第玖玖話 Reconciliation
「ブツブツブツブツ・・・・・・・・」
誠の姿の『あいつ』が、呟き続けている。全速力で駆け上がってきた時とは違い、考え事をしながら歩いて山道を下りていく。
「普通に殺しちゃつまらない。なるべく、苦しみを与える為には、やはり家族を・・・・・」
卑劣な事を考えている時は、歪んだ喜びが表情に満ち溢れている。端正な誠の顔がいびつに歪み、妖艶な美しさを放っている。
「人間が最も美しいのは、恐怖に恐れおののき、泣き叫び、許しを乞い、狂っていく様ですからねえ。
キッシシシシシュシシシシシシッ。」
広場で待つ小杖と福子の元に、子供を両脇に抱えた礼次と昭二が走ってくる。
「あれ?さっきの人達だ。でも様子が変だねえ。」
「イグジストの様子がさっきと違う。『あいつ』がいなくなってる。」
「じゃあ、敵じゃないんだね。」
「多分」
礼次が声をかけて来る。
「君たち。我々はもう敵ではない。あいつの呪縛は解かれた。だが、あいつがただで我々を自由にするはずは無い。何かを企んでいるはずだ。この世界を消してしまうとかな。」
深刻なリアクションを予想していたのだろうが、福子が返した返事は楽観的なものだった。
「ああ。それなら大丈夫だよ!
宗一郎さんはもうこの世界にはいないから。」
「本当か!」
小杖が答える。
「ええ。彼は『あいつ』が追い詰められたらそうしようとするんじゃないかって予想してた。」
「しかし、元の世界に戻る方法があるのか?」
「私の力。でも、あなたたちは無理。こちらの世界で致命傷を負ってしまった人は、元の世界に戻った瞬間に死んでしまうから。」
「そうか。あいつの実験台になった者ばかりだからな。」
昭二が言う。
「なら、なおさら『あいつ』は戻ってくるぞ。誠だけは実験台になっていない無傷だからな。この穴を通ることが出来れば、元の世界に戻れる。」
「急ごう。あいつが戻ってくる前に。たとえ、戻った途端に死ぬとしても、最後はトロメキで死にたい。」
索道の向こう側に『あいつ』の姿がある。
「おや?ロープが落ちていますね。倒れている人数も少なくなっています。
自由にはしてやりましたが、誰が逆らっていいと言いましたか!?」
血の気が引くほどの怒りを、無理やり笑顔で抑え込む。
「絶対にお前たちは殺しません。無限に続く苦しみを与えてあげます!」
もう奇声すら上げず、坂道を駆け下りていった。
それをそっと家の陰から昭二が見ているのだった。




