↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海辺の聖女と碧き騎士  作者: ゆうもみじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/41

違和感

次の休みの日、ラルローディアは、久しぶりにジェルナドーレ伯爵邸の門をくぐった。


広大な敷地、手入れの行き届いた庭園。生まれ育った場所ではあるが、いつまで経っても懐かしい実家とは思えないでいた。


「ラルローディア、生きて戻ったか」


執務室で仕事をしていた父は、そっけない一言で、息子を出迎えた。


「はい」


「詳しい話は後日、書面で報告書として上げておけ。今は、他に片付けねばならない案件がある」


「かしこまりました」


通常通りの、親子というよりまるで主従のようなやり取りだった。物心ついた時から、ずっと、この距離感が「普通」なのだ。


「それより、お前も、そろそろ身の振り方を考えねばな」


伯爵は、書類から目を上げることなく、続けた。


「後継の話は、いつまでも先延ばしにはできん。婚姻についても、然るべき相手をこちらで選定しておく」


その言葉に、ラルローディアは、内心僅かに眉を寄せた。まだ父上に話すのは早いと思っているからだ。


「その件については、少し、時間をいただきたく」


「時間? いつまでだ」


「…」


歯切れの悪い返答に、伯爵は僅かに顔をしかめたが、それ以上は追及してこなかった。


応接間を出ると、廊下の向こうから、義理の母――ミレイユが、こちらへ歩いてくるのが見えた。


「まあ、ラルローディア様。ご無事で、何よりですわ」


にこやかな笑みを浮かべているが、その目の奥には、常に値踏みするような冷たさがあった。ラルローディアと同い年のこの女性とは、これまで、一度も、心を開いた会話をしたことがなかった。お互い常に距離を持って接しているからだ。


「ご心配をおかけしました」


「ええ本当に。伯爵家の後継者に何かあっては、大変なことですもの」


その言葉の裏に、何が隠れているのか、ラルローディアには、はっきりとは分からなかった。ただ、彼女がこの家に来てから、常に感じ続けてきた薄い敵意のようなものが、今日も変わらずそこにあった。


「兄上!」


不意に廊下の奥から、小さな足音が駆けてきた。


「兄上、お帰りなさい!」


五歳になる異母弟が、満面の笑みでラルローディアの足に抱きついてきた。その後ろから、三歳になる下の弟も、一生懸命追いかけてくる。


「……ただいま」


ラルローディアは、僅かに表情を緩めると、二人の頭をそれぞれ軽く撫でた。この二人だけは、家の中で唯一何の裏表もなく、自分を慕ってくれる存在だった。


「兄上、もうお怪我、治ったの?痛くない?」


「ああ、もう大丈夫だ」


「よかった! ずっと、心配してたんだよ」


無邪気な言葉に、ラルローディアの胸が僅かに温かくなる。ミレイユは、その様子を、少し離れたところから、静かに見つめていた。


自室に戻り、一人になったところで、ラルローディアは、目を瞑り深く息を吐いた。


――どうも、調子が良くない。


理由は全く分からなかった。ただ、いつもこの家に足を踏み入れると、微かな重さを感じる。倦怠感というほどではないが、何か、目に見えない澱のようなものが、少しずつ、体に溜まっていくような感覚。


とりあえず明日にでもこの違和感の正体を、突き止めるよう動いてみようと考えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。