第伍漆話 Visitor
警戒を始めて3週間が経っていた。特に変わった事は起こらず、今日も翔太は草むしりの罰から逃げ回っていた。昭二から言われた1週間はとうに過ぎているのだが、逃げ回っていたためにまだ許されていないのだった。
「しょうがない奴だ。」
とため息をついていると、玄爺から合図の煙が上がる。誰かが村に入ってきたらしい。煙が白いので、普通に入り口から入ってきたようだ。事件との関わりはないだろう。
だが、わざわざこんなところに外部の人間が偶然やってくるなんてことはありえない。何か目的があるはずだ。
私は村の入り口まで出向かえる事にした。村へと坂を登ってくる男を見て考えを変える。
「おいおい。当たりかよ・・・。」
見覚えのある顔だったのだ。
男が村に到着する。
「久しいな。あんたがこんなところに出向くなんて何事だ?」
男は表情を変える事なく答える。
「研究対象がここにあるのが分かった。すぐに調査したい。」
「相変わらずだな。まあ、話を聞かせてくれ。」
男を自宅に案内する。案内する間、男は一言も発さなかった。
「で『教授』様は、何をお調べで?」
「虚数時空間の発生を確認している。」
「この『トロメキ』でか?」
「そうだ。お前も気付いているのだろう?何かが起きている事は。
村に結界を張って警戒しているのだからな。」
「ただ、虫が知らせただけだ。何が起こっているのか分かっているわけではない。」
「充分恐ろしい男だよ。お前は。
普通の人間に虚数時空間の出現を感知できたりはしない。
感づくだけでも異常なのだよ。実に興味深い。」
「虚数なんとかってのは、なんなんだ?
あんたは、『双子の世界理論』ってのを追いかけてたんじゃないのか?」
「こんな田舎に引っ込んでいる割によく知っているな。
おかげで『学派』でも異端視されている。
まあ、あんな奴ら、いくら集まったところで、烏合の衆に過ぎんがな。」
「研究とやらはどうか知らんが、もはや軍隊だろ。あれは。」
「私の関知することではない。だが、ただの権力機関だと考えている輩が台頭しているらしいな。」
「あんたは、それでいいのか?」
「証明が全てだ。それ以外に興味はない。」
「相変わらずだな。あんたは。」
「全ての出来事は記録されている出来事をなぞっているに過ぎない。私もその一部だ。
それを証明する。私にあるのは、ただ、それだけだ。」
「で、この村で何を証明するつもりだ?」
教授は縁側を指差して言う。
「ちょうど、その庭にヒビがあるようだ。この部屋を貸してもらいたい。
ここから観察する。」
「ヒビ?」
「『大結界』だよ。もう、かなりガタが来ている。あちこちヒビ割れだらけだ。
これが、他の世界との出入り口になる。」
「それがうちの庭にあって、そこから何かが出入りしているというのか?」
「まあ、平たく言うとそうなるな。ただ、虚数時空間は自然に発生するものではない。
ここで何が起きて、これから何が起きるのか観察したいのだ。」
「わかった。この部屋は好きに使ってくれ。」
そういって、私は部屋を出た。




