わかります
大神官との面会を終えたその足で、ラルローディアは、詰所へと戻った。
「レオン」
「おう、どうだった」
待ち構えていたレオンに、ラルローディアは、大神官との対話での思いがけないアドバイスを伝えた。
「褒賞として…望める可能性がある、ということか」
「ああ」
「そうか……ひとまず突破口が開けたな」
レオンは、小さく安堵したような表情を見せた。
「協力してくれて、助かった。ありがとう」
ラルローディアが、深く頭を下げると、レオンは、慌てたように、腕を組み直した。
「おい、よせよ水臭い!俺は、何もしてない、ったく、素直すぎるお前に慣れないわ」
そう言って二人は笑い合う。
「問題はこれからだ。相応の功績、というやつを見つけないといけない」
「……そうだな」
レオンは、曖昧に頷いた。頭の中には、すでに、一つの考えが浮かんでいた。
――あの森しか、ないだろう。
まだ討伐が終わっていない、あの魔物の森。規模も、強さも、並みではない。あれを完全に討伐できれば、これ以上ない功績になるはずだった。
だがそれを今、ラルローディアに言い出すことは、レオンにはできなかった。
――あそこは、俺のせいで。
ラルローディアが崖から落ちたのは、自分を庇ったからだった。その場所に、また向かわせることを、自分の口から提案するのは、どうしても躊躇われた。
「悪い、俺ちょっと出てくる」
「どこへ」
「野暮用だ。すぐ戻る」
誤魔化すように、そう言うと、レオンは、詰所を後にした。
向かった先は、王宮魔術師団だった。
ナルニエルは、いつもの、落ち着いた様子で、レオンを迎えた。
「アポイントも取らずに申し訳ない」
「いえ、レオン殿の用事は大抵の案件より重要な事が多い。今日は?」
「単刀直入に言う。まだ片付いてない、北の森の討伐に、魔術師団の力を貸してほしい」
「北の森、というと……隊長殿が、崖から転落された、あの」
「そうだ」
レオンは頷くと、事情を簡潔に説明した。ラルローディアの、聖女リーヴァとの間の事情。功績が必要なこと。そして、あの森がおそらく、最も現実的な選択肢であること。
「なるほど……それで」
ナルニエルは、しばらく、思案するように、黙っていた。
「あの森の魔物は、通常の討伐部隊だけでは、犠牲が多く出かねません。魔術による援護が、あれば犠牲を最小限にすることも可能…しかし…」
「頼めるか」
「隊長殿の、お気持ちは……よく分かります」
ナルニエルは、静かに、そう言った。その声には、どこか、しみじみとしたものが滲んでいた。
「私にも、大切な人がいます。彼女のためなら、何でもしたいと思う気持ちは、痛いほど、理解できるつもりです」
レオンは、少し意外そうな顔をした。ナルニエルが、そんな風に、自分のことを話すのは、珍しかった。
「それに」
ナルニエルは、少し、表情を引き締めた。
「あの森のことは、以前から気にかかっていました。あの地帯の脅威が、放置されたままでは、周辺の民も不安を抱え続けることになる。できることなら、犠牲を最小限に抑えて、けりをつけたいと、思っていたところです」
「団長殿でも、そういうこと考えてたんだな」
「……当然でしょう」
ナルニエルは、少し、決まり悪そうに、目を逸らした。
「しかしながら、全ての隊員に、なんらかの犠牲の可能性がある以上、私個人の判断で返事をするわけにはいきません。とりあえず団員すべてと協議を重ねてから、明日にはお返事をさせて頂きたい」
「ありがとう。よろしくお願いします」
レオンは、深く頭を下げた。
魔術師団の協力が取り付けることを祈りながら、レオンは詰所へと戻った。




