ラルローディアは、余計に不審を募らせたが、来客を待たせているこの状況では、それ以上追及はできなかった。
「北の森の討伐、魔術師団として、正式に協力させていただきたいと思います」
その言葉に、ラルローディアは、僅かに目を見開いた。事情はまだ飲み込めていなかったが、あの森の討伐は厳しいものになるのはわかっていた。協力の申し出はなんとも有り難いことだ。
「……ありがとうございます」
深く頭を下げる。だが、ふと横を見るとレオンの表情が、どこか決まり悪そうに見えた。
「ただし」
ナルニエルが、続けた。
「団員の中には、魔力量に差があります。全員が、同等の戦力というわけではありません。ですので今回は、
あくまで『援護』という立場で、参加させていただきます」
「援護、ですか」
「はい。討伐の主体は、あくまで特殊部隊。私たちは、その補助に徹します」
ナルニエルの言葉は、理にかなっているように聞こえた。だが、ラルローディアは、直感的に何かが引っかかった。
――この人が、本気を出せば。
呪いの調査の際に見た、ナルニエルの実力。あれは、並の魔術師のものではなかった。援護に徹する、というのは、いささか謙虚すぎる立場のように思えた。
「団長殿ほどの実力があれば、援護以上のことも、できるのでは」
思わずそう尋ねると、ナルニエルは、少し困ったように視線を泳がせた。
「……いえ、これは」
「ナルニエル団長は」
その時、隣に立っていた副団長のルイが、口を挟んだ。
「今回の功績は、ラルローディア隊長殿のものであるべきだと、そう仰っていたのですよ」
「ルイ」
ナルニエルが、慌てたように制止しようとしたが、ルイは、構わず続けた。
「魔術師団が前面に出過ぎては、隊長殿の功績が、霞んでしまいます。だから、あくまで援護に留める、と」
(俺の功績……)
その説明に、ハッと驚いたラルローディアは、しばらく言葉を失っていた。
――みんな、そこまで考えてくれていたのか。
視線を、隣のレオンに移す。決まり悪そうな顔をしていた理由が、ようやく、分かった。
「レオン。お前……そこまで、根回しをしていたのか」
「……いや、その」
レオンは、頭をかきながら、視線を逸らした。
「お前が、正々堂々、自分の力で功績を立てたって、思ってくれた方が、いいと思ってな」
その不器用な優しさに、ラルローディアの胸が、じんと、熱くなった。
「レオン」
「なんだよ」
「……ありがとう」
短い言葉だったが、そこに込められた想いは、十分に、伝わったようだった。レオンは、照れくさそうに、鼻の頭を掻いた。
「ナルニエル団長、ルイ副団長、自分のために申し訳ない、本当に協力ありがとうございます」
ラルローディアは深く三人に向かって頭を下げた。
「魔術師団の援護もある。あとは、準備を整えて行くだけだな」
レオンが明るく話し出す。
「準備期間は、どれくらい必要ですか」
ラルローディアの問いに、ナルニエルが答えた。
「森の規模を考えると……一週間、いただければ、万全の態勢が整えられるかと」
「一週間、か」
ラルローディアは、静かに頷いた。
「分かりました。一週間後、出発します」
その言葉に、その場にいた全員が、頷いた。
窓の外、遠く北の空に、ラルローディアは、静かに視線を向けた。
――今度こそ、決着をつける。
心の中で、そう強く誓っていた。




