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兎にも角にもクラフト三昧の日々を過ごすジジイ。潤沢な爆発物を揃えると、いよいよ今日はイベント開催日である。
「ついに来たのぅ。なんのかんのでワクワクしちょるのぉ。ガキの頃も遠足の時はこんなじゃったのぉ」
郷愁にふけるジジイ。いかんせんスタイルがホームレスジジイなので様にはならないのだが。
すると運営から参加者に、イベント用のフィールドに転移させる通知が来て、ジジイも転移させられた。
転移先は物々しい建物の中だった。ここが守るべき拠点である。
「お、おい、爺さんも参加するみたいだぞ?」
「パンイチでかよ?」
「後、癇癪玉な」
「俺達、これ、とんだお荷物抱えたんじゃないのか?」
「とにかく足さえ引っ張ってくれなきゃいいけどな」
このイベントは他サーバーとの競い合いの性質を持つ。自サーバーのメンツ、つまり仲間の質は勝敗を大きく左右するのだ。そこにひょっこりパンイチホームレスが混ざり込めば、あまりよい気はしないだろう。
「おほ〜。ここが防衛拠点かいの〜。立派な建物じゃの〜」
もっともジジイはそんな視線などどこ吹く風で拠点を散策する。仲間内との作戦立てやらの準備時間は余裕を持って割り当てられている為、あっちこっちと歩き回っていると。
「あ、あのお爺さん?」
そんなジジイに声を掛ける女性プレイヤーが現れた。銀色の鎧に羽根飾りの付いた兜。金髪綺麗系のお姉さんだ。
「おん? なんか用かのお嬢ちゃん」
「あ、はい、お爺さんはあの、防具とかお着けにならないのでしょうか?」
「おう」
「つ、着けないのですか……」
何の迷いも無く即答するジジイに唖然とするお姉さん。ここまで堂々と防具は着けないと言う奴なんて、そうはいないから致し方も無かろう。
「あの、でも、それだと結構危ないと言いますか……」
人が良いのだろう。ジジイをきっと知らなくて、ジジイを迷い込んだ新人か何かかと思って心配しているらしい。
「カッカッカッ。まったくじゃな」
だが誰より死に戻り回数の多いジジイ。パンイチスタイルの危険性は熟知……と言うか、そもそも危険性なんか気にしてもいない。だからどうしたと言わんばかりに快活に応えた。
「お〜い! コオロギさ〜ん! 居た居た! メンバー表覗いてたらコオロギさん見付まして、辺りを探しましたよ」
そんなお姉さんとのやり取りの最中現れたのはゼロ。どうやら運良く? 悪く? 同じサーバーに入れたらしい。ジジイに対する引きの強さはトップレベルなのかも知れない。
「おお、兄ちゃん! 久しぶりじゃな」
「あ、あれ? ゼロさん?」
一緒に居たお姉さんも、ゼロと知り合いのようだ。
「やっぱりアンタか! 【戦乙女】様が爺さんに何の用だ?」
「お! なんじゃなんじゃ兄ちゃん! お嬢ちゃんは兄ちゃんのコレか?」
ニヤケ面でゼロに向かって、おもむろに小指をおっ立てるジジイ。下品この上も無い。
「だぁぁあ!! 違いますよ違います! そんなんじゃ有りませんて! ただの知り合いですよ!」
顔を真っ赤にして全力否定などするもんだから。
「アッチッチ♪ アッチッチ♪ 兄ちゃんと嬢ちゃんはアッチッチ♪」
ニタニタ笑いながら2人の周りをクルクル回るジジイ。鬱陶しさなら三国一だろう。
「子供ですか! マジでやめて下さいって!」
「ゼロさん、そんなにムキになって否定するからお爺さんが面白がるのでは?」
以外とお姉さんの方は冷静に微笑んでいる。親戚のちっちゃな子供でも相手にしてるかのようだ。
「そうだお爺さん! あの、私はもうコレを使わないので差し上げます。防具の代わりとまではいきませんけど」
お姉さんがよこしてくれたのは3つの指輪。
【力の指輪】【素早さの指輪】【頑強の指輪】
それぞれ力、素早さ、防御力を少し上げてくれるステータスアップの指輪だ。もっとも装備したとて大差ない程度であるが。
「なんじゃ! くれるんかい! さんきゅーじゃ!」
貰った指輪をおもむろにハメるとそこらを走り出す。
「おお! いつもより少し早く走れるわい!」
何しろ力や素早さに関しては初期ステータスからまったくポイントを割り振っていない。感覚的には大きな違いがきちんと感じられるだ。
「段差も楽によじ登れるぞい!」
手を使ってよじ登るような場所もかなり緩和された。ただし、一般のプレイヤーと比べればものすごく遅くはあるが。
「いやはやこんな貴重なもんをお嬢ちゃん、ありがとのぉ」
両膝に手を添え、頭を下げるジジイ。道を極める人達風挨拶だ。
「あ、いえいえ、そこまで貴重な物でも無いですよ、喜んでいただけたのなら良かったです」
「そうじゃ! ワシもお礼のプレゼントをしちゃろ! 確かアイテムボックスが用意されとったの。ちと一緒に来てくれ」
言うやいなやテッテケ走り出すジジイ。拠点の転移場所にはイベントに備える為のアイテムボックスが設置されている。そこから引っ張り出したのは。
「コイツをやろう」
【退魔の宝剣】
「…………」
「…………」
目が点になるお姉さんとゼロ。完全に呆気に取られてしまった。
「ホレ」
無理矢理にお姉さんに手渡しするジジイ。
「ハッ!! だだだ、ダメですよお爺さん! こんな高価な物は受け取れません!!」
必死に突き返そうとするも、
「エエんじゃエエんじゃ、ワシ、どうせ使えんし。売れんし」
「売るって…… コオロギさん売ろうとしたんですか?」
「ほうじゃ、ほしたら買ってくれなかったんよ」
もうこの人ムチャクチャだ…… ゼロは一旦深く考えるのをやめてお姉さんに向き、
「貰っとけ」
1言だけ言ってやった。
「え、でも……」
それでも躊躇するお姉さんに、目をつぶって頭を横に振ってこれはもらい事故だと添えた。
「いやぁ~、エエもん貰えたわい。あ、そうじゃ、名乗って無かったのぉ。ワシ、便所コオロギって言うんじゃ、よろしくの。お嬢ちゃんの名前はなんてんじゃ?」
「私ですか? えと……」
「江藤さんじゃな!」
「は!? いえ。そうじゃなくて!!」
「江藤さんじゃな、憶えたぞい」
「いや、私、ソフィーですー!!」
「ああなるほど、江藤ソフィーさんかいの。ハーフなんじゃな。それじゃ今後ともよろしくの、江藤さん」
「いや、だから……」
完全に勘違いされたソフィーに、ゼロはまたもや頭を横に振り。
「諦めろ。これはもらい事故だ」
と、告げた。
「いやぁぁぁぁっ!!」
イベントフィールドに今日1の雄叫びがこだましたとさ。




