後日談と日常と
【アレン成長メモ】
Lv.1 → Lv.2(内包:320)
ダンジョンボス(色違いオーガ)撃破を経て、レベルが上昇。
スキル封印状況が変化:
・起死回生→ 変わらず
・集気功 (アクティブ)→ 変わらず
・獅子奮迅 (封印中 → アクティブ!)New
丸一日の説教が明けた翌朝。
俺はいつも通りの時間に目を覚ましたが、台所に向かう足取りは、心なしか重かった。
(……き、気まずいなぁ、これは)
恐る恐る台所を覗くと、エレーナはいつも通り、朝食の支度をしていた。
「あら、アレン。おはよう」
その声色は、意外なほど普段通りだった。昨日の剣幕が嘘のように、柔らかい笑みを浮かべている。
「今日はパンケーキよ。ほら、座って」
拍子抜けするほど普通に、朝食が並べられていく。俺は戸惑いながらも席についた。
訝しんでいると、椅子に座ったエレーナが、ふと真剣な顔つきになった。
「アレン。昨日は、たくさん言ったけど……本当に、無事で良かったわ。怒ったのは、あなたが大切だからよ。それだけは、忘れないでね」
「……うん。ごめん、なさい」
素直に頭を下げると、エレーナは満足そうに頷いた。
(……ああ、そうか。昨日のあれは、怒りっていうより、心配の裏返しだったってことでいいんだよね?)
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その日の夕食の席、トマスは神妙な顔つきで切り出した。
「アレン。お前たちが踏破したダンジョン……村の男衆と一緒に、確認に行ってきたぞ。ダンジョン奥に残ってた色違いオーガ、並のオーガとは明らかに格が違のが見て良くわかった。」
額に脂汗が、詳しく問い詰められたら困るところぞ。どう倒したか聞かれても夢中だったから覚えてない、ということにして誤魔化した。
(獅子奮迅……このスキル、ティムラルトオンラインのスキルだしこの世界にあるはずないもよなぁ……)
ティムラルトのスキルのことは、同じゲーム出身のケイトにも相談したところ、ここの人たちに話してもわからないだろうと言うことで、二人だけの秘密として、そっと胸の内にしまっておくことにした。
「ダンジョンのことは、村長経由で、リベルタの冒険者ギルドに報告することになった。お前たちのことは伏せてある」
その配慮に、俺は密かに安堵した。目立つのは、あまり性に合わない。
「だが……意識を失うまで自分を追い込むような真似は、二度とするな」
「……うん。分かった」
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それから数日、稽古の内容は、以前よりも少しだけ本格的になっていた。
朝は、走り込みと基礎的な筋力トレーニング。それが終わると、トマスの指導のもと、王国の騎士が基礎として習うという型――剣術と体術の初歩を、順番に叩き込まれることになった。
最初は剣から教わったのだが、何度か型を見せたところで、トマスは顎に手を当てて、しばらく考え込んでいた。
「ふむ……アレン。お前、剣より素手の方が動きに無駄がなくていいな。よくある話だが、剣を持つとどこか手先に集中しすぎて、体全体の連動が崩れる。だが、お前がなれてるのか素手だと、途端に体幹から自然に力が出るようになって様になってる。……うん。お前には、そっちの方が向いてるかもしれん。」
その指摘に、俺は密かに苦笑した。
(そりゃそうだ。俺が育ててきたのは、剣を持たない、素手極振りのキャラクターだからな)
以来、トマスとの稽古の重心は徐々に体術へと移っていった。
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また別のある日。
村の鍛冶屋に、ケイトの付き添いで顔を出した。ふいごを踏む鍛冶屋の親父は、俺の顔を見るなり、豪快に笑った。
「おう、門番トマスのとこの坊主か! 噂は聞いてるぞ、ダンジョンだかなんだかで大暴れしたんだって?」
「ま、まあ、それなりに……」
「はっはっは! いい面構えになってきたじゃねえか。よし、記念に一本、打ってやろう。子供用の、鈍らでいいならな」
そう言うと、鍛冶屋の親父は、鉄くずの中から手頃な廃材を見繕い、その場で軽く打ち直して、小さな短剣を仕上げてくれた。切れ味はほとんどないが、玩具としては上等すぎる代物だった。
「握りだけは、しっかりしたやつを使ってやったからな。大事にしろよ」
鈍らとはいえ、初めて自分の手に馴染む「得物」を持たされたことに、思いのほか心が浮き立った。手のひらに伝わる、木の柄の温もり。
