第伍玖話 Alert
翌朝、教授は部屋からいなくなっていた。
夜の見張りを担当していた礼次によると、夜明け前に赤僧ヶ池の方へと出て行ったそうだ。教授には構うなと言ってあるので、そこから先の事は分からない。
朝から見張りを交代した誠は、庭に見慣れない草が生えている事に気付いた。草丈は膝下程度で、葉の形はナスに似ているのだが、葉にも茎にも、異様な鋭い棘がびっしり生えていた。
しかし、異様なのはそれだけでは無かった。その草は、近くで動いた虫などに反応して動くのだった。そして、うっすらと陰の気を帯びているのが分かった。
「いかがいたしましょう。首領様。」
報告を受けた私は悩んでいた。
こんなタイミングで見た事の無い、奇妙な植物が偶然生えるとは考えにくい。教授が何らかの形で関わっているのが間違いないだろう。だが、これは駆除すべきなのだろうか。
消えた村人を取り戻すためには、ある程度、事態を理解する必要がある。危険だからと言って、すぐに排除すれば、村人を救出できる可能性も潰してしまうかもしれないのだ。
もし、この場に教授がいたとしても、『どちらを選択させるか』に関心は示さないだろう。彼の興味は『どちらが選択されるか』であり、その結果、何が起こるのかを観察することにしかないのだ。
結果、私はこの草を見守る事に決めた。そして、それが重大な事態を引き起こしてしまうのだった。
「首領様、あれを。」
誠が空を指差すと、玄爺からの合図の煙が上がっていた。それも、黒い煙が三筋。
「ただ事ではないな。すぐに避難を指示してくれ。」
「わかりました!」
誠は緊急時のマニュアル通りに動き始める。
しばらくすると、半鐘の音が鳴り響き、村民たちは村の入り口付近へと集まってきた。
玄爺も姿を現す。
「首領様。見た事の無い大型の妖獣が、赤僧ヶ池の方から村へと向っております。」
「わかった。そちらは任せろ。玄爺は村民たちを。」
「はい。」
「みんなは玄爺の指示に従ってくれ。」
私が言うと、玄爺は皆を率いて森へ入っていく。予め避難場所が用意してあるのだ。
玄爺の結界を使ったトラップが張り巡らされており、玄爺のサポートがなければ侵入は困難だ。
昭二、誠、礼次の3人が集まってくる。
「全員の避難を確認しました。」
昭二だ。
「よし。では迎え撃つぞ。私と礼次がまず当たってみる。昭二と誠は周囲の警戒を頼む。
「わかりました!!」
礼次は私の前に立ち、妖獣を待ち構える。昭二と誠はこの場を離れていった。
グギィイェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!
聞いた事の無い獣の声が、山々に響き渡った。




