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福見福子の最終定理 第1章 始まりの仮説  作者: 黙定六
始まりの仮説
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第弐伍話 Exceptions

「とにかく急ぎましょう。福ちゃんを一人にしないほうがいい。」


 小杖が猛スピードで走り出す。トレイルランには自信があったのだが、一瞬で打ち砕かれた。とんでもない早さだ。俺はプライドを捨て、身体能力を上げるためフィトンチッドを大きく吸い込んだ。

 つくづく四十万は木属性にとっては天国だ。森林には事欠かない。しかし、その属性をフルに活用しても、小杖に着いて行くのがやっとだった。


 もしかして、3人の中で一番弱いのは俺なんじゃないだろうか。そんな事を考えながら、必死に追いすがる。


「この反応。間違いない。なんでこんなところにあいつらが。」


 小杖が顔をしかめる。


「どういうやつらなんだ?」


「『番外』よ。戦っても勝てる相手じゃない。」


 『番外』とは、遍路がルール違反をしないように見張っている審判のような存在だが、いろいろとやり方が荒っぽいという噂だ。番外の遍路は全て100番以上の守護数を持ち、戦闘力は一様に高い。その上、他の遍路の位置を知るレーダーのような仏具を持っていると言う話だ。

 番外は、学派の『人工的に遍路を生み出す実験』の成果だと言われている。過酷な実験の反動で、性格がぶっ壊れた奴ばかりらしい。

 そんな奴らに、福子一人で遭遇させるわけにはいかない。


「先に行く!!」


 ここまでは限界ギリギリだったが、ここからは限界を突破して行く。ペース配分は無視だ。


 俺の探知結界でもはっきりわかる距離まで来た。福子の反応もある。どちらも同じ場所でとまっている。まずい。すでに交戦しているのかもしれない。

 登り坂の終わりまであと少しだ。


「ふくこーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 叫ぶ事で体の最後のリミッターを外して登り切った。


が、体が固まってしまった。


 きょとんとする福子の前に跪く金髪の西洋人の男が、福子の手の甲に口付けしていた。


「なんじゃそりゃあーーーー!」


 すぐに小杖も追いついて来たが、その光景を見て顔をしかめる。


 西洋人の男は小杖に気付くと、


「やあ、プリンセス!またお会いしましたね。」


と言い、両手を広げて近付いて行く。この間、どうやら俺は眼中にないらしい。

 小杖は仕込み杖で地面に線を引くと


「その線から近づかないで。」


と冷淡に言い放った。


「随分と冷たいですねえ。私とあなたの仲じゃないですか。」


「初対面よ。」


 小杖は男を嫌っているが、面識はあるらしい。

 福子はその隙にコソコソと俺の影に隠れ、手の甲を俺の袖で拭いている。


「では、この素敵な出会いを祝して、お食事でもご一緒しませんか?」


 めげない男である。


「めでたくないの。」


 小杖はどこまでもそっけない。


「残念ですねえ。では個人的な感情は抜きにして、ビジネスのお話をしましょうか。」


 男の纏う空気が変わった。表情も鋭くなる。


「何か不正行為を目にしませんでしたか?一般人を使って情報収集をしている者がいるとの報告を受けているのです。何かご存知ありませんか。」


「・・・・・・・・」


 三人とも返事できなかった。


「ご存知のようですねえ。では、そちらの下男の方に話して貰いましょうか。」


と、俺をねめつける。


「下男なんかじゃないよ。仲間だもん。『同行』だってしてるし。」


 福子が少し怒った様子で言う。


「おや、あなたも遍路でしたか。それにしては、あまりにも頼りない。プリンセスとマドモアゼルの足元にも及ばないように感じるんですがねえ。」


「うぐっ!」


 さっき自問してたところだよ。そこは。痛いところを突かれて言い返せなかった。


「荷物持ちを連れて行くくらいは問題ないのですが、組織的に札所を探させたり、他の遍路の動向を探ったりと言うのは問題なんですよ。みなさんも、アンフェアな奴は排除したいと思いますよね。是非とも、ご協力を頂きたいのです。」


と、鷹揚にお辞儀までしてみせた。

 陣の事を言っているのは明らかだ。ただ『この世界』の陣は、そこまで悪いことをしたわけではない。それに、『偽浩二』の黒幕が二名(にみょう)の住人に手を出して来ないとも限らない。陣自身もあいつらにとって重要な存在だったのだ。司とともに健在でなければ、奴らの思うつぼだ。


「二名の町の陣の事か?」


 ストレートにぶつけてみる。


「やはり、知っていたのか。洗いざらい話せ。」


 ほんと、俺には偉そうな事、この上ない。


「ああ。遍路同士の戦いを挑まれたので、あっちの錫杖を持った子が倒した。止めは必要ないと思ったからそうしただけだ。その後、宿を借りた。それだけだ。」


「本当ですかマドモアゼル。」


 コロコロ態度が変わるのが気持ち悪い。多分、どっちも作りもんなんだろうな。


「そうだよ。それだけ。」


 福子が答える。福子は偽浩二がいた世界の出来事を覚えていないので、本心からそう思っている。


「プリンセスも同じ意見かい?」


「ええ、間違いない。」


「そうですか。お二人が言うなら信用いたしましょう。」


 どういう意味だ!


「ですが、調査は続けます。遍路ではないものが巡礼に介入しようとしているという報告も上がっています。お二人もお気をつけください。

 そうだ!こんな頼りない下男はクビにして、代わりに私が帯同いたしましょう。それがいい。」


 男の姿が消えた!

 その刹那、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。



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