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また別のある日。
修行の合間、井戸端でエレーナが洗濯物を干している横で、ぼんやりと空を見上げていた。
「アレンも、随分と大きくなったわねぇ。あの頃は、寝返りひとつ打てなかったのに」
エレーナの声には、どこか懐かしむような響きがあった。
「……おかあさん、だぁいすきだよ」
特に深く考えたわけでもなく、ふと、そんな言葉が口をついて出た。柄にもないと、自分でも思う。だが、口にしてしまってから、妙に照れくさくなって、俺はそっぽを向いた。
その一言に、エレーナは一瞬きょとんとした後、目を潤ませた。
「もう、アレンったら。急に、どうしたのよ~」
照れ隠しのように笑いながら、それでも手を止めて、俺の頭をそっと撫でてくれる。その手のひらの感触も、洗濯物のはためく音も、乾いた洗濯石鹸の匂いも――何一つ特別なことはないはずなのに、なぜか妙に鮮明に、記憶へと刻み込まれていくのが分かった。
(……こういう、なんでもない瞬間の方が、案外忘れられなかったりするんだよなぁ)
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また別のある日。
村の外れで拾い物をしていた時のことだ。木の陰から、聞き覚えのある鼻歌が聞こえてきた。声の主は、なんと村長その人だった。
こっそり覗いてみると、村長は誰もいないと思っているのか、両手に人形めいた木彫りの人形を持ち、一人でぶつぶつと台詞を言い合わせながら、即興の芝居のようなものを演じていた。
「……いざ尋常に、勝負ぅ!」
真剣な顔で、木彫りの人形同士を戦わせている村長の姿は、村での威厳ある姿とは似ても似つかなかった。
(村長……そういう趣味、あったのか……)
見てはいけないものを見た気がして、俺はそっとその場を後にした。
その後、村長と顔を合わせるたびに、微妙にむず痒い気持ちになったのは、言うまでもない。もっとも、この村長の秘密も、いつか誰かに話したくなる、ちょっとしたネタになるな……後でケイトに言おうかな。
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また別のある日。
夕食の席に、細切りにされたニンジンの煮物が並んだ。
その瞬間、俺は反射的に、顔をしかめてしまった。
(うっ……ニンジン、か……)
「あら、アレン。ニンジン、嫌いだったかしら?」
エレーナが、意外そうに首を傾げる。
「……ううん、平気」
そう答えながらも、内心では戸惑っていた。
(前世じゃ、ニンジンなんて何とも思わず食ってたのにな。むしろ好きな方だったはずなんだが……)
だが、今のこの舌は、あの独特の青臭さと甘さを、はっきりと「苦手」だと判断している。頭では「大丈夫だ、食べられる」と分かっているのに、口に入れた瞬間、体の方が勝手に拒否反応を示すのだ。
しぶしぶ咀嚼しながら、俺はぼんやりと考える。
(チッ……味覚まで、前世とは別物ってことかよ)
精神は同じでも、器がまるごと違えば、感じ方まで変わってくる。当たり前と言えば当たり前の話だが、こういう些細な瞬間にこそ、この体が「前世の続き」ではなく、「まったく新しい何か」なのだと、じわじわ実感させられるのだった。
(……まあ、ニンジンくらい、我慢すれば済む話か)
そう結論づけて、俺は残りの煮物を、なんとか飲み込むように平らげた。
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また別の、ある夜のこと。
寝室の壁越しに、両親の部屋から、微かな物音が聞こえてくることがあった。
(……いや、勘弁してくれよ)
三十代も半ばに差し掛かってなお、二人の仲は相変わらず良好らしい。壁一枚を隔てた子供の身としては、正直なところ、いい迷惑だった。
布団を頭から被り、聞こえないふりを決め込む。前世を含めても、こういう気まずさに対する耐性だけは、一向に育たなかった。
(……まあ、それだけ仲がいいってことなんだろうけどな)
枕に顔を埋めながら、ふと、埒もない考えが頭をよぎる。
(もし、これで弟か妹でもできたら……どうなるんだろうなぁ)
想像してみると、案外悪くない気がした。今度は、自分が「お兄ちゃん」と呼ばれる側になるわけだ。
(子育て、手伝ってやるか。あやし方とか、任せとけって感じでさ)
実現するかも分からない未来を、俺はのんきに思い描きながら、いつの間にか眠りに落ちていった。




