戦い前の
王都の外、開けた草原を目指して歩き出す。
先頭を行く五明丸の足取りは、どこか浮き立って見えた。後ろからついてくるロイドも、終始にやにやとした顔を隠そうともしていない。
「んで、ここまで来て今更なんだけどさ~」
俺は、隣を歩く五明丸に声をかけた。
「二人って、転生してからどうしてたんだい? 騎士団長とか副団長とか、結構な出世っぷりだけど」
「……お聞きになりたきにございますか」
五明丸は、少しだけ歩調を緩めながら、口を開いた。
「某は、この国の侯爵家に、三男として生を受け申した」
「侯爵……って、結構な家柄だよねー」
「ええ。母方は東方の小国の出。父とは国交のための縁談にて結ばれたと聞いております。……某は、その血を、殊に色濃く受け継いでおるとも言われております」
淡々と語られる出自に、俺は思わず相槌を打った。前世でサブパラメータとして作り上げた時には、こんな細かい設定までは決めていなかったはずだ。この世界に来てから、勝手に積み重なっていった人生なのだろう。
(……待てよ)
ふと、一つの考えが頭をよぎる。
五明丸の、あの黒髪と、どこか東方風の顔立ち。前世の俺が、好き放題にキャラクターメイキングした結果の見た目だ。それに合わせるように、東方の血を引く母親の元に生まれてきている――これは、果たして偶然なのだろうか。
(そういや、俺も)
ふと、一つの考えが頭をよぎる。
思い返せば、自分自身もそうだ。
ホライゾンブルーの髪色とラピスラズリ色の瞳。
それに、幼い頃についた左目――眉から頬にかけて走る傷の痕さえも、まるで最初から用意されていたかのように、どこからどう見てもティムラルトオンラインで俺が作り出したキャラクターの容姿、そのままだった。
その姿のまま、俺はこの世界に生まれ落ちた。
両親であるトマスとエレーナも、言われてみれば、よく似た毛の色や顔立ちをしている。
ケイトだって、金髪に紅い瞳という、いかにもゲームのキャラクターらしい色合いのまま、似た容姿の両親の元に生まれ、違和感なくこの世界に溶け込んでいた。
(もしかして……この見た目に合わせて、生まれてくる場所や親まで、勝手に調整されてるのかな……?)
考えれば考えるほど、妙に背筋が冷える仮説だった。だが、今はそれを確かめる術もない。俺は、小さく首を振って、思考を一旦脇へ置いた。
「三男の身なれば、家督を継ぐ心配など毛頭ございませなんだ。幼き頃より、ただ武の鍛錬にのみ心を奪われておりました」
「ああ、五明丸っぽいねぇ」
「ある折、父より『騎士になってみないか』との勧めがございましてな。元より剣を振るうほか能のなき身、二つ返事で騎士団の門を叩き申した」
五明丸はうんうんと頷き、懐かしむように目を細める。
「以来、修練を重ね魔物や敵を斬り倒し――気づけば、団長の座に据えられており申した」
「いやいや、あっさりだよねぇ」
「結末だけを申せば、然様になりますな」
実にあっさりとした口調だったが、その道のりが平坦でなかったことくらいは、なんとなく察せられた。
「んで、ロイドは?」
俺は、後ろから話を聞いていたロイドに振る。
「おう、俺か?」
ロイドは、頭の後ろで手を組みながら、軽い調子で話し始めた。
「俺は、とある子爵家の次男でさ」
「次男……って、ロイドも結構な家柄だねぇ」
「まぁ~な。でも、長男が俺とは水と油みたいな合わない性格でよぉ。顔合わせるたびに喧嘩ばっかしてた……当然、俺が長男ボコしたけどな!」
ガッハハハと笑いながら、ロイドは続ける。
「で、ある日、思い切って家を飛び出したってわけよ。大剣一本担いでさ」
「大胆ねぇ、ロイド」
「ガッハハハ、若気の至りってやつだぜ」
豪快に笑うロイドだったが、その目には、どこか吹っ切れたような、晴れやかな色があった。
「それで、あちこち渡り歩いてるうちに、ここの騎士団に流れ着いてさ。そこで――」
「――そしてその騎士団にて、某と相まみえたというわけにございます」
五明丸が、話を引き継ぐ。
「初めの頃は、手合わせばかりを繰り返しており申したな」
「いやさ、五明丸の兄貴が戦闘狂だからよー、毎日毎日命懸けだったぜぇ。」
「貴様こそ、嬉々として大剣を振るうておったではないか。この脳筋めが」
軽口を叩き合う二人の様子には、積み重ねてきた年月の気安さが、はっきりと滲んでいた。
「そんでもって、何年も五明丸の兄貴とつるんで色々としてたら」
「気づけば、共に騎士団の柱石を担う身となっており申した」
二人の声が、不思議と重なる。
「今じゃ、この王国じゃそれなりに名が知られちまってな」
ロイドが、親指を立てて自分たちを示した。
「『王国の双剣』――なんて、ちょっと気取った二つ名まで貰っちまってよぉ」
「某としては、少々面映ゆき呼び名にございまするが――」
「いやいや、五明丸の兄貴……団長もまんざらでもねーじゃんか」
「……貴様、口を慎まぬか」
二人のやり取りに、俺は思わず苦笑した。
「へぇ……『王国の双剣』、ねぇ」
前世で、ただの浪漫と勢いだけで作り上げたキャラクターたちが、この世界で、それぞれに歴史を積み重ね、名を馳せている。その事実が、なんとも不思議で、実に面白い……って気持ちにさせた。
(お前らが、俺の知らないところで、この世界でちゃんと生きてきたんだなぁ……面白いね。)
少し離れた場所で、話を聞いていたケイトが、ふと口を開いた。
「お二人とも、お兄さまの前では、随分と砕けた様子ですね」
「そりゃあ、ケイト姉貴……兄貴の前でかっこつけてもしゃーないっしょ」
「……面目次第もございませぬ」
五明丸が、わずかに頬を赤らめながら、咳払いを一つする。
そうこうしている間に、草原の開けた一帯へと辿り着いた。
周囲に、人家の影はない。遠くに、王都の城壁がうっすらと霞んで見えるだけだ。
「……この辺りであれば、問題ないかと思います。」
ケイトが、辺りを見渡しながら言った。
五明丸が、静かに刀を抜く。澄んだ刃が、西日を受けて鈍く輝いた。
「では――そろそろ、宜しきにございますか」
その声に、先ほどまでの砕けた空気が、嘘のように消える。
鋭い眼光が、再び俺を捉えていた。




