原因
「……というわけで、実家に帰ったんだが、どうも調子が悪い」
詰所の一角で、ラルローディアは、レオンにだけ、実家での違和感を打ち明けた。
「調子が悪い、って、どんな風に」
「うまく言えないが……体の奥に、何かよどむようなものが溜まる感じだ。倦怠感とも少し違う」
レオンの表情が、みるみる険しくなっていった。
「それ、いつからだ」
「意識が戻った時からだ。村にいた時も、あったが……実家に戻ってから、特に強く感じる」
その言葉に、レオンは、拳を強く握りしめた。
「……俺のせいだな」
「違う」
ラルローディアは、その言葉を遮った。
「誰のせいとか、そういう話をしているわけじゃない。ただ、原因を知りたいだけだ」
レオンはしばらく黙っていたが、やがて、決意したように立ち上がった。
「なら、専門家に診てもらうべきだ。俺が、知り合いに口を利く」
そうして、レオンの伝手で紹介されたのが、王宮魔術師団の団長、ナルニエルだった。
魔術師団の一室、静謐な空気の中、ラルローディアを待っていたのは、意外なほど若い男だった。
――これが、団長?
驚きを隠せなかった。魔術師団の頂点に立つ人物というからには、もっと年配の、貫禄のある人物を想像していた。だが、ナルニエルと名乗ったその男は、まだ二十代と見紛うほどの若さでありながら、その双眸には、年齢に見合わない、鋭く深い知性が宿っていた。
「隊長殿の身体を、診させていただきます」
ナルニエルはそう言うと、ラルローディアの周囲に、幾つもの魔法陣を展開させた。淡い光が部屋を満たしていく。
しばらくの沈黙の後、ナルニエルの表情が、静かに、しかし確実に、険しさを帯びていった。
「……これは」
「何か、分かりましたか」
「呪いです。それも、かなり悪質な」
その言葉に、レオンが、息を呑んだ。
「やはり、そうか」
ラルローディアは、どこか、納得したような声で呟いた。リーヴァから聞いていた話と、一致していたからだ。
「これは、個人的な問題ではなく、事件として扱うべきものです」
ナルニエルの声が、一段と重みを増した。
「呪いというものは、術者の魔力の痕跡が、必ず僅かに残ります。誰が、いつ、どのような意図でかけたか――それを辿ることが、可能です」
「調べられるのですか」
「一日いただければ。よろしければ、正式に、調査を開始しましょう」
ラルローディアは、迷うことなく、頷いた。
「お願いします」
次の日、ナルニエルから呼び出しがかかった。魔術師団の一室に足を運んだラルローディアを待っていたのは、深刻な表情をしたナルニエルだった。
「調査の結果が、出ました」
「……何が、分かったのですか」
ナルニエルは、一枚の紙を静かに差し出した。魔力の痕跡を解析した結果が、そこに記されていた。
その名前を目にした瞬間、ラルローディアの表情から、色が消えた。




