第陸壱話 Mirage
「とにかく来い!」
まともに動けなくなった礼次の腕を引っ張り、玄爺のいる森を目指す。
化け物は私たちに構わず、元のひょこひょこ歩きに戻って、村の中へと入って行く。
その隙に戦闘不能になった礼次を森に隠すつもりだった。だが、森から一人の男が駆け出してきた。
「栄作っ!!えいさくーーーーーっ!!!」
男は、大声で叫びながら化け物を追いかけて行った。
「健作か・・・」
放っておくわけにはいかない。森の入り口付近に礼次を残し、
「礼次を頼む!!」
と、森に声をかけ、急いで健作をおいかける。
「ひろみーーっ!博美もいるのか!!」
健作は歓喜の声を上げて化け物に駆け寄って行く。
化け物が立ち止まり、健作の方に向きかえる。
「まずい!!」
化け物に向って気弾を撃ち込みつつ、健作に駆け寄ろうとするが、化け物のどてっ腹に打ち込んだはずの気弾は、なんの手ごたえも無くすり抜けていった。まるで、実体がないかのようだった。
あっけに取られ足が止まる。すると化け物は先ほどのように地面を滑るように健作に近づくと、頭から齧り付き、健作が悲鳴を上げる暇もない内に飲み込んでしまった。
そして、じっとこちらを見ている。
「なんなんだこいつは・・・」
思考が追いつかないが、とにかく逃げよう。化け物から大急ぎで距離をとると、元の進行方向へ、ひょこひょこと歩き出したのだった。
気弾は通用しない。一部の人間には、あれがいなくなった子供に見えているらしい。あんなものと戦えるのだろうか。
怯む気持ちを、村長としての使命でねじ伏せ、距離を置いて化け物を監視する。
「首領様!なんです?あれは。」
昭二だ。私が距離を取った事で様子を身に来たようだ。
「お前には何に見える?」
「つぎはぎの化け物としか。」
「礼次もそうだったが、急に栄作だと言い出したんだ。」
「あれがですか?にわかには信じられませんね。」
誠も姿を現し、銃を構えて問う。
「追撃しますか?」
「いや。私の気弾は当たらなかった。あれは実体を持っていない可能性がある。」
「幻だっていうんですか?」
「全てが幻ではないが、全てが実体でもないと思う。いずれにせよ、様子が見たい。村人の避難は済んでいるのだろう?」
「はい。と言いたいところですが、恥ずかしながら、うちの子供たちが見つかっていません。」
「翔太と司か・・・。」
ある程度予想していた事だったが・・・
「うかつに近づかないといいがな。」




