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福見福子の最終定理 第1章 始まりの仮説  作者: 黙定六
始まりの仮説
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第陸弐話 Cruelty

 様子を見るといっても、健作がああなった以上、逃すわけにはいかない。

 昭二と誠は、引き続き距離をとって化け物を追い、私が接近を試みる。


 化け物は健作の家へと向っているようだった。再び背後から気弾を放ってみるが、今度も手ごたえ無く、擦り抜ける。しかし、健作は飲み込まれてしまったので、完全な幽体でないのは確かだ。何か攻撃する手立てを見つけなければならないだろう。


 一番、可能性が高かったのは礼次の能力だったのだが、今、前線に連れ出すのは危険極まりない。あと、玄爺の結界は恐らく効果があるだろう。村人の安全が確保されたら、あいつを捕らえる結界を張って貰う手はある。

 ただ、いかんせん、あまりにも謎の多すぎる敵だった。


 気になるのは、礼次も健作も、あれが栄作だと言っている事だ。あれが栄作の成れの果てだとしたら、何をどうしたらあんな事になるのだろう?存在自体が忘れ去られていた事も異常としか言いようが無い。


 ただ、攻撃されているのは間違いないのだ。なんとか食い止める手立てを考えなければならない。


 化け物は健作の家へと到着した。しかし、村人は全て森に避難しているので誰もいないはずだった。しかし、健作の妻の恵美子が森から走ってきたのだった。


「えいさくーーーーーっ!ひろみーーーーーーっ!!」


 健作同様に、自分の子供に見えているらしい。


「来るな!危険だ!!」


 大声で叫ぶが、恵美子には届かない。


 化け物が恵美子に振り返り、また、あの滑るような高速移動を始める。

 私は恵美子に駆け寄り、ありったけの結界を展開する。しかし、いとも簡単に化け物は私の結界をすり抜け、さらに恵美子をもすり抜けたように見えた。

 化け物がすり抜けて行った跡に、恵美子は影も形も残っていなかった。そして、私はとてつもない倦怠感に襲われていた。


「恵美子まで・・・。まるで、動くブラックホールだな。」


 少し息が上がっている。結界に使った気をごっそりと持っていかれたらしい。圧倒的な化け物の陰の気に、私の陽の気が飲み込まれるように掻き消されてしまったのだ。

 玄爺の使う逆陽の気なら、反発するかもしれない。だが、私の逆陽は未熟で、非常に弱々しいものだった。


 ただ、陰と陽が相殺するとき以上に、気を持っていかれた感じがする。なにか、底の無さを感じるのだ。涅槃寂静なら化け物の気を凌駕できるかも知れないが、一発打てば一週間は動けなくなる。確実に仕留められる時の為に取っておきたい。


 化け物は村の中心へ向けて、また、ひょこひょこと歩き出した。


 2人の村人を飲み込んだその姿を見ても、私の感情が沸き立つ事が無く、妙に醒めている事に気付き、戦慄を覚えるのだった。

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