2.冒険者ギルド
エリーゼはトランクをかついで冒険者ギルドに向かって歩いていた。
「ああ、村に帰っても仕事なんてないし、どうしよう……」
このへんの居酒屋や宿屋は人手が余っているぐらいで募集はない。
それに看板娘になるには十代じゃないと厳しい。
「わたしにあるのは、少しの魔力だけだしなあ」
指先を立てて小さな魔法の炎をポッと出す。
十代の頃、冒険者ギルドで測定してもらうと魔力量が少ないので冒険者には向いていないと言われたことを思い出す。
「あてはないけど……とりあえず、王都を出よう」
エリーゼは考え込むのをやめ、できることから始めることにした。
何もあてはないけど、塞ぎ込んでいても始まらない。
王都を出るため、馬車の御者を雇うため、冒険者ギルドに行くことにした。
カランコロンと冒険者ギルドのドアベルがなる。
エリーゼが屋敷に入ると、体格のいい剣士、魔法使い、精霊を従えた精霊使いなど様々な冒険者が、報酬を求めて掲示板で談笑していたり、パーティーを組んで決起会の歓声をあげたりしていた。
(みんな、楽しそうだなぁ……)
賑わう冒険者達を横目で見ながら、エリーゼはギルドの受付へと向かい、声をかけた。
「あの、すみません。王都を出て、そこそこ仕事があって安く暮らせる街へ行きたいんですが……馬車と荷運びをお願いできますか?」
「護衛と運搬ですね。今までは、どんなお仕事をされていたのですか?」
「パン屋です……魔力はあるんですけど、少ししかなくて冒険者は無理なんです……」
「そうですか、まずは募集を出しましょう。いくら出せますか」
「銀貨十枚ぐらい……いえ、二十枚……」
「普通は金貨三枚……銀貨三十枚からなので、募集はかけられませんね」
うなだれて、エリーゼは冒険者ギルドを出ようと後ろを振り返ると、ロングソード二本を腰に抱えた恰幅の良い中年の髭もじゃの冒険者が興味深そうに腕組みをしていた。
「お嬢ちゃん、ルインガルド帝国で良ければ乗せていってやるぜ、銀貨二十枚でいいぞ」
「わあ、ありがとうございます。でも、わたし、新しいお仕事のあてがないから……」
「魔力が使えて、パン屋の経験があるなら、お前さん、多分、魔法パンを作れるはずだ。俺の親戚がルインガルド帝国で、人手を捜していたんだ。住み込みで家賃タダで、月に金貨四枚分だ」
「ええ、そんな仕事があるんですか!?魔法パン……?」
「食べると、疲労回復したり腰痛がなおったりする健康食品だ。ポーションより効き目もおだやかだが、毎日食べていると元気になれる。今、帝都じゃ貴族にも売れないかって騒いでいる人気商品だ」
「そんなパンがあるなんて……知りませんでした」
思わず乗り気になるエリーゼだが、ふと、この人を本当に信用しても大丈夫だろうかと心配になり、ふと顔を曇らせてしまう。
それを見たギルド受付嬢が、自信たっぷりの笑みで彼女の肩を優しく触れた。
「この人は双剣のアブスと言って、有名な腕のいい剣士ですよ。冒険者ギルドでも一度も依頼者から問題を言われたことがありません。安心してください。困っている人がいると見捨てられない人なんですよ」
「もともと、ルインガルド帝国に俺の家がある。家に帰るついでだから、お嬢ちゃんを乗せていくだけだ。誰も損しない話だろ?」
「そうですね……じゃあ、お願いします!」
エリーゼはアブスに銀貨を渡そうとすると、首を横に振られた。
「支払いは魔法パン職人になれてから……つまり成功報酬でいいさ。なけなしの銀貨二十枚だろう。大事にとっておきな。そのかわり荷台で、他の荷物が落ちないよう見張っててくれ。荷物見張り番の仕事なら嬢ちゃんも気兼ねないだろ」
「いいんですか、そんな、荷物を見てるだけで後払いで運んでもらえるなんて」
「俺の後ろに目はねえよ、荷物を見守るのに、お嬢ちゃんが頼りだ」
そう言ってアブスはガハハと笑った。
でも、エリーゼは分かる。彼に本当はそんな必要はないことを。
これは彼の優しさなのだと。
嬉しくて、思わず涙がこぼれそうになる。
それを見て、ギルド受付嬢が背中をさすってくれた。
「新しい場所でも頑張ってくださいね。あなたにも、きっといいことありますよ」
「はいっ!」
エリーゼは、涙ぐみながら元気よく答えた。
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